Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    60_chu

    @60_chu

    雑食で雑多の節操なし。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 33

    60_chu

    ☆quiet follow

    #コウヒロ
    kouhiro.

    金木犀と五線譜 ごめんと謝る声が聞こえて顔をあげると、深緑色のジャケットをはためかせながらヒロが駆けてくるのが見えた。薔薇園にいたのだろう。僕の前で息を整えているヒロからほのかな薔薇の香りがする。ベンチの真後ろで咲いている金木犀の香りと混じる。僕は腰を浮かせて横にいざった。座ったヒロは脚をぶらぶらさせて横目で僕を窺うように見つめた。
    「待たせてごめん」
    「全然待ってないよ。僕もさっき来たところ」
     これは嘘で本当は少し、いや、だいぶ待ったかもしれない。でも、ヒロを待つ時間は苦痛でもなんでもなかった。今日はどんな話をしてどんなレッスンをしてどんな歌を歌おう。そればかりを考えていた。この瞬間を想いながら五線譜にシャープペンシルで書いて四小節分のメロディーを早く披露したくてたまらなかった。
    「嘘だね」
    「嘘じゃないよ」
    「本当に?」
     ヒロはにやりと見つめるとツンと顎をあげてもう一度嘘だぁと歌うように呟いた。
    「ほ、本当だよ」
    「だって、さっき来たのならそんなに頭の上に花が落ちてるはずないだろ」
     ヒロは右手で僕の髪を軽く撫でた。音もなく橙色の星屑みたいな花弁が僕の頭上からばらばら降ってきた。
    「あ」
     見上げると僕たちを隠すようにして咲く金木犀の枝が揺れていた。秋風が枝をゆすってまた花びらが雪のように落ちる。甘い香りにむせ返りそうだ。
    「ほら行こう」
     ヒロの手に引かれて僕は慌てて鞄を持ち上げた。脇に挟んだ五線譜からは金木犀の香りがした。

       了
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    60_chu

    DOODLE過去作

    Pと諸星きらりちゃん

    THEムッシュビ♂トさん(@monsiurbeat_2)の「大人しゅがきらりあむ」に寄稿させていただいた一篇の再録です。佐藤心、諸星きらり、夢見りあむの三人のイメージソングのEPと三篇の小説が収録された一枚+一冊です。私は諸星きらりちゃんの小説を担当しました。配信に合わせた再録となっております。
    ハロウィンのハピハピなきらりちゃんとPのお話になっております!よろし
    ゴーストはかく語りき シーツを被った小さな幽霊たちがオレンジと紫に染められた部屋を駆け回っている。きゃっきゃっとさんざめく声がそこにいるみんなの頬をほころばせた。目線の下から聞こえる楽しくてたまらないという笑い声をBGMに幽霊よりは大きな女の子たちは、モールやお菓子を手にパーティーの準備を続けているみたい。
     こら、危ないよ。まだ準備終わってないよ。
     そんな風に口々に注意する台詞もどこか甘やかで、叱ると言うよりは鬼ごっこに熱中し過ぎないように呼びかけているって感じ。
     あ、申し遅れました。私、おばけです。シーツではなくてハロウィンの。私にとっては今日はお盆のようなものなので、こうして「この世」に帰ってきて楽しんでいる人を眺めているんです。ここには素敵な女の子がたくさんいてとても素晴らしいですね。
    4787

    60_chu

    DOODLE過去作

    カヅヒロ
    シンデレラは12センチのナイキを履いて まるで二人にだけピストルの音が聞こえたみたいに、まるきり同じタイミングでカヅキとヒロは青信号が点滅し始めたスクランブル交差点に向かって走っていった。二人はガードレールを飛び越えてあっという間に人ごみに消えていく。さっき撮り終わった映像のラッシュを見ていた僕は一瞬何が起こったかわからなくてたじろいだ。
    「速水くん達どうしちゃったのかな?」
     僕の隣で一緒にラッシュを確かめていた監督もさっぱりだという風に頭を振って尋ねてくる。
    「シンデレラに靴を返しに行ったんですよ。ほら」
    はじめは何がなんだかわからなかったけれど、僕はすぐに二人が何をしに行ったのか理解した。
     赤信号に変わった後の大通りにはさっきまであった人ごみが嘘のように誰もおらず、車だけがひっきりなしに行き交っている。車の向こう側から切れ切れに見える二人はベビーカーと若い夫婦を囲んで楽しそうに話していた。ぺこぺこと頭を下げて恐縮しきっている夫婦を宥めるようにヒロが手を振った。その右手には赤いスニーカーが握られている。手のひらにすっぽりと収まるぐらい小さなサイズだ。カヅキがヒロの背を軽く押す。ヒロは照れたように微笑んで肩をすくめるとベビーカーの前に跪いた。赤ちゃんは落とした靴にぴったりの小さな足をばたつかせる。ヒロはその左足をうやうやしく包んで爪先からスニーカーを履かせていく。
    1230

    related works

    recommended works