君と朝日をみていたい――多分、私は夢を見ている。
ここは洞窟だろうか?天を見上げると遠くに穴が開いていて、綺麗な月が見えている。目の前には花弁が真っ赤に染まった巨大な桜。そして謎の祠。
「こんな場所、夢でないとあり得ないよね……」
何もかもが非現実的な光景だった。ひんやりとした空気だけは嫌なリアリティがある。
「明晰夢ってやつなのかな……。そういえば夢の中で『これは夢だ』と思ったこと、今までなかったかも……?」
神秘的な光景に反するように、私は布団に入ったままの姿――つまりパジャマであった。いったいこれはどういう状況なのだろう。夢と言うよりむしろどこかの神域に迷い込んでしまったような……?とりあえず動かないことには始まらないかと、暗闇の中に一歩踏み出す。
「そっちは滑りやすいから気を付けて」
「っ!」
突然後ろから声を掛けられる。
バッと振り向くと見慣れた姿がそこにはあった。
「えっ! ゲタ吉くん?!」
「こんばんは」
び、びっくりした……。
ゲタ吉くんはこの非現実的な世界でも、いつも通りのノリで手を振っている。夢の中でも心臓に悪いゲタ吉くんだった。(今回は現実の彼本人に非はないけれど。)
案内人の役(?)をしてくれるのだろうか。いよいよホラーゲームみたいになってきた。
「ゲタ吉くん、随分落ち着いてるね? ここ来たことあるの?」
「何度もありますね」
何度もあるんだ。じゃあ安心かな。
「……この場所はとても恐ろしい村の更に闇の部分。かつて栄華を極めた一族が、踏みにじってきた者たちの恨みによって、一夜にして村ごと滅んだとかなんとか……。政府により日本地図から抹消されたとか……、水木さんも友と記憶と出世のチャンスを失ったとかなんとか……」
めちゃくちゃ真っ当にホラーじゃん!! 現実の話なの?!
「えっ、その事件? 事故? 水木さんも巻き込まれたの?」
「いっけね、今の話って極秘なんでした。仕方ない、日本を追われたら南国で一緒に暮らしましょ」
「ゲタ吉くん?!」
動揺する私を見かねてか、ゲタ吉くんは自分の力強く胸を叩く。
「でも安心してください!これは全部夢です!!」
「欠片も安心できない!不安しかない!」
「慌てないで」
騒ぐ私にゲタ吉くんは少し寂しそうに微笑む。
「きみはここで何を聞こうが見ようが、朝にはすっかり忘れてしまうんですよ」
――これは夢なんですから。
■
私たちは冷たい岩肌に腰をおろしていた。恐ろしい話を聞かされたものの、お化けや幽霊が襲ってくる様子もなかった。私達は結構のんきに花見にいそしんでいたのである。他にすることもないしね。
パジャマの私と違い、ゲタ吉くんはいつもの黄色と黒のストライプの服を着ていた。ゲタ吉くんのことだから、この服のまま寝ている可能性も否めないけど。
上着を貸すと言ってくれたけど、上半身裸にさせるわけにもいかないので、丁重にお断りした。不満げなのはよく分からない。(ゲタ吉くんがよく分からないのはいつものことだ。)
それにしても、真っ赤に染まった桜は恐ろしくも美しい。木の根が水に浸かっているせいで近づけないのが残念だ。
「……そうですかね。遠くから見ているから美しいのかもしれませんよ。ここからでは、桜の全ては見えない」
「それって『月が綺麗なのは遠いから』って話?」
「恋人がデートで眺める夜景が社畜の怨念で出来ているのと同じです」
「違うと思うけど?」
「同じですよ。美しいから善いものとは限らないでしょう」
ゲタ吉くんは何を知っているの?と聞き返そうとしたところで、別の話題に話をそらされた。
「ところで、『あの人が夢に現れたのは、自分のことを想っているから』なんて説が昔の人間の間では流行ったそうですヨ」
思わせぶりな発言を真に受けないように気をつけて、発言の意図を推測しよう。
「えっと、つまりゲタ吉くんが私のことを想ってくれているから、私の夢に現れたということ?」
「近いですが今回は違います。これはぼくの悪夢です」
「なんて?」
「ご招待しちゃいました。へへ。次回は遊びにいきますネ!」
「ど、どういうことなの……」
友達を気軽に自分の悪夢に引きずり込まないで欲しいなぁ!
