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    MEAIJM0123

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    MEAIJM0123

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    久々にコンテンツ覗いたらデュエットしてて気が狂った

    終末「死ぬときにあったけーベッドの上だとか期待してなかったし」
     土埃で頬が汚れた帝統がそう言って小刻みに震えるのを見て、独歩はそりゃそうかと溜息を吐いた。
    寧ろふたり、土に還りやすい地面に寝転がっていた方がよっぽど夢見がいい。そう、毎日の残業やクレーム、上司からの追加作業指示。
     今となってはそれらを思い出すのも億劫で、またそれを口に出すほどの体力もない。乾いた口内がどんどんと気力と思い出と生気を奪っていくのが分かった。隣で寝転がっている帝統もきっとそうだろうと、独歩は勝手に決めつけた。
     世界は滅んだ。
     たった一言それが事実だ。
     今、俺たちはヒプノシスマイクを持ってはいないし、国を統べていた言の葉党だとか政治だとか、そもそも国という概念が木っ端みじんに破壊された。
     何で破壊されたんだろうという疑問は自然と頭に浮かばなかった。きっと今を生きるのが精一杯だからだ、うん、そういうことにしよう。
    「俺の最期を看取るのがあんたとか、この世の中やっぱ救えねーよな」
     ざらっと砂の上を衣服が転がる音がする。真上に向けた顔はそのままに、視線だけを音の方へと投げれば帝統はこちらを向いて肘をついて体を持ち上げていた。
     出会った頃からずっと細いと思っていた手首はもはや骨と皮ぐらいしか残っていない。そういえばギャンブルに敗けて新宿の公園に寝転がっていた彼を運んだときは死ぬほど重いと感じたけれど、今同じ状況になったら片手で持ち上げられるほど軽いんだろう。
     あれだけ憎かった人間も、もう死んでしまうんだと考えたら少しは愛着も沸く。
     とはいえ、発言全てに愛着があるわけではない。
    「ひどいな……。俺は……君でよかったと、思ってるけど」
    「ばーか。誰がおっさんの最期なんか看取るかよ」
     べっと出された血の気の引いた舌にごくりと独歩の喉が鳴る。それは、この乾きの中にあって少しでも水分を孕んでいる物質を見たからか、それとも目の前の男がしっかり生きている証明になる体液を見たからなのか、もう判断は付かなかった。
     ゆっくり顔を寄せてその舌を舐めれば、砂利の味が濃い。それでも舌の腹を擦り合わせて必死に水分を強請った。あの夜にしたゲロ塗れのキスより数倍美味しいと感じる。
    「おひ、がっふくな、っぁ」
     引こうとする体、細い手首を両手で握りしめたところで、視界にはいる自分の手が見えた。骨ばって皮だらけ。石で切れたんだろうか、細かい擦傷で血が茶色く滲んでいた。
     ああ俺たち、ここでこうやって細々と生きて死ぬんだと強く思った。
     不思議と、怖さはなかった。
    「なーどっぽさん」
     容赦なく独歩の体を引きはがした帝統は何度か咳き込んだ後、ふたりで持ち運んでいたビジネスバックから1本のロープを取り出した。それはどこで手に入れたのか、はたまた拾ったのか。独歩は思い出せなかった。
     分かるのはその用途ぐらい。
    「俺先に抜けるわ」
     そう言った帝統はくるくると自らの首にロープを巻きつけていく。細い首に巻くには随分と長いロープだ。その割には細いし、少し力を込めたら切れてしまうんじゃないかと不安になった。
     いっそ切れた方がいいのに。そうしたら君は先にいかないんじゃないかと、口にはできなかった。
    「じゃ、俺の処理はよろしくな」
     そう言ってロープの先端を渡してくる君は笑っていた。
     全部ずるいと独歩は心の中で毒づく。こんな終末世界で先に一抜けしようなんて、しかも、餓死とか衰弱死じゃなくて他殺を選ぶその心意気が、きっと自分にはできなくてずるいと毒づいた。
     独歩がその先端を受け取って帝統の背中側に回り、少しでも表情を見ないようにと目を閉じて砂だらけのコートに額を埋めて、手に力を込めた。
     ぱきりと砕けた音がてのひらに伝わってきた。案外簡単にいくのが尚更腹が立つ。もう少し抵抗したって殴ったっていいじゃないか。あんなにキャンキャン吠えてた癖に、こういうところで諦めがいいのが生意気だ。
     ロープを解いて顔を覗き込めば、想像していたよりは大人しい表情のまま帝統は寝転がっていた。唾液が口から零れていて、まるで呑み潰れた後に隣で寝転がっていた時のようだ。
     もしかしたらそうじゃないのかと独歩は隣に寝転がった。出来るだけ静かに自分の呼吸を止める。やがていびきでも聞こえてくるんじゃないかと思ったのに、帝統はずっと静かなままだった。
    「普段もこうやって静かに寝てくれないかな…」
     どうやっても叶うはずのない願望を口にしながら独歩は体を起こす。そのまま寝転がる帝統を置いて、静かに歩き出した。ずるずると引きずるロープが蛇腹の跡を作る。

