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    pemon_nek

    @pemon_nek

    創作を描いています。腐向けも描きますがメインは親子愛です
    こちらに絵をあげることはほぼありません。Xやタイッツーで更新している「神さまズちゃんねる」シリーズの前日譚を拙い文章にしてまとめておく墓場です

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    pemon_nek

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    「神さまズちゃんねるシリーズ」の前日譚以下略

    #ファンタジー
    fantasy
    #神さまズちゃんねる
    #年上受け
    favorOfTheOlderGeneration
    #親子愛

    雷は空を昇る:非日常のはじまり












    「っ…」
    上がりそうになる声をとっさに抑えてテンゼロは体を固くさせた。意識を取り戻したテンゼロはまず、気絶したふりをしたまま自分の置かれている状況を把握することに努めた。
    自分は寝転がされている、感触からして土の上。あの森から移動させられたようだ。それから滞留した空気と不快な湿気、どこかで水が滴り落ち、それが反響している。どこかの室内、床が土であることからして洞窟と考えるのが妥当か。身動き一つしないでテンゼロは地面に近い方の片目をゆっくりと開いた。薄目で確認して見張りがいないことを確認し、正面は鉄格子とその先に土色の壁、やはり洞窟のようだ。自分はどこかの洞窟の牢屋の中に入れられているようだ。見張りがいないことの確認が取れたので、両目を開けると最小限の眼球と首の動きで牢屋や正面の壁などにカメラの類がないかを確認した。それもないようで、牢屋の中には自分以外はいない。現状、この場には自分しかおらず監視するものはない。
    そこまで確認が取れるとテンゼロは身体を起こした。先ほどの黒髪の男に殴られた後頭部がズキズキと痛む。痛みを我慢しながら身体の確認も済ます。服は着ているが身体中に仕込んでいた仕込みナイフなどの装備一式と通信機器がない。ただ幸いにもブーツの先端に仕込んである仕込みは生きているようだった。足に枷は付いていないが、手は後ろ手に拘束されている。手錠は関節を外して外せるほど緩くはないが軽い音からして鎖部分は細そうだ。聞き耳を立て、誰の存在もいないことを感じ取るとテンゼロは力を込め、手錠の鎖を引き千切った。小柄なテンゼロではあるが、この程度なら破壊は容易かった。自由になった手首を見て、やはり手錠本体を外すのは無理そうかと思い直す。それに下手に関節を外すと後々戦闘になった場合に響く可能性があるためあまり外す気になれなかった。

    (ここはあの森の近くの洞窟か…?通信で発見の報告が流れていたが…)

    周囲を見渡しながらテンゼロは思案した。ここがあの森の近くの洞窟かどうかは判断しかねるがとにかく脱出しなければならない。だが、テンゼロは少し気になる事があった。気絶する前に何か言っていた。確か、

    「…ヘルセム……」

    こちらを見ながら発言していたことを考えると人の名前だとするのが妥当だ。ただ、テンゼロには全く聞き覚えがない名前だったので人違いをされているのだろうが、テンゼロも自分で考えておかしいとは思うが、自分のような色素のない人間を他人と間違えるなんてことあるのだろうか。

    「!」

    誰かの話し声が聞こえる。見回りが戻ってきたようだ。テンゼロは気絶していた時と全く同じ格好で横たわり目を閉じる。後ろ手に手錠をかけられていたから、破壊した手錠を見られる心配はないだろう。足音が近づいてくる。一人ではない。

    「…異常ありません!捕虜は未だ気を失ったままのようです」
    「ああ?まーだ意識飛ばしてんのかよ。俺ぁ、軽ーく犬猫を撫でる程度にしか殴ってねーんだけどなぁ」

    おそらく目の前で見回りと思われる兵士とテンゼロを殴った男が会話をしている。気を失い、血もそこそこ流れている状況でよくもまあ犬猫を撫でる程度にしか殴ってないなどと言えるものだ、とテンゼロは思った。

    「ん?…おい人間、ヘルセムは気ぃ失ってるっつったよな?」
    「?は、はい!ご覧のと…」
    「意識戻ってんじゃねーか!!どこをどう見たら気を失ってるなんて嘘吐けんだてめぇはよお!!!」
    「!?っひいい!!」

    ガシャアン!!

    凄まじい破壊音と共にテンゼロの足元の方を何かが横切って背後の壁に衝突した。その少し後に岩の一部が崩れ落ちる音がする。何が横切ったのか理解する前に、テンゼロは腹部に強烈な痛みを感じると同時に吹き飛ばされる。岩壁に激突して地面に落ちると胃の内容物が押し出された。こうなっては狸寝入りなどしている場合ではない。瞼を開け、テンゼロは臨戦態勢に入った。ブーツに仕込んだナイフは切り札にしておきたいので、苦手ではあるが体術で対応するしかない。目の前には己を蹴り上げた男が少し離れた位置に立っていた。

