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    アクアマリン

    @marine_ttmy286

    あんスタに爆速で沼った雑食人間です。よろしくお願いします。

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    アクアマリン

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    巽と英智がお夜食を食べながらちょっとお話するだけ。
    一応冬頃(SS終了以降)くらいのふんわりした時期設定です。
    こちらはテキスト版です。

    秘密のお夜食話 ある冬の日、一時を少し回った頃珍しく目が覚めてしまい起き上がる。水分補給に水を飲むと空腹感を覚えた。複数ユニット合同での大型ライブが近づいていることもあっていつもよりハードなレッスンをしたからだろうか。このまま朝まで眠ってしまおうかと思ったのだが、一度空腹を自覚してしまうと気になってしまう。

    「……仕方ありませんな、晩ご飯の残りを食べましょうか」

     そう呟いて部屋を出て共有キッチンへ向かう。こんな時間だと仕事をしている者、夢の世界の住人となっている者のどちらかが大半のため誰とも会うことなく目的地へ辿り着く。
     キッチンにも人影はなく、シンと静まり返っていた。少々気は引けるが電気を点け、冷蔵庫にしまっていたタッパーを取り出す。

    「…まあこれくらいの量なら食べきれますし、たまにはいいでしょう」

     晩に食べた量よりも多いおかずを鍋に移し火にかける。焦がさないように弱火で温めながら空になったタッパーを洗う。水切りラックに空いた容器を置き、手を拭いていると鍋から餡かけがフツフツと煮立った音が聞こえてくる。大根が焦げ付いていないか確認をして、火を止める。やわらかな出汁の香りを嗅いでいるとほかほかの白ごはんが欲しくなってくる。
     ――今日は朝の礼拝の後に軽くランニングをすることにしましょうか……。
     そう心の中で決めて茶碗も用意しようとしたその時、共有キッチンの扉が開く音がした。

    「おや、君がこんな時間に起きているなんて珍しいね風早くん」
    「こんばんは、英智さん。こんな遅くまでお仕事ですか?お疲れ様ですな」
    「うーん…まあ仕事といえば仕事かな。所謂接待での会食だね。仕事に繋がるとはいえ僕はまだお酒も飲めないのに退屈な話に付き合わされるのは骨が折れるよ」
    「ああ、それは大変でしたな……」
    「ところで君は何をしてたんだい?…出汁のいい匂いがするね。もしかして夜食でも食べるところだったかな」
    「ええ。お恥ずかしながらいつもよりレッスンに熱が入ってしまったせいか空腹で目が覚めてしまいましてな」
    「ふふ、僕たちもまだ十代だからね。そういうこともあるよ」

     そんな会話をしている時に鍋を見てふと思いついたことを彼に提案する。

    「英智さん、ちなみにお腹はもういっぱいでしょうか?」
    「いや、会食とはいえあまり食べれていなくてね。…もしかしてお夜食のお誘いかい?」
    「はい。一人で食べるには少し多いな、と思っていたので。どうでしょうか?」
    「そのお誘い、是非受けさせてもらうよ」
    「では二人分のお皿を用意しますね。ちなみに英智さんは白ご飯はいりますかな」
    「いただくよ。全部用意してもらうのも悪いし何か手伝うよ」
    「ではお箸と飲み物をお願いします」

     そうして二人で夜食の用意を進め、テーブルについた。

     二人分用意した夜食を前に向かい合って座る。保温していたご飯と温めた大根の鶏そぼろ餡かけから湯気が立ち上り食欲を刺激する。汁物の用意がないがまあいいでしょう。冬の夜はよく冷える、冷めないうちにいただきましょう。

    「ではいただきましょうか」
    「そうだね、いただきます」
    「いただきます」

     手を合わせ、箸をとる。まずは大根から食べよう。隠し包丁を入れ、じっくり炊いた大根は力をかけずともスッと切り分けることができた。一緒に炊いた鶏そぼろと、出汁に少しとろみをつけた餡かけを絡めて口へ運ぶ。噛むと鶏そぼろの甘みが、柔らかな大根と餡かけから出汁の香りが広がる。餡だけ少し飲み込むとじんわりとした温かさが広がる。冬にはつい煮炊きものを作ってしまいがちになってしまうが、仕方ないものだと自分に釈明する。
     英智さんの方を見ると彼もこの料理を気に入ってくれているのか、帰ってきた時よりいくらか穏やかな表情になっている。

    「風早くん、これって君が作ったの?それとも他のメンバーの子かな?」
    「今日は俺が当番なので俺が作りました。気に入っていただけましたかな?」
    「うん。とってもおいしいね。普段は洋食とかの方が多いんだけど、やっぱり出汁を使った和食はいいね」
    「俺も洋食を食べることのほうが多いですが和食を食べるとホッとしますな。やはり日本で生まれ育ったからなんでしょうか」
    「ふふ、どうだろうね」

