むし 「っあ」
出すつもりのなかったような軽い声がアーサーから聞こえる。白い手元を見れば、城のてっぺんに挿し込むであろう旗が、棒と布のパーツに別れていた。集中して力を入れすぎたんだろう。
アーサーはいま虫になっている。文字通りではない。喩えだ。本の虫になる、なんて言葉を改変したら、今のアーサーはプラモデルの虫になっている。
桜備が出動の終わり際、アーサーへの献上品として用意した城のプラモデルにアーサーは食いついて、ここ数日の勤務時間以外、寝食以外の時間を虫になって過ごした。
そんな姿を同室のシンラは見ていた。パーツの広げられた机にはシンラが頬杖をつく程度の隙間しかない。逆にそこを確保させてもらえるだけまだ塵のような良心の表れか、とさえ思えた。
虫。アーサーは虫になっている。髪が金色でどこにいても目立つから、まるで蜂みたいだと思う。どの蜂だろう。鎮魂はプラズマの剣で行う。ほとんどの焔ビトは一撃で解放される。
鋭く、貫いて、寄せ付けないように払う。
雀蜂の類に思えた。
「っぁ」
聞こえた声でさっきのばらけた旗を思い出した。
汗が滲む額は妙に熱っぽく感じて、冷たい感覚を求める様にシンラは顔を動かしてアーサーの胸元に置いた。バクバクと早い鼓動が耳に伝わってくる。自分の心臓の音なのかアーサーの音なのか、はっきり聞き分けられる自信と余裕はなかった。
じっとりと表皮に浮かんだ汗を払うように腰を前に突き出せば、さっき声を上げた口はきゅっと閉じられる。代わりとばかりに金髪がぱらぱらと左右に揺れて、枕のしわのあいだに挟まった。
セックスでのアーサーは静かだ。いや、虫になっている時のアーサーも大分静かだけれども。
ただ、やけに早くなる心臓の鼓動とか、首に浮かんでいる汗を舐めたらちょっと甘い感じがするのとか。そういうのはこんなに近付いてみないと分からない。
小さな動物は心臓の脈打つ速さが早いという。それでいて出ている体液が甘いなら、蜂なら何の種類に当てはまるだろう。
蜜蜂はそんなイメージだ。
ぶんぶんと口で擬音を放つアーサーを想像したら、思わず吹き出してしまった。そんなシンラの脇腹に向けて、アーサーのくるぶしが思い切りぶつけられる。
「考え事するな」
眉を寄せて勝気に視線を向けてくるアーサーを見て、シンラは謝罪の意味も込めて頬にキスする。
「お前がむしするのが悪いんだよ」
「無視?無視なんかしてない、 むぐ」
ついでに、口にもした。