    「クソが。ちゃんと縛っとけっつったよな?ヘルセムなら手錠くらい破壊できんだよ!この無能が!!」
    「がはっ!!」

    男が今度は見回りの兵士を蹴り飛ばす。壁に叩きつけられた見回りの兵士は当たりどころが悪かったらしくそのまま昏倒してしまった。男の背後に控えていた二人の兵士たちが怯む。ゴミを見るような目で気を失った兵士を一瞥すると男はテンゼロを改めて視界に入れた。男が最初に破壊したのは牢屋の出入り口だった。男は手錠の比ではない硬さの鉄格子を一撃で破壊し吹き飛ばしたようで、明らかに常人のそれではない。テンゼロの中で警鐘が大音量で流れる。この男は面と向かって相手にしてはいけない、本能的に理解した。だが、男は意に反して、あっさりとテンゼロに背を向けると兵士たちに声をかけて自分は早々に牢屋から出て行った。

    「…ま、今この場でお前を殺すつもりなんてねぇんだわ。……連れてけ」
    「は、はっ!!」

    背後にいた兵士たちがテンゼロを押さえつけようと入ってくる。テンゼロは大人しく連行され牢屋の外に出た。そして、その瞬間、兵士二人の鳩尾を的確に渾身の力で肘打ちすると二人同時に気絶させた。そして間髪入れず地面を強く蹴って飛び上がると、背を向けていた黒髪の男の首筋、頚動脈をブーツに仕込んでいたナイフで狙った。

    「…だから、この場でお前を殺すつもりはねぇって言ってんだろ。殺さねぇんだから、大人しくしてろや、殺すぞ?」

    …狙ったが、男にとってテンゼロの行動は想定内だったようで、ぎろりと睨まれたかと思った拍子には足首を捕まれ、逆に地面に叩きつけられた。後頭部の傷と相まって脳が大きく揺れる。視界がぐらつく。脳震盪を起こし動けないでいるテンゼロを頃合いとばかりにやってきたゾロゾロとやってきた兵士たちが引きずるようにして連行していく。





    連れて行かれた場所は円形に空洞となっている開けた場所だった。篝火が頼りなく空間の中央部分だけを照らし出している。その中央辺りに放り投げられたテンゼロは先にこの場に辿り着き、余裕の表情で足を組んで簡易的な木製の椅子に座る眼前の男と改めて対峙することとなった。武器もない、不意打ちも効かない、男以外にも背後には多くの兵士がいる状況ではテンゼロにはまともに戦う術がない。男の要求を待つよりほかなかった。

    「さてヘルセム、改めましてぇ。お会いできて光栄だ。まさかこんなドブみてぇに汚いところで戦ってるとは思わなかったけどなあ」

    男は椅子の肘置きで頬杖をつきながら何がおかしいのかケラケラと笑っている。そして、自身の眼前に抵抗する術もなく力なく座り込む全身真っ白で小柄な男のことをヘルセムだと認識していることは間違いないことをテンゼロは理解した。

    「…目的はなんだ?」

    テンゼロは不必要にこちらの情報を与えないように短い言葉で探りを入れる。

    「あ?目的って…お前、それマジで言ってる?目的なんて一つに決まってんだろ」

    男は何を言ってるんだこいつ、と言った表情でテンゼロを見下しながら目的を明言しない。男もこう言った交渉には慣れているのかもしれない。テンゼロが黙していると男は何か違和感を感じたようで眉をひそめた。

    「ああ…んん?なんかお前変だなぁ。なんつーか、馬鹿っぽい」
    「実際に馬鹿なもんでね。お前の目的がわからねーよ」

    埒が開かなそうなので、テンゼロは目的を言うように促した。そうすると男は合点がいったのか、ふはっと吹き出した。

    「いくら馬鹿でも、この状況でお前が目的をわからない?んなわけねーだろ、ヘルセム。わからねーんじゃなくて、”なんで狙われるのか覚えてねー”の間違いだろ」
    「……」
    「無言は肯定とみなーす!ギャハハ!やっぱりな!お前、記憶がねーんだな。…くくっ通りで馬鹿っぽいと思った。ぎゃははははははははははは!!」

    男は大笑いを始めた。テンゼロも兵士たちも置き去りにして洞窟内に男の品のない笑い声が反響する。テンゼロには言い返す言葉が出てこなかった。記憶がないのは事実だからだ。男がなぜ、テンゼロが記憶喪失だと知っていたのかはわからない。だが確かにテンゼロにはA.S.で働き始める前の記憶がない。子供の頃の記憶だからないだけだと思っていたので深く気にしたことがなかった。そして、それに伴って本名も覚えていない。ヘルセムという名前に聞き覚えがなく、引っ掛かりすら感じないのは確かであったが、それが自身の本名ではない、という証拠も示せない。男がテンゼロが記憶喪失のような状態であることを知っていることに驚いたこともあり、テンゼロはとっさに言葉が出てこなかった。反論できないでいると、一頻り笑っていた男が急に冷めてテンゼロを睨んだ。その視線にテンゼロは怯んだ。一瞬前まで大笑いをしていた男とは思えないほど、冷徹で冷静で鋭利な視線がテンゼロを突き刺した。品定めをするかのように男はヘルセムを下から上まで眺めている。

