❏設定❏
・モブ×彰人→冬弥
・彰人が冬弥に片思いをしている(両片思いにする可能性あり)
・モブは大学生か社会人で、外見と声は冬弥に似ているけど性格は似ていない
・モブが冬弥に似ているという理由から、彰人とモブが関係を持つ
・モブ彰からの冬彰の流れにする可能性あり
❏本文❏
~ライブハウス~
杏「みんな、今日は最高に盛り上がったね! 最後まで聴いてくれてありがとう!」
彰人「ああ、次のイベントは今日以上に盛り上げてみせるから、絶対に……」
彰人:ライブが終わりステージの上から客に声をかけている最中にハッと息を呑むと、ステージから離れたはるか後方で他の客の背後に隠れるように立っている人物を見つめて呆然とする
客「……?」
こはね(し、東雲くん、どうして急に黙っちゃったんだろう? お客さんが、不思議がって……)
冬弥「彰人?」
彰人「……!」
彰人:冬弥に名前を呼ばれハッと目を見開いて気を取り直すと、客への声かけを終えた後に再び今の人物がいた場所に視線を向ける
彰人「……」
彰人:すでにその人物の姿はなく、なかば呆然とした状態になりながらも無事にライブを終える
~数十分後~
彰人:冬弥達と別れて一人になると、ライブハウスの周辺でまばらに残っている客に声をかけられるたびに受け答えをしつつ、キョロキョロとしながら先ほど見かけた人物を探している
彰人「……」
彰人:いくら探しても見つからず、すでに帰ってしまった後なのか、もしくは見間違いだったのかと悶々としながら地面に視線を落とす
モブ「……」
モブ:じゃりっと靴音を立てながら、彰人の目の前に姿を現す
彰人「あ……」
彰人:突然目の前に現れた男物の靴に驚いて顔を上げると、探していた人物が目の前に立っていることに気がついて間抜けな声を出す
モブ「……」
彰人「……」
彰人・モブ:数秒間無言で見つめあうも、彰人のほうから口を開く
彰人「あの、もしかして……」
モブ「……」
彰人「冬弥の兄貴、ですか……?」
モブ「え?」
~数分後~
彰人「いい加減、笑いやんでくださいよ……」
モブ「だって、神妙な面持ちで何を言うのかと思えば、青柳くんのお兄さんかどうか……なんて、そんな確認をされるとは、思いもしなかったから……」
彰人「それは、その……し、仕方ないじゃないっすか……冬弥には兄貴が二人いるって聞いてたし、本人にしか見えないくらい、冬弥にそっくりなもんだから、つい……」
モブ「あはは、なるほど……その話を聞いたら、確認したくなるのも無理はないって思えたよ」
彰人「……」
彰人:は~と溜息をつきながらおかしそうに笑い続けるモブを見つめながら、モブとは逆にむっつりとした表情で黙り込むも、先ほどからドキドキと高鳴り続けている心音を無視できなくなってくると、頬を赤らめながら地面に視線を落とす
彰人(性格は似ても似つかねえけど、顔と、声は……)
モブ「……」
彰人(オレは……なんで、この人が冬弥の兄貴じゃなくて、安心してるんだよ……まるで、冬弥の兄貴だったら、なにかまずいことでもあるみたいに……)
モブ「東雲くん」
彰人「……!? あ……な、なんすか……」
モブ「……」
彰人「……? ○○さん?」
彰人・モブ:都会の喧騒の中で二人の周囲だけが嘘のように静寂に包まれると同時に、見つめあう二人の間を小さな風が音もなく吹き抜けていく
モブ「俺、青柳くんの代わりでもいいよ?」
彰人「え……?」
~数日後~
~モブの自宅~
モブ「いきなり家に連れ込んじゃってごめんね、東雲くん……未成年の東雲くんとラブホテルに入るわけにはいかないし、家に呼ぶしかなくて……」
彰人「……」
彰人:モブの言葉をぼんやりとした様子で聞き流しつつ、本当にこれで良かったのか……などと考えながら、俯きがちにベッドに座っている
モブ「……」
