犬らしさ「善条、行け!」
羽張が敵地に向かって指を指す。
善条はその声に反応に、にっとして駆け出した。風が吹く、善条の速さを後押しするように、前に向かって。
その様子を笑みを浮かべて満足そうに羽張は見つめた。
「おい、流石にこき使いすぎだろう」
「あいつなら大丈夫さ」
「そういう問題ではない…指示の仕方もそうだが、まるで犬みたいだぞ」
「ははは」
塩津の苦言を笑い飛ばし、またじっと見つめる。その様子に塩津の皺が更に深くなった。
「そんな顔をするな」
「するだろう、なぜ笑っていられる」
「一番近くで見ているのに、それを聞くのか?」
塩津の方へと振り向いて、目を丸くする。塩津は面倒くさそうにしつつも、相手の言葉を待った。
「俺は善条を信頼している、それに、あいつは指示を出した方がよく使える」
小さく間を空けて、自身たっぷりに言い切った。
「そして、善条の事を一番よく動かせるのは、この俺だ、わかるだろう?」
揺るぎない姿勢に、塩津は呆れる。「そんな事はわかっている」と言葉を吐き捨てた。
「羽張!終わったぞ!」
呼ばれた羽張は片手をあげて応じる。善条の身なりは服がよれた程度で傷も少ない。単騎だけで充分だった事が伺えた。
「よくやった善条、お手!」
「?おう!」
目の前に手のひらを差し出せば、ぽん、と善条が拳を差し出した。本人は意図がよくわかっていないが、気にせず笑顔のままだ。
ぷるぷると羽張が笑いをこらえる。
「もういい、今日はよく休め」
必死に平常心を作り、手を引っこめる。
思ったより、犬かもしれない、と一人思った。