    「記憶がねーなら余計に都合がいい。ヘルセム、お前に選ばせてやる。この俺、ガレオン様に隷属しろ」
    「……は?隷属?何言ってんだ?意味がわからない、それをしてお前になんの利益がある?」
    「利益しかねーから言ってるに決まってんだろ、馬鹿が、そのくらい理解しろ。…だけどなぁお前のご主人様はお前がたいそう大切でなぁ。だからいつも大事に大事に囲って外に出さないようにしてやがったんだ。でも、今日この瞬間、お前は俺の前に現れた、そしてお前を隷属させられるだけの駒も用意ができてる!」
    「?」
    「ヘルセム、見ろよ、お前の大好きな人間たちだぁ」

    男─ガレオンの指差す方を見ると兵士たちが松明を掲げて広場にできていた一角の暗闇を照らし出した。そこにいたのは磔にされた兵士たち。皆、全身を棒に縛り付けられ、叫ばないように口を塞がれている。それだけでも異常な光景だったが、それを助長させていたのは。

    「なんでお前の味方まで磔になってんだ…?」
    「あ?俺に人間の味方なんかいねーよ、人間どもは全員もれなく道具だ。お前を隷属させるために必要な替えの効く道具だ」
    「は……?」

    ガレオンが目線で合図を出すと兵士たちが磔にされた自軍も敵軍も入り乱れた人質たちの口を封じていたテープを剥がす。途端に助けてくれ、家に帰らせてくれ、と言った悲痛な叫びが洞窟内に木霊した。だがガレオンは気に入らなかったのか黙れと吠えた。そうすると人質たちは一斉に静かになる。嗚咽だけが聞こえる。

    「だが、ヘルセムの記憶がない状態で完全に隷属させんのは流石に無理だな……。よし、ゲームだヘルセム」
    「げ、ゲーム?」
    「そう、なぁにルールは簡単だ!お前はヘルセムであることをこれから必死こいて思い出す!それだけだ、ただし制限時間は1分」
    「な!?なんだそれ!?俺がヘルセム?である確証もないのにか!?」
    「お前にはないかもしれんが、俺様にはお前がヘルセムだってことがわかんだよ。実物見て確証に変わったし、証拠はそれで十分。だから安心して思い出せよヘルセム」
    「くっ…!もし思い出せなかったらどうするんだ!?」
    「どうって1分過ぎたらこうなる」

    ガレオンが懐からダーツに似た真っ黒な矢じりのようなものを取り出す。そしてその矢先を磔にされた兵士に向けると一投。

    ブシュゥ…

    「ひ、ヒィいい!!!???」
    「うわぁああああ!!!」

    ダーツの矢は一人の人質の脳天を貫いた。途端に血飛沫が飛んで、そして全身から力が抜け人質が絶命したのだと知る。他の人質たちから絶叫に近い悲鳴が上がった。

    「1分経過するごとに思い出せなかったら、ペナルティとしてあそこにいる人間たちを一人ずつ殺すだけだ。どうだ、ドキドキしておもしれーだろ?」
    「…面白い?これが!?命を弄んで面白いだと!!??」
    「おーおー、なんかそれヘルセムっぽいな、ククク。人間大好きーなヘルセムっぽくていいぞー。その調子でヘルセムである事を思い出せ。早くしないとどんどん人間が”お前のせいで”死んでいくからな?それじゃあカウント開始ー」
    「くぅ…!!」

    ガレオンの目は嘘を言っていない。先ほどと同じダーツを魔法のごとくどこからともなく出現させると、くるくると指先で回しながら悠長に待っている。1分経過したら何かヘルセムに関連する質問を受けるか、ヘルセムである事を証明できるような事を言うか何か行動を起こさないとならないのだろう。そのためにテンゼロの手足は自由なままなのだ。テンゼロは怯えきった兵たちを見て視界から外した。目を閉じて、あらん限りで自分の過去を思い出そうと試みる。たとえ自分がヘルセムであってもなくても、"ヘルセム"であることを示さなければガレオンは諦めそうにない。そしてタイムリミットの1分が過ぎれば次の人質が殺されてしまう。
    だが、テンゼロには何が"ヘルセム"の証明になるのか想像もつかなかった。ヘルセムが何者なのか全くわからない。今までの情報でわかっていることは、

    ・ガレオンという常人とは思えない相手に隷属を求められる価値がある。
    ・隷属させられればガレオンには利益しかない利用価値の高さ。
    ・ヘルセムの記憶がなければ隷属させることはできない。
    ・そして現在、ヘルセムにはガレオン以外の主が存在している。

