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    ishiiakira0311

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    100日後に結婚する鬼いち

    #鬼いち

    一日目歌仙におつかいを頼まれた鬼丸は、万事屋街の和菓子屋に居た。店の奥から香る甘い香りと、店頭に並ぶ練り切りや羊羹、繊細に作られたそれらは目にも美しい。常々歌仙や主が「ここの練り切りは素晴らしい」と言っている。鬼丸もそれに共感している。が、鬼丸は普段から「怒ってるみたいだよ!」と同派の短刀達に指摘される顔が、更に険しくなってしまったのを自覚して眉間を揉んだ。
    目の前に居る店員を萎縮させてしまったからだ。
    特に困らせたり、威嚇をした訳ではない。この店には何度も来ているが初めて見かけた彼に、思わず声をかけてしまったのだ。

    『一期一振か』と。






    一期一振は、朝からなんだか胸騒ぎがしていた。
    和菓子職人として働く一期一振は、いつものように身支度をし、部屋を出ると店へ行き仕込みを始める。
    万事屋街で働く刀剣男士は随分と増えた。極めたのちカンストしてしまえば、出陣や内番も後進に譲らざるを得ない。そういった暇を持て余す刀のうち、本丸の外に居場所を求めるのは自然な流れなのかもしれない。一期一振が働く和菓子屋もその居場所のひとつとなっている。
    店頭での接客は主に店主の歌仙兼定とにっかり青江が請け負っている。一期一振はもっぱら厨での作業に専念する職人で、日頃接客をすることはない。だが、朝の胸騒ぎは的中した。風邪を引いた青江は店を休み、贔屓にしている茶屋が追加で上生菓子を卸してほしいと連絡が入り、「直ぐに帰ってくるから」と一期一振に店番を頼むと出ていった。
    人当たりは良い方だと思う。
    多くの同位体のように「品の良さ」と「柔和さ」を備えているのが一期一振なのだ。けれども審神者の霊力や、置かれる環境によっては若干の個体差が生まれる。
    一期一振は鬼丸国綱が苦手だ。
    けして嫌いな訳ではない。むしろその逆で、同じ本丸の鬼丸に対して秘めた想いを持っていた。それ紛らわすかのように出陣をして、修行に行き、極めてからも積極的に前線に出た。そうやって早々にカンストしてしまい、遂にはやる事がなくなってしまったのだ。
    そんな時、鬼丸が出陣した大阪城で「二振り目の一期一振」が落ちてきたのだ。弟達は勿論、自分も喜んだ。戦力はいくら有っても困らない。育てるのに時間はかかるが、それも教育係として傍に付く男士の勉強になるだろう。鬼丸の教育係をしていたのは自分だった。燻る思いを抱えたまま接するのは、時々とても辛かったが、有意義な体験だったと思っている。さて、「二振り目の教育係は何方になるだろうか」と考え出したとき、主である審神者は「鬼丸が教育するように」と一言置いて忙しそうに部屋を後にした。一期は妥当な案だと思った。出陣するのに人数は限られている。本丸内のことは他の刀でも教えることはできるが、出陣の際にあれそれを教えるとなると自分が出るわけにはいかない。出陣も本丸のことも、なるべくなら気心知れた同派の者から教わるのが良いだろう。
    鬼丸は「何で俺が」と言いながらも任された任務はきちんとこなした。不器用で言葉が足りないところもあるが、二振り目も鬼丸のことを直ぐに理解した。

    そんな二振りが想いを寄せ合うのには時間はそうかからなかった。
    そして、彼らよりも早くそれを察知したのは一期だった。

    「……」

    人当たりが良いはずの一期一振が困惑し、客と目を合わさないなんてことが、あっていいわけないのに。一期は目の前の鬼丸国綱を見ることができない。

    あの方とは違うのに。

    「不躾だった、すまない。海野本丸の者だ、注文していたものを取りに来たのだが」

    「あ、申し訳ございません。確認しますので、お待ちください」

    一期は吃驚して頭を下げた。
    失礼を働いたのは一期の方であるのに、この鬼丸は謝ってきたのだ。一期は「何故黙っている?」と詰められると思い、身構えていたので殊更驚いたのだ。