     一本の木がある。
     どうしてこんなに黒焦げているのか分からないが、太い幹はまだまだ生を感じさせるように地面に埋まっている。きっと根も張り巡らされているんだろう。
     そこにまだ生き生きと存在している枝にさっきのロープを括りつける。台座なんてものはないから、ずっと昔、子供の頃に木登りした要領で木に登った。枝に3周ほど括りつけて、それから余った先端で輪を作る。両手で輪の方を引っ張って千切れないことを確認した。
     独歩は木から降りた後に、辺りを見回す。そうすれば都合よくひざ丈ぐらいまでの高さの瓦礫が転がっていた。力の残っていない腕で何とかそれを枝の真下まで引きずるように移動させた。パンパンと砂の付いた手を払えば、その振動ですら体に響く。
     瓦礫の上に乗って先程作った輪を自分の首に嵌める。さっきまで帝統の体温があったからか程よく温もりが残っていて、しんしんと心が冷えていくのが分かった。
     あとはこの瓦礫を蹴り飛ばせば、帝統と同じところに行けるだろう。先に行ったのはあっちだが、そのすぐ後に行けるから実質2番。うん、これまでの順位付けされたあれこれに比べれば大分上の方の結果だ。
     いっそ誇らしさを抱いたまま、独歩は足元の瓦礫を最後の力で蹴り飛ばした。

     ぐっと首に埋まるロープの感覚。潰される喉仏。苦しみよりも痛みが先に襲ってくる恐怖。
     それらがすべて一瞬の内に独歩の中を支配して、それから、ぶちん!!!と音がした。


     さっきの乾いた音とは全く違った音が響いた後、独歩の視界には大きな星空が広がっていた。
     スローモーションの視界の端に、ギザギザと千切れたロープの端が映った。それからぺちんと音を立てて独歩の顔に直撃する。
     いたかった。
     痛いと実感するのと同時に、網膜が熱くなって貴重な体の水分が溢れ出した。

     カラカラの喉がずきずきと痛みを伝えてくる。
     砂の上で手を握りしめた独歩は口元を緩めて、自分の失敗を笑いながらゴールで手を振る帝統を思い浮かべる。
    「置いていかないでよ、帝統くん……」



     ピピピ、ピピピ…。
     軽快な音が響いて、独歩ははっと瞼を持ち上げた。慌てて被っているシーツを勢いよく剥いで、枕元に転がっている携帯を手に沿ってディスプレイを確認する。朝7時。とっくに出勤の準備をしないと間に合わない時間だ。
    「やばいやばいやばい遅刻だ一二三のやつなんで起こしてくれなかったんだ?いや、そもそも起きれなかった俺のせい…どうしよう、今日はあのタスクも後輩の作業も引継ぎで…」
    「……っ~…うっせー……よ!」
     アナログなディスプレイの前で項垂れる独歩の後頭部を拳が強く叩いた。その勢いでディスプレイにぶつかった独歩は情けない声を上げて下唇を噛む。誰が叩いてきたのかはすぐわかって反射的に声が飛び出す。
    「オイ!痛いだろ!」
    「~…、……おっさんさぁ、今日有給取ったって言っただろ……」
     舌足らずで声の低いままそう告げた帝統の言葉を聞いて独歩は目を見開く。それから会社用で使っているカレンダーを見れば、確かに今日の日付には『有給』の文字が浮かんでいた。それから私用のカレンダーも見れば『帝統くん家に来る』とも書かれている。
     どっと訪れる安堵感と緊張感が解けて、独歩はふらふらと帝統の方へと倒れ込んだ。ぐえっと情けない声が響く。しまったと思うには遅すぎて、慌てて体を持ち上げてから下を見る。
     裸体の帝統が頭を抑え込んで恨めしそうにこちらを睨みつけていた。
    「あ、ごめん……」
    「おっさんさぁ、……あーいいや、ねみぃ。ねる。もう起こすなよ」
    「はい……」
     こちらに背を向けた帝統の首元には確かに紐のようなもので締め付けられた赤い跡があった。
     ひゅっと喉が狭くなるような息苦しさが襲い掛かってくる。
    「あの……」
    「なんだよ」
    「昨日、なんかしたっけ……」
     少し空白があって帝統はこちらを振り返る。その顔には不服さと機嫌の悪さが滲み出ていた。生憎独歩の頭に昨日の夜はあまり残っていないから、ただ射殺すような視線を受け止めるだけだったが。
    「首絞めセックスしてぇって言ってネクタイで絞められたけど」
     やばい。全然記憶がない。いやこれは言わない方がいい。緊張で口が渇いている。かろうじて日本語に近い音は出すことが出来た。
    「へー……」
    「どんな反応だよ。まあ気持ちよかったからいーけど」
     帝統はどうやら絞められたことや跡がついていることには興味ないらしい。じゃあどこに怒りが向かっているんだと独歩が恐る恐るごわごわと硬い黒髪を撫でれば、フンと鼻を鳴らした帝統は独歩の胸元に潜り込む。
     もごもごと蠢くカサついた唇の皮が独歩の胸板を擽った。
    「あー……あったけー……」
     ぱきんと音が響く。凝った体で裸体を抱き締めた音が、乾燥した冬の空間によく響いた。
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