    それからテンゼロが気になったのが、ガレオンは兵士たちのことを"人間"とわざわざ呼び、己と区別しているフシがある。この場にはコウモリや苔のような動植物はなく、人間以外存在していない、はずだ。それなのに、なぜわざわざ人間などと呼称する必要がある?貶すつもりなら人間なんて呼ばなくてももっと下劣な呼び方はいくらでもあるだろうに。”人間が大好きなヘルセム”とヘルセムを呼ぶと言うことは、ガレオンやヘルセムは”人間以外の別の種族”なのか?それにガレオンにとっては味方であるはずの兵士まで人質に取り、今しがた殺害したのも自軍の兵士だ。デモンストレーションであるならテンゼロの味方を殺した方がより行動させやすくなると言うのに。それによく見ればテンゼロの周囲を囲む兵士たちにはテンゼロの味方も混じっているのだ。森林で見かけた兵士たちだ。つまりあの場はテンゼロだけが敵で、ほかは皆ガレオンの手先だったのだ。そして敵味方(理解した瞬間にテンゼロにとっては全員が敵だが)がガレオンを中心に入り乱れ恐怖で支配している状況はガレオンの異質さを際立たせている。本当に”別の種族”なのか…?テンゼロが思考している間に無情な声がかかる。

    「はい1分経過〜。さぁてお待ちかね、ヘルセムくんなにか思い出せましたか〜?」
    「ぐ…!」

    だが、確定させるには情報が少なすぎる。ヘルセムが利用価値の高い人物であることは間違いないがテンゼロには全く記憶がない。そもそも知っているのかさえわからない。

    「残念、思い出せなかったみたいなので〜…二人目ぇ!ヒャハッ!!」
    「ぎゃあ!っ………」
    「あっ…!」

    ガレオンが容赦なく2投目のダーツを投げた。テンゼロの味方だった兵が絶命する。人質の恐怖が、混乱が、増していく。”なんで?””こんなはずでは…””騙された””死にたくない”、そういった小さい悲鳴がテンゼロの耳に届く。内容からして人質にされているものたちはガレオンの手先のものたちだろう。それが今ではゲームの的当てにされている。皆一様に恐怖し、ガレオンの猟奇的な行動に涙を零し、呼吸を乱している。ガレオンはその様子を見ても気にも留めず暇そうにダーツの狙いを定めている。

    「ヘルセム真面目に考えねーと人間がたくさん死んじゃうよ?いいの〜?」
    「よくねーよ!隷属でも何でもしてやるから、人質を解放しろ!」
    「やだね、ヘルセムの言葉じゃなきゃ信じらんねーよ」
    「だ、だったら!だったら思い出せるようにもう少し情報をくれよ!?」
    「は〜?やだね、俺様はお前のこと嫌いだし。てめぇで考えろ」
    「クソ野郎が…!」
    「はっ、お口の悪い子ですねぇ〜。そういってる間も次のカウントダウンは始まってるんだぜ〜?いいのかなぁ??」
    「うるせぇ!そんなことわかってる!!」

    テンゼロは苛立ちながら推測する。やはり、ガレオンは自分自身とヘルセムを、人間と明確に区別している。ヘルセムを嫌っているようだが、人間とは別物として扱うということは、”人間”と言うのは兵士たちを蔑むための呼び方ではない。だが仮にそうだとしてそれが一体何を意味するのかがわからない。この世に人間の形をした別の種族なんて者がいるのか?テンゼロは困惑した。物語の中になら幽霊とか魔物とか、宗教なら神とか天使とか悪魔とか存在するのかもしれないが、そんなもの所詮おとぎ話、架空の存在だ。それだって作者や語り部の想像上の姿でしかなく、人間の形をした別種族なんて者がいるなんてテンゼロは見たことも聞いたこともなかった。

    「1分経過ぁ、3人目っと」
    「っ!!……………」
    「あ、……」

    また一人、人質が殺された。目の前で繰り広げられる異常なゲームにテンゼロは絶句した。悲鳴が上がる。それをガレオンが怒鳴って黙らせる。テンゼロは自分が震えていると気づいた。
    怖い。
    この空間は、狂っている。一人の素性の知れない男が笑いながら人間を殺している。戦争では人殺しは当たり前だ、自分が殺さなければ自分が殺されるから。でも、この場は違う。ガレオンという男が、全てを…テンゼロも他の兵士も戦況も感情さえも掌握して”ヘルセム”という存在するかも怪しい人物を隷属させるための殺戮を繰り返している。命のやり取りをゲームなどという軽い言葉に置き換えて、本当にゲームのように人を殺していく。
    「あれ?ヘルセムくん、さっきからだんまりだねぇ?思い出せないなら殺しちゃお〜。ええっと、これで何人目だっけ?ハハッ忘れちまったから1人目からやり直し〜。い〜ち!」
    「!…………」
    「………」

    テンゼロは言葉を失い思考が停止していかけていた。現状を打破しなければ人が無抵抗のまま殺されていくのに、脳が、身体が反応しない。失っている記憶は都合よく戻ってはこない。今の今まで考えてこなかったツケが回ってきてしまった、そのせいで12人目の人質が殺された。人質はどこか別の牢屋にくくりつけていたのか減るたびに兵士たちが補充していく。その兵士たちも恐怖に慄き、不安定な洞窟の地形に躓く有様だ。ガレオンが支配するこの空間は阿鼻叫喚の絵図になっていた。テンゼロへの罵声も響く。ガレオンは少し前からそれらを止めなくなった。人質たちが泣き叫んでもどうでもよくなったようだった。