まぁ実際のところ、この夢って私の夢だし。想っているとしたら私の方なんだろうな。……悔しいから言わないけど。
段々感覚が麻痺してきたのか、ゲタ吉くん普段と変わらない様子だったからか、こんな奇妙な状況にも関わらず私はすっかり安心しきっていた。
「で、ここってどうやったら出られるの? 何回も来てるって言ってたよね」
「? 自力では出られませんよ?」
「この場所からは何人たりとも逃れることは出来ません。ぼくも、――もちろんあなたも」
■
「えっと……」
困惑する私にゲタ吉くんは微笑むだけだった。彼は何も言わない。
――あれ、普段のゲタ吉くんってどんなだっけ?
さっきまでと少しも変わらないのに。こんなこと、本当は思ってはいけないと分かっているけれど、私は隣の彼が恐ろしい「なにか」に思えてしまった。
薄暗いから? 現実じゃないから? 彼の気だるげな、全てを諦めた様子に胸の鼓動が高まり身体が強張っていく。
――どうしよう、怖い。
怪しげな魅力を纏う、美しい青年が其処にはいた。
この事実を認めてしまうことが、いつもの彼を否定することになるんじゃないかと、私は努めて明るい声を出す。
「で、でもさ! ゲタ吉は毎回この夢を見ているんだよね? だったら、」
しかし、それは空回って終わった。
「父さんたちが助けに来るんです。それを待ちます」
「お父さん」
「それは1時間後かもしれないし、半年後かもしれない。十年のときもあります」
まるで経験してきたように「彼」は語った。いや、まるで、ではなく実際に経験してきたのだろう実感がこもっていた。
「夢の中での時間ってことだよね……?」
「でも人間って飲まず食わずで一ヶ月くらいしか生きられないんでしょう? 父さんたちが間に合ってくれるか心配です」
「水がなかったら人間は一週間も生きられないよ?!」
危機的状況も関わらず、ゲタ吉くんはのんびりと一言、
「そうなんですね」
とだけ返した。
心ここに在らずという様子で、慌てる私とは対照的だった。
「そうなんですねって……。ゲタ吉くん、よくお金がないからってご飯抜くけど、そんなふんわり理解で気軽に絶食しないで欲しいなぁ!」
一瞬。傷ついたような顔をした後、目をそらし、彼は私に告げた。
「ぼくは人間じゃないから」
「え?」
「本当は気が付いてるんじゃないですか」
「どういう意味……? 私、ゲタ吉くんが何を言いたいのか全然分かんないよ……」
「ぼくは妖怪です。覚えてるんでしょう? 『鬼太郎』のこと」
私はサッと背筋が凍るのを感じた。どうして、その話は誰にもしていないはずなのに……!