     その後も軽く会話をしつつ食べ進める。普段サークル活動で一緒になることはあるものの、彼とこうして一対一で話す機会は多くないからか仕事の話から雑談まで話が弾む。
     「こんな仕事があって大変だった」、「この間の仕事のいい評判が届いてるよ」、寮室での藍良さんの様子など、愚痴や労いなど様々な話を行き来する。
     今俺が、俺たちALKALOIDがこうしてユニットを組んでアイドルとして生き続けられているのは自分たちの力だけではないことを改めて実感する。

    「英智さん、ありがとうございます」
    「おや、急にどうしたんだい。僕は君の夜食のご相伴に預かって、その上愚痴までこぼしたりしているのに」
    「俺と俺たちのユニットが今こうしていられるのは英智さんや他のたくさんのアイドルたち、そしてそれを支えてくれている全ての人々のおかげだなと実感しまして。改めてお礼を言いたくなりました」
    「僕自身はそんなに君たちにしてあげたことは多くないと思うけれど。むしろたくさん意地悪をしたくらいだ」
    「いえ、あの日英智さんが俺たちを集めて『君たちはクビだよ』と言ったことが俺たちの始まりですから。あれがなければそもそもあの子たちと出会えていなかったかもしれません」
    「ふふ、懐かしいね。まだ数ヶ月しか経っていないのに随分前のことみたいに感じるよ。ここまで君たちALKALOIDは期待通りの――ううん、期待以上の働きをしてくれている。僕からもお礼を言っておこうかな。本当にありがとう」

     ああ――今日俺がこうして深夜に目が覚めてしまったことも、彼とともに過ごすこともきっと神の思し召しだったのだろう。
     神よ、こうして彼と改めて言葉を交わす機会をくださってありがとうございます。
     こうしてたくさんの良き友に、仲間に出会えて良かった。今までの自らの行動も、罪も、過ちも、喜びも何もかも無駄なことはなかった。
     心の中で感謝を捧げたあとふと時計を見ると針は三時前を指していた。

    「おや、すっかり話し込んでしまいましたな。もうこんな時間ですか」
    「本当だ。ついついたくさん話しちゃったね」
    「では俺がパッと片付けてくるので英智さんは座って待っていてください」
    「僕も手伝うよ」
    「いえいえ、お疲れでしょうし大丈夫ですよ。俺は一度寝ていますし問題ないので」
    「それじゃあお言葉に甘えさせていただこうかな」

     そうして彼の食器もまとめてシンクへと向かった。

     使った食器と鍋を手早く洗い、水切りラックへと並べる。片付けはこれで完了だ。あとは部屋に帰るだけだから早く帰ろう。

    「すみません英智さんお待たせしました……おや?」

     片付けを待っていた彼の方を見るとすやすやと寝息を立てていた。今日の疲れと夜食を食べて身体が温まったことで眠ってしまったのだろう。しかし部屋に戻る前に眠ってしまった彼を起こしてしまうのも忍びない。仮に起こしたとしても寝ぼけ眼の彼の手を引いて部屋まで連れて行くのはなかなか骨が折れそうだ。

    「仕方ありませんな。英智さん、失礼しますね。……よっと」

     眠って返事のない彼に形だけ断りを入れてから背負う。電気を消したり移動のことを考えるとお姫様抱っこよりはこちらの方が楽だろう。お仕事がなければ部屋には零さんがいるはずだ。鍵は開けてもらうことにしよう。
     英智さんたちの部屋の前に到着し、控えめにドアをノックする。少し経ってから零さんが出てくる。

    「おや、風早くんとは珍しいのう。……ああ、手間をかけさせてしまってすまんのう」
    「いえいえ、会食帰りに遅くまで付き合ってもらった俺の責任ですし問題ないですよ」
    「全く、天祥院くんには自分の限界まで止まれん悪癖を直して欲しいもんじゃ」
    「俺たちの仕事は身体が資本ですからね。俺も改めて肝に銘じておくことにします」
    「では天祥院くんは我輩が寝かせておくから風早くんは部屋にお帰り。ここまで連れて来てくれてありがとう。ゆっくりお休み」
    「ありがとうございます。英智さんも零さんもお休みなさい」

     英智さんを零さんに預け、自室へと向かう。まだまだ外は暗いがもうすぐ明け方頃だろう。毎朝の務めまでこのまま起きていても良いが少しだけ眠ってしまおう。
     部屋に着き、同室の彼を起こさないようにベッドへと入る。いつもより少し長く、いつもより楽しかった昨日に別れ、新しい今日に会いに行こう。寝坊しないよう、念の為にアラームをセットして俺は瞼を閉じた。
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