    「……はぁ、ただ人間殺しても面白くねぇなぁ…おい、ヘルセムぅ!お前、何ぼさっとしてんだよ!俺を愉しませろ、さっさとてめぇ自身を思い出せよ。それともあれかぁ?お前はご主人様の”カゴ”がなけりゃあ、戦うこともできねぇ弱々の羽虫くんなのかな?」
    「………………カゴ…?」
    「はい、時間切れ。にぃ〜っと」

    ダーツが飛ぶ、人の命が散る。叫び声がこだまする。
    そんな中、テンゼロは停止しかけていた思考に引っかかりのある言葉を認識した。”カゴ”。イントネーションからして”加護”だと思われる。加護、意味は神が慈悲の力で、人間を助け守ること…。確かに宗教はこの世にごまんと存在する。テンゼロが暮らす軍事国家のコンバハットにも宗教は存在する。軍事国家らしく、軍神を主神とする…名前は忘れたが、宗派の教会がA.S.の本部からそう遠くないところに建っている。A.S.内にもその宗教を信仰する隊員がいることを知っている。テンゼロは宗教に興味がなかったから信仰していなかったが、ガレオンはコンバハットに伝わる軍神の加護のことを言っているのだろうか?テンゼロのことを(正確にはテンゼロの本名らしいヘルセムのことだが)知っているくらいだからその軍神の加護がどうのこうの、とでも言いたいのかもしれない。

    「…加護?それは神の加護か?だとしたら神なんてくそったれだ。本当に神がいるなら今この状況を、どうにかしてるはずだ」
    「ほ〜ん…お前、そんな口きけるんだこれは驚いた。記憶がねぇってのは恐ろしいもんだなっと…」
    「?」

    ダーツを投げる前のガレオンの言葉は引っかかる。こんな凄惨な状況を救わずして何が神か、と悪態をついたテンゼロに対してのガレオンの言葉。テンゼロを仮にヘルセムと仮定してヘルセムが神に文句を言うことはおかしい?つまりヘルセムであれば決して言わない悪態だったということのようだ。そして、ヘルセムはおそらく人間ではない、何か別の種族…。
    ………………まさか。まさか?
    テンゼロは混乱した。自分が弾き出した答えを口から吐き出しそうになるところを、両手で口を覆って寸前で止めた。

    ”ヘルセム”は、神、ないしはそれに類するもの。

    衰弱し始めていたテンゼロの脳裏に過ぎった答えはあまりにも馬鹿らしい荒唐無稽なものだった。子どもの空想みたいな結論をテンゼロの脳みそは導いてしまった。
    そんなわけがない。そうしたらテンゼロ自身が人間ではない、ということになってしまうし何より神なんてもの存在しない。それらは人間が心の寄る辺に作り出した幻想でしかない。
    そんな幻のために13人もの人質を無残に死なせてしまったのか。テンゼロは動揺が隠せなかった。この現状に耐えられなくて現実逃避をしているだけだ。テンゼロはかぶりを振って必死にヘルセムは神、などという甘すぎる考えを打ち払おうとした。

    「百面相して何考えてんのか知らんが、時間はどんどん過ぎていくぞヘルセム〜。俺様達と違って人間は短〜い命なんだからさぁ」

    …やはりガレオンとヘルセムは人間と決定的に種族が違う。少なくともヘルセムたちは人間よりずっと長命の種族のようだ。ますます人間ではなくなっていく。でも、そんなことが…。
    テンゼロは信じられないでいる。この世に人間以外の人間によく似た姿の生き物がいるだなんて信じられない。全て空想上の存在のはずだろう?
    テンゼロは、己を信じられないまま目の前で4人ほどが死んでいくのを何もできずに見つめていた。ガレオンはダーツにすら飽きてきたのか一撃で殺すことをやめ、人質に何本かのダーツを突き立て人質を苦しめてから殺す方法に切り替えていた。惨すぎる状況だった。早く止めなければならない。テンゼロは決断しなければならなかった。でも、何を?
    幼稚な考えで、自分が神のようなものである、と声高らかに叫べばいいのか?
    魔法でも使えばいいのか?
    神の加護でも披露して人質を全員救えとか?
    こうして行動することを恐れて何もしないでいる間にも人が死んでいく、自分のせいで。きっとそう遠くないうちに人質は皆殺しにされるだろう。もしかしたら今は自由に動ける兵士たちも殺されるかもしれない。テンゼロが何もしなくとも、行動を間違えても全員殺される。しかしテンゼロには単騎で武力で今の状況を打開する術がない。ガレオンに恐怖という洗脳に近い支配を受ける兵士たちが、戦闘力で圧倒的に劣勢なテンゼロに味方するともとても考えられない。仮に味方したとしてもガレオンの前に正常な意識で立ち向かえるとも思えない。
    それなら、いずれ辿り着くのは全滅だ──