ゲタ吉くんはゆらりと立ち上がり桜の根元を指さす。
「あの桜は……血を吸って咲いているのです。だから血のように赤く、美しい」
指し示された場所に目を向ける。私は「桜の木の下には死体が埋まっている」という都市伝説を思い出していた。
「あそこにはぼくの母親と、ぼくと、ぼくの同胞たちが埋められています。生き埋めってやつですね」
「…………」
「ぼくと母さんだけは、ここから逃れることができましたが、」
この話が本当なら、ゲタ吉くん、いや鬼太郎くんの「悪夢」は過去の記憶の再現だということになる。
なるけれど……だとしたら先程の「悪夢に招待した」というのも多分本当なんだろう。
そんな目に遭っても生きているとしたら、他人を自分の夢に連れ込むことが出来るとしたら。それはもう、妖怪でしかあり得ない。
■
「何があったのか訊いてもいいの?」
「構いませんよ。どうせ忘れますから」
そればっかりだなぁ。人間だからってあまり馬鹿にしないで欲しい。諦めないで欲しい。
正直なところ、なげやりなゲタ吉くんを見ていたくない気持ちがある。もっとめちゃくちゃで貪欲に元気に明るく楽しそうにしてて欲しいのに。
ゲタ吉くんがしんみりしてると私まで悲しくなってきてしまう。
「その、大変だったんだね。私、全然知らなくて」
「生き残り、末裔といえば聞こえがいいですけど、ぼくは屍の上に立っているのです。生かされたからには、応えたい」
「……でも、最近は疲れました」
「疲れてしまったみたいです」
「『正義の味方』って終わりがないですね。幽霊族の寿命もそうだ。長いんです。いえ、今のぼくにとっては長く感じるということかな」
「とにかく、一度『ゲゲゲの鬼太郎』を辞めることにしたんです。元々適当な生き方をしていたけれど、もっと適当でデタラメでいい加減な生き方をしたくなりました」
「逃げたかった」
そうして彼は救われたのだろうか。
■
「いえ、逃げられませんね。罪悪感は呪いのように憑いてくる」
「心の問題だから難しいよね……」
文字通り罪悪感。「罪のように感じている」というだけで、生き残ることは実際には罪ではない。罰を受ける必要も、罰する「誰か」も存在しない。
仮に存在するとすれば、彼の夢の中にしかいない幻だ。ゆめまぼろし。
でもだからこそ、ゲタ吉くんはいつまでも気持ちが晴れない。
「誰かに相談したことはある? 話くらいなら私でよければいつでも聞くし……」
私にできることは少ない。それでもなんとかしてあげたい、その一心で頭を悩ませていると、隣でくすくす小さな笑い声が聞こえた。
「え。なんでちょっと楽しそうなの?」
「おかしさ半分嬉しさ半分です」
怪訝な顔をする私に、彼は穏やかな目を向ける。
「きみが来てくれて本当によかった。一人でこの場所に居るのは苦しかったから」
私がいることで、ゲタ吉くんの苦しさがマシになっている。その言葉が嬉しくて、優しくて。
「いや、私が自発的に来たわけじゃないけどね?!」
ほとんど誘拐じゃないか!そう笑顔で返すことが出来たのだ。
■
「ところで鬼太郎くん」
「鬼太郎ってぼくですか?」
「自分で正体バラしておいて、急にすっとぼけるのやめてよ」
私が言いたいのは、本当にゲタ吉くんが私の知る「ゲゲゲの鬼太郎」なら、悪夢からの脱出なんて難しくないんじゃないか?ということだった。
『サーカスの象』という言葉がある。サーカスの象は、幼い頃に鎖で逃げられないことを学ぶ。すると大きくなって鎖を引きちぎる力を得たとしても、それを試すことさえしないという話だ。いわゆる学習性無力感の例え話。
しかしゲタ吉くんは不服そうだった。
「……もう何度も試しましたよ。でも駄目だったんです。これが現実ならとっくに脱出できてるのに」
それもそれですごいな。
「でも今夜はまだ挑戦していないでしょ?」
「……お恥ずかしい話ですが、怖いんです。理屈ではなく」
「大丈夫だよ。ゲタ吉くんは昔とは違うよ」
「……きみは何もわかってない」
確かに私はゲタ吉くんの過去のことを何も知らない。ゲタ吉くんが背負っているものも、彼を追い詰めるものの大きさにも想像がつかない。
それでも、
「わかるよ。ゲタ吉くんのこと、全部はわからなくても1年も一緒にいたらわかることがたくさんあるよ」
私は彼の頭をなるべく優しく抱き締める。抵抗はなかった。
「ゲタ吉くんは強い男の子だよ」
「だから少しも怖くないよ」
耳障りのいい嘘でも適当な誤魔化しでもなく、心の底からそう思った。
ゲタ吉くんは私の胸に顔を埋めたまま黙り込んでいる。彼の感じている恐怖が、少しでも和らいでくれたらいい。私はしばらくポンポンと頭を撫でていた。
「……約束を」
「うん?」
小さな声だった。きっとこの一言に彼は大きな勇気が必要だったに違いない。
「目覚めたあと、一番最初に会ってほしい」
彼はゆっくりと顔を上げた。まるで迷子の子どものように不安そうな顔をしていた。
「駄目ですか」
「いいよ。約束しようか」
お安い御用だ。というか拍子抜けですらあった。何故そんなに戸惑っているのかのほうが気になってしまう。
私たち、結構朝一緒に登校してるのにね。
「どうせ夢のことなんて忘れるんでしょう。指切りしますよ」
差し出された小指に自分の小指を絡める。指切った!
