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    もふの絵と文字置き場

    煉❤︎炭の絵置場です。
    たまに文字も置きます。

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    POIPOI 6

    うた/恋 に触発されて和歌を詠む🔥🎴のお話し

    #煉炭
    refinedCarbon

    交わした熱が冷めやらぬ褥の中で、月明かりに透ける金色にそっと指を絡めた。
     眠る男の腕に頭を預け、炭治郎は昼間の出来事を思い出す。

     常備薬の補給に寄った蝶屋敷で、いつもの三人が畳に置かれた札を弾いて遊んでいた。ひとりが読み上げた言葉に合わせ、二人がぱしりぱしりと小気味良い音とともに札に手を伸ばしている。
     声を掛ければ教えられたのは百人一首というかるた遊び。読まれた上の句に続く下の句の札を早く探せたほうが勝ち。簡単ですよと言われてみても、小さな札に書かれた達筆な文字は解読さえ難しい。学がないなと恥ずかしさに頬をかけば、少女達は笑うことなく丁寧に歌の意を説いてくれた。
     それは千年前の恋のうた。
     誰かが誰かを愛しく思うこと。愛しいが故に引き攣れる胸の内、寂しさ、喜び。
     歌人達の恋心に想いを馳せてしまうのは、己も恋を知ったからか。
    『これは何て書いてあるんだろう』
     女人の書かれた札を手に取る。
    『儀同三司母のうたですね!』

     忘れじの 行く末までは かたければ
     けふを限りの 命ともがな

    『君だけだと誓ってくれても、人の心は移ろううものだから…だから私は今日死にたい、貴方に最高に愛されたままっという意味です』



     人の心は移ろうもの。
     縁とは流動的だ。一期一会という言葉があるように、一生にたった一度しか会い見える事ができない人間もいる。だから大切にせねばならないといつも心に留めている。
     特に今は。明日散るとも分からぬ世界に身を置いているから尚のこと。
     そんな日々の中で出会い、恋をして一つになった人。
    (この人の心も…いつか移ろうのかな)
     昼間の記憶をなぞるように、しっとりとした髪から手を離し輪郭を撫でる。
    「…忘れじの 行く末までは かたければ けふを限りの 命ともがな…」
     男同士の恋である。いつか互いの未来のためにと離れる時がくるのなら。最高に愛された今、散ることができたならどんなにか。
     炭治郎から溢れた言葉に煉獄の目が僅かに開く。ついで凛々しい眉が、ふにゃりと柔く八の字を描いた。
    「…君は案外、情熱的なんだな」
    「え?ぁ、起きて…」
     額に落とされた口付けに、しまったと唇をつぐんでも後の祭り。聞かれてしまった。
    「あの…」
    「まだ朝には遠い…やすもう」
     夢路へ誘う煉獄の美しい金環は目蓋の奥に隠れてしまう。
     うっすら口角が上がった寝顔に、呟かれたうたを男がどう受け取ったのか炭治郎は量り知る事はできなかった。



     カツン。
     乾いた木の音で目が覚める。音の方向を見やれば、障子戸に鴉の影が朝日に浮いていた。
     己の鴉はうるさい。静かに佇む姿は煉獄の鎹鴉に違いない。
    「要?」
     呼びやり戸を開ければ、嘴にくわえた文を手のひらに押しつけられる。ひらけ、と短く告げられるがままに広げた紙片には筆文字が流れていた。

     ありあけの つれなく見えし 別れより
     あかつきばかり うきものはなし

     うた、だった。
     しかし、読めはすれど意味が分からない。
    「…何て意味なんだ?」
    『シラナイ』
     優秀な鴉でも、うたまでは理解できないらしい。主の命令を忠実に遂行した要は、それだけ残すと飛び去ってしまった。
    「なほちゃん達に聞けばわかるかな」
     いつの間に発ったものなのか。隣で眠っていたはずの男はもういない。ほのかに残る温もりを探して、炭治郎はそっと褥に頬を寄せた。


    「壬生忠岑のうたですね!」
    「なほちゃんは物知りだなぁ!何て意味なの?」
     褒められ照れた少女は頬を染めながら、うたに込められた想いを言葉で紡ぐ。
    「夜通し感じたあなたの温もりを離れて、一人帰る道はとても寒い…夜明けがこれほどつらいものとは、という意味です!」
     少女曰く。
     その昔、平安の世。一夜を共にした女性に男性は朝に恋文を贈ったという。後朝の文と呼ばれたそれ。
    「こいぶみ…」
    「このうたは、愛し合った貴方と離れることがつらいという男性の心情がよく現れているうたですね!」
     丁寧に折りたたまれて手の内に帰ってきた文が、途端に燃えるような熱を帯びている錯覚に陥った。
     いや、違う。己の体温が上がって血が巡り、指先が熱をもっているのだ。現に、どくどくと鼓動は早くこめかみさえも脈打っている。
     文の意味が頭から離れない。
    「そ、そうだね、素敵だね!ありがとう!」
     それだけ言い切ると炭治郎は駆け出した。
     蝶屋敷の門扉を潜り抜けて続く平垣にそってひたすら足を前に出す。
    (煉獄さん…貴方って人は…!)
     うたにはうたを。
     それも、とびきり甘く切ない気持ちを込めた恋文をくれるなんて。
     頬も、耳も、熱くなる。
     十五の少年が初めて知った、恋のうた。
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    もふの絵と文字置き場

    DONEうた/恋 に触発されて和歌を詠む🔥🎴のお話し交わした熱が冷めやらぬ褥の中で、月明かりに透ける金色にそっと指を絡めた。
     眠る男の腕に頭を預け、炭治郎は昼間の出来事を思い出す。

     常備薬の補給に寄った蝶屋敷で、いつもの三人が畳に置かれた札を弾いて遊んでいた。ひとりが読み上げた言葉に合わせ、二人がぱしりぱしりと小気味良い音とともに札に手を伸ばしている。
     声を掛ければ教えられたのは百人一首というかるた遊び。読まれた上の句に続く下の句の札を早く探せたほうが勝ち。簡単ですよと言われてみても、小さな札に書かれた達筆な文字は解読さえ難しい。学がないなと恥ずかしさに頬をかけば、少女達は笑うことなく丁寧に歌の意を説いてくれた。
     それは千年前の恋のうた。
     誰かが誰かを愛しく思うこと。愛しいが故に引き攣れる胸の内、寂しさ、喜び。
     歌人達の恋心に想いを馳せてしまうのは、己も恋を知ったからか。
    『これは何て書いてあるんだろう』
     女人の書かれた札を手に取る。
    『儀同三司母のうたですね!』

     忘れじの 行く末までは かたければ
     けふを限りの 命ともがな

    『君だけだと誓ってくれても、人の心は移ろううものだから…だから私は今日死にたい、貴方に最 1948

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