    ……………………………だったら自分が、コンマ1以下の可能性しかない大博打をかけても0よりはマシだろう。
    テンゼロは覚悟を決めた。一度目を閉じ、肺に溜まった二酸化炭素をゆっくりと吐き出して、一瞬だけ息を止めて。酸素を吸うのと同時に瞼を開いた。瞳には十字が浮かび上がっていた。
    テンゼロは視線を腕を上げている…松明を掲げる兵士の腕に向けた。そこには予想通り、腕を上げたことで露出した腕時計がある。そしてテンゼロの方向に文字盤が向いていた。常人には到底読めない小さな数字と針がテンゼロにははっきりと確認できた。現在の時刻を確認して、そしておとぎ話のような推測から一世一代とも言うべき賭けに出た。

    「…今からだいたい15分後、大雨が降る、雷も鳴るだろう。外は荒れるぞ」
    「……それがヘルセムの記憶の証明?」

    自分でも無理がある自覚はあった。現代ではテレビや新聞の天気予報で簡単に知ることのできる情報だが、大昔の人間は天候を占いで読んでいた。科学の発展していなかった昔は天気は神が決めるものと考えられていたからだ。そして、今この場に天気情報を知る手段は存在しない。外に出て空を見上げるか、本営に連絡すれば予測は立てられるだろうが、ガレオンがどこの軍にも所属してないことは明白だ。通信機器の類を身につけていない今のガレオンに天気は予測できないだろう。そして、テンゼロは森林で事前に今後の天候を予測していた。あと15分ほどで予測の2時間が経過する。雨が降り始めてもおかしくない状況になっているはずなのだ。ただこの博打は、現状ですでに雨が降っている可能性、この洞窟が実は森林から大きく離れている可能性、予測通り雨が降らない可能性など、とにかく不確定要素しかなかった。しかし、逃げ場がない以上賭けるしかない。ガレオンが乗ってこなければそもそも成立すらしないが…。

    「いいぜ、15分後に雷雨があるんだろう?おーい誰か見てこいよ。そのまま逃げたら殺すからちゃーんと俺様に報告しろよ?そんでもってもし、きっかり15分後に雷が鳴らなかったら、」

    今時の手品の方がよほど魔法であるかのように見える程度には幼稚な提案であったために、ガレオンの興味を引けること自体が最大の賭けに近かったが、ガレオンは乗ってきた。まず一つ目の賭けにテンゼロは勝てた。だが、続く言葉にテンゼロの緊張の糸は切れない。一つ目の賭けに勝てただけだ。

    「この場にいる全員を殺す。磔の奴らもそこら辺の人間も全員、四肢を叩き潰してから頭を潰す。そしてぇ、最後はヘルセム、お前も殺す。役に立つならお前を隷属させるが、そうでなければ生きていられると目障りだからな。お前は死ににくいから、しっかりと念入りに磨り潰して殺してやるよ。だからまずはお前のせいで人間が死ぬ様をよぉく見えとけ。…ククク、15分後が愉しみだなヘルセム」
    「……………」

    これでテンゼロがヘルセムであることの証明が果たせなければ、全員の死が確定した。どちらにせよ全滅は免れない状況ではあったからもう結果は関係ない。ただ、何も行動しないでむざむざと命を失う後悔だけはしたくなかった。そして可能ならば、自身が行動することでこの場にいる人たちがコンマ以下の確率であっても生きて故郷へ帰れる可能性を作りたかった。これはテンゼロの本心だった。敵味方関係なく、これ以上死人が出て欲しくない。殺されていいはずがない。絶望的な状況ではあるが、一縷の望みに賭けてテンゼロは生まれて初めて神に祈った。座して死を待つだけなんて耐えられなかった。

    (神でも天使でも悪魔でもなんでも良い!とにかく、こいつらを助けてくれ…今まで祈らなかったことは謝る!だから、頼む…俺のためなんかに虫を潰すように人が殺されてたまるか…!!)

    テンゼロは必死で祈った。もうどうしようもなくて、一刻一刻を祈りにひたすら捧げた。どうかどうか…。藁にもすがる想いだった。








    「ほ、報告いたします!雨は…雨は、降って……きませんでしたぁ…」

    15分後、震える兵士の報告でこの場全員の拷問からの死刑が確定した。テンゼロの願いは誰にも届きはしなかった。テンゼロにこれまで以上に暴言が浴びせられる。当たり前だ、15分後に雨が降るんだという天気予報を見れば子どもでもわかるようなことを突然言い出した挙句、雨は降らなかったのだから。テンゼロは罵詈雑言と悲鳴と絶望の叫びを一身に受け止めながら、地面に座り込んで祈るために握っていた手を緩めた。……神なんて存在しないじゃあないか。

    「報告ご苦労さん、お前はちゃんと仕事したから楽に殺してやるよ」
    「ギ!?」

    グシャッ

    人間の潰れる音。テンゼロの目の前で外に天気を確認しに行っていた兵士が、テンゼロを殴打したバッドのような棒──ではなく実際は棍棒であった──で頭を一撃で跡形もなく潰された。中身が粘着質な音を立てて飛散する。ガレオンの力は人間離れしすぎている。人間の頭蓋骨を棍棒で、それも一撃で潰すだなんて技術以前に腕力として不可能に近い。ガレオンは特別体格に恵まれた身体でもないのにあの力は異様なものだ。

