雑諸④朝、窓を開けると、一面の銀世界が広がっていた。
庵の屋根にも木の枝にも、厚く積もった雪がしんと音もなく降り続けている。
雑渡昆奈門は、湯呑を手にしながら、その静けさを見つめていた。
立ち上がる足は、もう震えない。
かつて焼けただれた皮膚も、今では服を着ていれば目立たぬほどになった。
――ここで過ごした、三年。
そのすべてが、胸の内にあたたかく積もっていた。
「…おはようございます、こんなもんさま」
奥の部屋から坊が現れた。
まだ幼さの残る顔に、羽織の袖が少し長すぎる。
けれどその足取りは、誰よりもしっかりとしたものだった。
「おはよう、坊。…いや、もう“坊”とは、呼べぬかもしれんな」
「…でも、もう少しだけ。そう呼んでいてください」
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