モブ:普段より口数が少なくなっている彰人を横目で見つめつつ、もしかすると家についてきたことを後悔しているのかもしれないな……などと思いながら飲み物を準備すると、彰人の隣りに腰かける
彰人「……っ、……」
彰人:わずかに残っている警戒心や緊張感から、びくりと肩を揺らす
モブ「はい、俺はお酒を飲むけど、東雲くんはジュースで」
彰人「あ、えっと……あ、ありがとう、ございます……」
彰人:緊張した面持ちで軽くお礼の言葉を口にすると、遠慮がちにジュースを飲みはじめる
モブ:そんな彰人の様子を横目で見つめながらお酒を飲みはじめるも、ふいに微笑みを浮かべると同時にお酒が入ったグラスをテーブルの上に置く
モブ「俺さ、イベントを観に行ったのはこの間が初めてだけど、実はずっと東雲くんのファンだったんだ」
彰人「え?」
モブ「ファン歴は結構長いほうなんだよ、東雲くんが青柳くんとチームを組んでBAD DOGSになって歌いはじめる前から……つまり、東雲くんが一人で歌ってた時から、ずっとファンだったからね」
彰人「そう、なんすか……? でも、だったら、なんで……」
モブ「今まで一度もイベントを観に行ったことがなかったのか……って、ことだよね」
彰人「……」
モブ「恥ずかしい話だけど、勇気が出なかったんだ」
彰人「勇気?」
彰人:モブが自嘲気味な微笑みを浮かべながら思いもよらない言葉を口にしたため、不思議そうな声色で問い返す
モブ「うん、東雲くんが一人で歌ってる時から、何度も声をかけようとしたんだけど、その度に気後れしてしまってさ……イベントも、いつか絶対に観に行きたいとは思ってたんだけど、ずっと勇気が出なくて……そうこうしてるうちに、東雲くんが俺とそっくりな青柳くんとチームを組んで歌いはじめた時はびっくりしたよ、おかげで余計に声をかけづらくなっちゃって……」
彰人「……」
モブ「それで、ある時気がついたんだ……東雲くんと青柳くんが二人で路上で歌ってる姿を見かけた時に、東雲くんが青柳くんを見つめる目を見て……ああ、そういうことなんだって……」
彰人「……」
彰人:ほんのりと頬を赤らめると、恥ずかしそうに視線をそらす
彰人「そ、そんなに分かりやすかったですか、オレ……」
モブ「うん」
彰人「……」
彰人:頬を赤らめたまま、複雑な表情を浮かべる
彰人「当の本人は、全く気がついてませんけどね……」
モブ「そうみたいだね」
彰人「……」
彰人:自嘲気味に呟いた言葉を即座に肯定されてしまい、他人から見てもそんなふうに見えるのかと少しだけ落ち込んでしまう
モブ「話の続きだけど……そんな二人を見ているうちに、なんで君の隣りにいるのが俺じゃないんだろうって思いはじめたんだ……」
彰人「……」
モブ「もちろん、東雲くんは青柳くんを外見で好きになったわけじゃないだろうけど、東雲くんが好きになった人が、よりによって俺とそっくりな青柳くんだったから……だったら、俺でもいいじゃないかって……なんで、俺じゃないんだよって……そうじゃなかったら……青柳くんが、俺に似てさえいなかったら……まだ、諦めきれたのにって……」
彰人「○○、さん……」
彰人:モブの声が段々と震えはじめたため、なんと声をかけるべきか分からずに言い淀む
モブ「さっきから情けない話ばかりしちゃってごめんね、東雲くん……」
彰人「いえ……」
モブ「情けないついでに話しておくと、こんなことも考えたよ……もしも、東雲くんが青柳くんより先に俺と会っていたら……初めて君の歌を聴いて感動したあの時に、勇気を出して声をかけていたら……東雲くんが好きになったのは、俺だったかもしれないって……」
彰人「それは……」
モブ「うん、分かってる……東雲くんが青柳くんを好きになったのは、君達二人がお互いを相棒として認めあって、関係を深めていったからで……たとえ、二人が出会う前に俺が君に声をかけていたとしても、外見や声が似てるって理由だけじゃ、その可能性はゼロだったって、本当は分かってるんだ……」