    「さぁて次はこっちかなぁ」
    「ひ、ヒイイイイイ!!!!???来るな来るな来るなぁぁああああ!!!!!!!」
    「そんなに情熱的に拒否されたら、さっさと殺してやりたくなっちゃうなぁ〜、あーあーだめだだめだ、やめてくれよ〜。ヘルセムにてめぇらの悲鳴を聞かせてやるって決めてんだからサ…」
    「ぎ、ぎゃあああああああ!!!!!!!!!!!痛い痛い痛い痛いイタイ!!!!!やめて殺さな」
    「あ、悪りぃ!やっぱり興奮して殺しちまったわヒャハッ失敗したわ〜」

    ガレオンは実に楽しそうに、無邪気に、邪悪な棍棒を振り回している。自由な兵士たちは洞窟の外へ逃げようと走るが、洞窟の外へと続く何もないはずの通路にぶつかって仰向けに倒れた。

    「全員殺すって言ったんだから全員逃すわけねぇだろ。そこで大人しくしてろ、順番に痛めつけてから殺してやるからよ〜」

    ガレオンは血液の滴る棍棒を肩に担ぎ、遺体に片足を乗せながら通路近くで転んでいた兵士たちに笑いかけた。棍棒は鮮血で真っ赤に染まり、ガレオン自身も返り血を全身に浴びている。顔から滴る血液を雑に袖で拭うと遺体の衣服でブーツの先に付着した血液と体液を拭って棍棒を再び構えた。よく見るとその棍棒はただの棒を武器としたものではなく、あちこちに金属や高級そうな生地での装飾が施されていて、突貫で用意した武器などではないことに気づいた。あれこそがガレオンの得物だ。ガレオンの蹂躙がどんな戦場よりも惨たらしく、慈悲などなく非現実的で、あの棍棒で殴られた痛みがトラウマのようにぶり返して力なく座っていたテンゼロだったが震える脚を思い切り叩いて地面を蹴った。戦闘においてここまでの恐怖を感じたことがなかった。だが、せめて一人でも人質を逃さなくてはならない。ガレオンと直接戦うなんて無謀以外の何物でもなかったが、こうなったのは自らの責任だ。その責任は果たさなければ。
    あの日、性暴力を受け泣いていたミストへ何の責任も果たせず、罪悪感だけ残って何もしてやれなかった。
    だからせめて、この場にいる人間だけには何か責任を果たさなけれならないとテンゼロは思っていた。自己満足の罪滅ぼしでいい、だから誰か一人でも生き残って欲しい。もう、誰かを傷つけたくない。
    ズキズキと痛む後頭部とガレオンへの恐怖を抱えたまま、テンゼロはまともな装備もなしにガレオンへ特攻した。今度は”犬猫を撫でるような威力”では殴られないだろう。一撃でも当たれば先に待っているのは、死、のみだ。理解していたが、テンゼロはガレオンへ立ち向かった。テンゼロの気配に気づいたガレオンが振り下ろしかけていた棍棒の動きを止め、視線をテンゼロに向けた。視線が交差した刹那、互いの殺意が互いを抉った。それでもテンゼロは引かなかった。ガレオンが振り上げた棍棒をすんでのところで躱す。棍棒は空気を切ったが風圧でテンゼロの頰は切れ、血が舞った。そして次にテンゼロが蹴りをガレオンの側頭部目掛けて放つ。ガレオンは横目にそれを捉えて、最小限の動きで避けると足首を掴もうとした。テンゼロは体を空中で捻り、それを回避する。一旦着地して、下段からガレオンの顎を仕込みナイフで狙う。それに反応してガレオンは棍棒ではなく、拳で応えてきた。狙いはナイフではなく脚の骨の方だ。振り上げるより振り下ろす力の方が威力は高く速度もある。完全に不利な体制だった。回避できないと瞬時に判断して最小限で受けようとテンゼロが身構えた瞬間、洞窟内に轟音が響き渡った。それで一瞬の隙を突いたテンゼロはガレオンと距離をとった。ガレオンも同じ考えだったようだ。お互いが距離を取ると、もう一度先ほどよりさらに大きな轟音が地面を揺らしながら響いた。

    「これは…雷の音…?それに雨の音もする……」

    テンゼロたちの耳に届いた轟音は落雷の音だ。すぐ近くで落ちたようで洞窟の地面すらも揺らしたようだった。遅れて微かに雨の匂いがテンゼロの鼻腔に届いた。テンゼロたちの居場所は洞窟のどの辺りに位置しているのかは不明瞭だが、外は相当大荒れになっている様子だ。いや、今はそれよりテンゼロには言うべきことがある。予定時刻からは遅れてしまったが見事に大雨となった。これでヘルセムの証明に……。と、思ってガレオンを見るとガレオンの顔面から先程までの猟奇的な笑みがなくなりそれどころか顔を青ざめさせている。そして震えた声でガレオンはテンゼロを指差しながらヒステリックに叫んだ。