一瞬満足そうに微笑んで、彼は小指を離しすっと立ち上がる。
「さて!さっさと目覚めて朝日を拝みますヨ!!」
暗闇にいつも通りの彼の声が響く。それだけでこんなにも嬉しい。
ふと妖怪と指切りしてよかったのかな?と一抹の不安が頭をよぎったけれど、ゲタ吉くんが元気を取り戻してくれたので私自身のことはどうでもよくなった。
■
「霊毛ちゃんちゃんこ!」
霊毛ちゃんちゃんこ、今はセーターにしているこれは、ご先祖様の遺髪で編まれたものだ。だから、ここに霊毛ちゃんちゃんこが存在して、ぼくの言葉に従ってくれる以上、彼らがぼくを(少しは妬んでいたとしても)心から恨んでいるとは考えにくい。冷静に考えればそうだ。冷静に考えたくなかったのは、ぼくが責任から逃げたかったからだ。
この美しい地獄から生き残ってしまった後ろめたさから目を逸らしていたかった、ぼくの弱さだ。
きっとぼく自身が望んでこの夢を見てきた。
喪われたものから目を逸らさずに幸せになるのは、恨まれ続けるよりずっと難しい。
「それでも、きみが強いと信じてくれるなら、強いぼくで在りたいと思う」
「ゲゲゲ、ゲタ吉くん?! 裸! 服!!」
そうしてぼくは、幻を断ち切った。
■
「いやぁ、桜は散り際が美しいとよく言いますけれど、絶景ですねぇ」
「『桜は散り際が美しい』って多分そういう意味じゃない……!!」
どちらかといえば「超巨大怪獣が暴れまわる姿は壮観だぜ!!」という印象に近いような……?
私たちを苦しめていた血桜は霊毛ちゃんちゃんこソード(仮)によって一瞬で破壊された。本当に一瞬のことだった。一閃、剣の形に変化した霊毛ちゃんちゃんこが振り下ろされたかと思うと、激しい音を立て血のように赤い樹液を吹き出しながら、巨大な桜の樹が真っ二つに倒れていったのであった。
重い衝撃が洞窟全体に響いた。花弁が舞い上がる。
「ゲタ吉あのさ……」
「はい!」
馬鹿みたいに突っ立てる私とは対照的にゲタ吉くんは絶好調だ。
「確かに『ゲタ吉くんは強いよ』って言ったけどここまでとは思ってなくてさ……」
ちょっと引いてるのであった。もう兵器じゃん。
「二人の愛の力の勝利ですネ♡」
絶対に違う。
「いえ、ぼくは本当にそう思ってますよ。一人だったらきっと立ち上がれなかった。きみがいたから目を覚まそうと思えたんです」
「いい話風にまとめようとしてるけど、ゲタ吉くんが私を呼び込んだよね? 忘れてないよね?」
「一人だったら『どうせ覚めない悪夢なら、好きな子巻き込んで好き勝手しよう。どうせ夢だから向こうは忘れるし』で終わってました」
「さ、最低!!」
好きな子には優しくしたほうがいいよ!