彰人「……」
彰人:モブの話を聞いているうちに冬弥の代わりにすることに罪悪感を覚えはじめると、やはりこんなことはやめるべきだと思い直してベッドから腰を浮かせる
彰人「あの、○○さん……オレ、やっぱり……」
モブ「……っ、だから……!」
モブ:突然語気を強めると、彰人をベッドに押し倒す
彰人「――……っ!?」
彰人:衝撃で手に持っていたジュースを床に落とすと、何が起きたのか分からないといった表情でモブを見上げる
モブ「だから、だからさ……俺は青柳くんにはなれないけど、青柳くんの代わりにはなれる……そうだよね、東雲くん……」
彰人「……○、○○、さん……オレ……」
モブ「お願いだから……今さら嫌だとか、こんなことは間違ってるなんて、言い出さないでよ……勇気を出して、君の前に現れたのに……そんな俺の努力を、無駄にしようと……しないでよ……」
彰人「……」
彰人:暫くの間呆然としながらモブの顔を見上げ続けるも、ハッと我に返ると同時に抵抗を試みる
彰人「!?」
モブ「……」
彰人:なぜか思うように体を動かすことができず、困惑の表情を浮かべながら床に広がっているジュースに気がつくと、さっと顔を青ざめさせる
彰人「○○さん、あの……まさか……」
モブ「うん、さっき飲み物を準備してる時に、東雲くんが想像してるとおりのことをしたよ」
彰人「……っ!? な、なんで……!」
モブ「なんで? なんでって、東雲くんを俺のものにしたいからに決まってるじゃないか」
彰人「……っ!? ……、……」
モブ「たとえ東雲くんの心は俺のものにできなくても、体だけでも俺のものにしたい……青柳くんに想いを伝えきれずに本人を手に入れることは諦めて、俺を青柳くんの代わりにしようとした東雲くんには、こんな気持ち……絶対に分からないよね……」
彰人「――……っ、……」
彰人:責めるようなモブの言葉に何も言い返すことができずに泣きそうな表情を浮かべると、いたたまれない気持ちになりながら視線をそらす
モブ「ごめんね、別に恨み言を言いたいわけじゃないんだ……東雲くんのほうから俺を青柳くんの代わりにしようとしたわけじゃないし……青柳くんの代わりでもいいから、君と関係を持ちたい……なんて、馬鹿なことを言い出したのは、俺のほうだから……」
彰人「そう、っすね……でも……」
モブ「……?」
彰人:モブから視線をそらしたまま、目元を赤くしながら自嘲気味な微笑みを浮かべる
彰人「そんな馬鹿な考えに乗っちまったのは、他の誰でもなく、オレなんで……」
モブ「……」
モブ:もうどうにでもなれとでも思っているかのように、突然投げやりな口調で言い放った彰人の顔を見つめると、何を思ったのか彰人の耳元にゆっくりと唇を寄せる
モブ「彰人」
彰人「――……っ!?」
モブ:東雲くんという呼び方を変えて呼び捨てで彰人の名前を呼んだ途端に、ぶわっと顔中を真っ赤にして一瞬で呼吸を乱しはじめた彰人を何も言わずにじっと見つめ続けるも、やがて悲しみや怒りが入り混じったどこか歪な笑顔を顔に貼り付けると同時にふっと笑いをこぼす
モブ「俺は青柳くんみたいに髪の色が左右で違ってはいないし、泣きぼくろの位置も逆だけど……青柳くんと瓜二つの顔と声で、同じ呼び方で名前を呼ばれたら……本物の青柳くんに抱かれそうになってる感じがして、欲しくなっちゃったんじゃない?」
彰人「……っ、そん、な……こと……」
彰人:必死に否定の言葉を口にしながらも、顔を真っ赤にしたままの状態で瞳に涙を浮かべると、ふうふうと浅くなった呼吸に合わせて胸を上下させながら、何かを懇願するような瞳でモブを見つめる
モブ「青柳くんの真似をして名前を呼んだだけで、その様子だと……どうやら、薬を盛る必要はなかったみたいだね……」
彰人「――~~っ、……」