    「て、てめぇ!ヘルセム!!!!!記憶がねーとか言って…!!お前、”感覚共有”をしてやがったな!!!???俺様を騙したな!!!!!!!!!!????????てめぇ、記憶がないフリをしてあいつを呼ぶ時間稼ぎをしてたのか!!!!!くそ!!!!!!!これじゃあ…!あ…………」

    突然喚きだしたガレオンの言葉は最後まで紡がれることはなく、テンゼロの両脇を何かがかすめていってそして、ガレオンの身体は激しい衝突音とともに洞窟の壁に打ち付けられた。ガレオン両の手のひらに白刃のナイフが深々と突き刺さっている。

    「…ヘルセムには貴様を騙せるほどの狡猾さはない。これは証拠も消さずに不審な行動取った、貴様の愚かさの結果だ、ガレオン」

    テンゼロの背後から落ち着いた低音が聞こえる。その瞬間、地獄絵図と化してた空間が水を打ったように静かになる。恐怖の発生源であったガレオンが身動きが取れなくなったからだろうか。背後に聞こえた声の主はそのままテンゼロの前まで歩を進め足を止めた。それから振り返るとテンゼロを一瞥した。テンゼロを頭の先からつま先まで観察するように見つめる瞳に敵意は宿っていない。それどころか感情の一つも読めない瞳をしていた。狂気的に笑うガレオンとは別種の恐ろしさのある背の高い男だ。毛先に行くほど濃い青色になる青髪を持ち、右目に眼帯をしたポニーテールの男は数秒ほどの観察を終えると、テンゼロに何を言うでもなく、ガレオンに向き直った。ガレオンの元へ歩を進める男の周りには鎖が浮いている。男の動きを邪魔するわけではなく、男の動きに合わせて意思でもあるかのように男の周囲を移動しながら鎖は浮いていた。ガレオンのことを知っているということはこの男もまた、人間ではない何かなのだろう、テンゼロは警戒を緩めない。

    「貴様をあの場で斃さなかったことは間違いであったと思ったものだが、結果的に貴様の不審な行動のおかげでヘルセムを見つけられた。その点にだけは感謝をしようガレオン」
    「何が感謝だ!!てめぇに感謝される筋合いはねぇんだよイクサガミ!!!!てめぇは裏切りもんだ!!世界を乗っ取ろうって…がはっ」
    「そうか、それは初めて聞いた話だ。それで俺はお前たちにとって唾棄すべき存在というわけか。被害妄想も大概にしろ」

    壁に打ち付けられて身動きが取れないガレオンに青髪の男は、散々に喚くガレオンの話の要点のみを聞き出すと、もう十分だとばかりに、羽織っていたマントの中から槍を取り出した。鎖を浮かせたり自分の背丈よりも長い槍をマントの中から取り出したりと、もはやなんでもありである。そして黄金に輝き穂先が熱で赤白く燃える槍で躊躇なくガレオンの心臓部を串刺した。悲鳴もあげられないままガレオンは絶命し、そして黒い光のような粒子になって霧散した。

    光が完全になくなると男はテンゼロに向き直った。男の装束は見たことのない軍服だった。ただ纏うマントや装飾を見るにかなり階級の高い軍人であることは間違いなさそうだ。そして、あのガレオンを一撃で殺してしまうほどの力を持っている。それが今度はテンゼロを捉えた。

    「…この場合、”久しい”とでも言えばいいか。久しいな、ヘルセム。お前を探していた」

    (こいつも俺を”ヘルセム”だと思ってるのかよ!!!)

    テンゼロは臨戦態勢をとらざるを得なかった。



    (続く)
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    Replies from the creator

    pemon_nek

    DOODLEXに投稿中の「神さまズちゃんねる」シリーズの前日譚(?)のようなもの。クソ長いのでごくまれーに更新します、多分。
    ヘルセムやミストたちが戦い、戦神が「箱庭」と呼ばれるこの世界を統治するまでの話。
    ほぼ恋愛要素はなし。ファンタジー重視。アダルトは後半にあるかないか程度。親子愛が中心です。
    雷は空を昇る:日常軍事国家・コンバハットに本拠地を構える民間軍事機関、アーマーシェルド略してA.S.は数年前に終結した大陸全土を巻き込んだ大戦の残り火で今日も潤っている。全隊員、職員に衣食住を担保し、給料も大陸全土を見渡しても高水準で、それでいながら大抵の志望者を雇用する。兵役から生きて帰ってこられた者の大半は食や家を失っていたから実に良い就職先なのだ。それにコンバハット国は大陸の北に位置する1年の半分以上が冬、という極寒の地であり、暖を取る家がない、ということは死と同義だった。今回の戦争で元から大きかった貧富の差は更に広がり、持たざる者たちは死ぬかなりふり構わず生きるか、どちらかを迫られていた。それゆえ戦争で恩恵を受けていたという嫌味な側面があっても、衣食住の揃ったA.S.は国民たちにとって魅惑的であった。
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