「? してるじゃないですか」
心底不思議そうにしているゲタ吉くんは放置して。
「うーん、自然に目が覚めるわけじゃないのかな? 朝が来るまで待てばいいのかな……」
「三千世界のカラスたちを叩き起こしましょう」
おお、ゲタ吉くんにしては詩的な表現だ、と思ったら本当に大勢のカラスさんたちが天の穴からやってきた。
「手を」
差し出された手を私は握る。カラスさんたちは私たちを外まで運んで行ってくれた。初めての体験に私はギュッと目を瞑る。風が強い。
「朝だ……」
ゲタ吉くんのつぶやきが耳に残っていた。
■
「お、おはようございます」
「おはよう。早い、ね……?」
ジャスト7時。翌朝、玄関を開けるとゲタ吉くんがソワソワしながら立っていた。
「えっと、迎えに来てくれたのかな?」
「約束していたので……」
目を逸らし頬を染め照れているゲタ吉くんは、まるで真っ当な思春期の男子高校生みたいに可愛かった。
「その言い方だと普段は真っ当じゃないみたいに聞こえますが」
「だってパジャマのまま連れ去ったくらいだし。目覚めたら隣で寝てましたーって展開でも全然驚かなかったよ」
「危機感がなさすぎる!! ぼくじゃなかったらどうするつもりなんですか?!」
む、ゲタ吉くんに危機管理を問われるとは。
「その場合は相手が誰であっても、ちゃんと通報するから安心して!」
「それなら安心……安心なのか……??」
そんな話をしながら私たちは、私たちの学校へ向かう。いつもと変わらない通学路、のように思える。
そろそろ学校に着くという時に、ゲタ吉くんはふと立ち止まり言った。
「昨夜のこと覚えていますか」
「覚えているよ、多分全部。もちろん約束のことも。でもゲタ吉くんの方から来てくれたから、心配いらなかったね」
「何言ってるんですか。約束破ったら今でもきみは夢の中ですヨ!」
「えっ、なんでっ?!」
あんなに綺麗な脱出劇を演じておいて?!
「それはぼくが使った術が『約束を無理やり取り付けるために相手を悪夢に閉じ込める』というものだから……」
「最低だーっ!」
そうか。そう言えばそうか。ゲタ吉くんを苦しめていた悪夢と、私を彼の夢に閉じ込めた要因って別物か。なんとなく前者が解決すればハッピーエンドな気がしていたけれど、危ない橋を知らず知らずに渡っていたらしい。
「悪いと思ってますよ……だから迎えに来たんです。本当はあなたが自分から思い出して、約束を守ってくれるまで待つつもりだったんですからネ!……杞憂でしたが」
譲歩しました風に聞こえるけど、言ってることやってること滅茶苦茶だ!
夢の中での人間への諦めモードを思うと試し行為(?)をしてしまうのも仕方ない、のかなぁ? 私は多分ゲタ吉くんに甘い。それはゲタ吉くんが好きで、幸せになって欲しいから。ある程度のワガママは全部許してあげたくなっちゃうし、喜んでくれると私も嬉しい。
「あのさ、私、自惚れてもいいのかな。ゲタ吉くんにとって特別な人間の一人って思ってもいいのかな」
今まで知らなかったこと、知りたいと思ってもいいのかな。昨晩の夢は楽しいことだけじゃなくて、悲しさや苦しさも共有していい相手だって思ってくれてるってことなのかな。
「えっと、その……、はい。トクベツです。……ごめんなさい」
「なんで謝るの?」
挙動不審のままゲタ吉くんは叫び走り出す。
「もういいでしょう!? 遅刻する!!」
「待って! 私も同じ方向なんだけど!」
本当に大事なことなんて、知らなくても一緒に居られるけれど。
いつか伝えていいと思ってもらえるその日を、私は楽しみに待っている。