Don't look「お前の新しい生徒、すげぇ美人だよな」
ロッカールームでの休憩中に同僚がそう話しかけてきた。首にかけたタオルで顔を拭きながら考えてみる。嬉しいことに最近は新規のお客が多いから、特定の誰かを思い浮かべることはできなかった。
「そうだっけ?」
「おいおい、生徒の顔くらい覚えろよ」
「覚えてるよ。あれじゃね、お前と俺の好みが違うんだろ」
「ああ……」
坊主頭の男は鼻をフンと鳴らした。何だ、腹が立つ反応しやがって。
「お前の好みはアジア系だもんな」
「何だよそれ」
タオルを足元のバスケットに放り投げる。
口ではそう言ったが、そっちには心当たりがあった。オレと関わりがあって誰かが揶揄ってきそうなアジア人なんて今は一人しかいない。あれは好みでも何でもないが。
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