    「お、お待たせしました。練り切りを36個ですね。こちらで宜しいですか?」

    「……ああ、問題ない」

    保管庫から品物を取り出し、蓋を開けて確認をして貰う。鬼丸の目線が品物に落ちたタイミングで、一期は初めて彼の様子を伺った。ほんの一瞬ではあったが鬼丸国綱にしては柔和な表情だったかもしれない。視線が絡まぬようにサッと目を逸らして、了承を得たのちに手早く梱包する。

    「大変、お待たせ致しました。お代は頂いておりますので」

    「ああ」

    大きめの紙袋を持った鬼丸が店を出ていくと、一期は漸く息を大きく吐いた。











    「乱」

    「なぁに、鬼丸さん」

    横に座る乱藤四郎は「かわいい」「綺麗」とひとしきり眺めたあと、美味しそうに練り切りを頬張った。
    贔屓にしている和菓子屋の菓子はどれも美しく繊細で、味も上品だ。この本丸の主は出陣に遠征にと忙しい男士達の為に「お茶会」なるものを頻繁に催す。お茶会と言っても、格式のあるそれではなく。簡単に言えば「美味しい和菓子とお茶を飲もう!」というだけのものだ。現に鬼丸と乱は縁側に座って庭を眺めており、その庭では立ったまま和菓子を食べる男士が数振り。後ろの部屋ではテレビを見ながら茶を飲む男士達の笑い声がする。
    最初でこそ「雅じゃない」と歌仙も顔を顰めたが、頭数が増えると窘めるどころではない。早々に諦めて、お茶会ではなくて三時のお八つだと割り切ったようだった。

    「……俺の顔は、そんなに怖いか」

    「は?」

    鬼丸は好物の練り切りを見ても浮かない表情だ。
    とはいえ、同派の刀以外には平素と見分けがつかないほど僅かに、ではあるが。

    「どうしたの?急に」

    乱はお茶を傍に置くと鬼丸を気遣う。
    誰に何を言われても動じない鬼丸が気落ちしているなんて、初めてのことだったからだ。

    「和菓子屋の、一期一振を怖がらせてしまった」

    「え…?」

    次いで出た台詞にも、乱は目を見開いた。
    確かに「怒っているような顔」とよく言われる鬼丸だが、同派から見ればそうでないことはすぐに分かる。他に所属する鬼丸を見ても多少は判断がつくし、刀として鬼丸と共にある期間が長い一期一振であれば「怖がる」などということは無いはずで。実際、演練場で会う他本丸の一期一振は気さくに鬼丸に話しかける個体の方が多く、どちらかと言えば鬼丸に対しても好意的なはずである。

    「怖がらせたって、何かしちゃったの?」

    「何も、ただ名前を呼んだだけだ。“一期一振か”と」

    「それだけ?」

    「ああ、不躾だったかと思って謝りはしたが」

    目は合わなかった。と、何処と無く寂しそうな声で鬼丸は言った。その大きな手で黒文字を摘むと、器用に練り切りを切って口に運ぶ。一口で食べちゃいそうなのに、此処の和菓子だけは惜しむように食べるんだよね、なんて話とは関係ないことを乱は考えて少しだけ笑う。

    「う~ん。彼処のお店にいち兄が居るの知らなかったなぁ。でも、普段店頭に居ないならただ緊張していただけじゃない?」

    「…それなら、いいが」

    この本丸には一期一振が居ない。
    代わりに鬼丸と鳴狐が兄不在の藤四郎兄弟の保護者をやっているのだ。鬼丸も顕現当初は同派意識が薄く面倒なことになったと思っていたが、懐っこい短刀達や脇差達にすっかり絆されてしまった。寝食を共にし、名を呼ばれて頼られたら情も湧くものだ。他の本丸よりも出来て日が浅いけれど、粟田口派の結束力は他と変わらないくらい有ると思っているよ。と鳴狐は言っていた。
    一期一振の顕現を鬼丸も願ってはいるが、この本丸に縁がないのであれば仕方ない。
    刀剣男士としての一期一振がどういうものなのかを知らないのだ。政府からの情報を読んだだけ、演練場で挨拶をしただけ、他の同位体を見ただけでは、何を考え何を思っているのかまでは知りようもないのだ。だからあの時、あの一期一振が頑なに自分と目を合わせなかったのか知りようがない。それなのに、あの何とも言えない表情をした一期一振の姿が鬼丸の脳裏から離れなかった。


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