交わらない視線 アジトのソファで、アクセルが寝転んだままスマホをいじっていた。指先は器用に画面をスワイプし、何やら楽しげに鼻歌まで漏れている。
「なあ、ダグ。こういうの知ってる?」
興味もなさそうにドア際に立っていたダグの肩越しに、アクセルが中身をチラ見せする。ポップなハートマークとカラフルなゲージが踊る、いかにも軽薄そうなアプリだった。
「……なんだそれは」
「カメラで撮った相手と自分で、恋愛診断してくれるんだってさ。“相性脈アリ!”とか出るやつ。ちょっと面白そうじゃね?」
「くだらない」
「まあまあ、そう言うなって。ちょっと試してみたんだよ」
アクセルはわざとらしく目を細め、ニヤリと笑った。
「さっきクリスにコーヒーもらったときに撮ったけど、結果は“相性20%”」
「……で?」
「で、次。オレが廊下でダグを見かけたとき、こっそり撮って入れてみたら……ピコン♪」
アクセルはにやりと笑いながら履歴画面を突きつける。そこにはしっかりと“相性98%!脈アリ(ドキドキ)”と表示されていた。
「……俺に反応してどうする」
「ははっ、オレがおまえに反応しちまったみたい」
「……知らん。くだらない」
ぐい、とアクセルは身を起こし、ソファから立ち上がるとダグの前へ歩み寄った。顔の距離がやたらと近い。ダグは無意識に一歩後ろへ引く。
「なあダグ。おまえって気になるやついねぇの?」
「は? なんだ急に。おまえに話す義理はない」
「ちぇっ、冷てぇなぁ。あーあ、……ダグの気になるやつ、オレだったらよかったのになぁ」
軽口のように言いながら、アクセルは相手の反応を見逃さない。
「……おまえは、どういう意図でそういうこと言うんだ」
「んー、からかい半分。でも、ちょっとはマジ」
「……紛らわしい。なに考えてるか分かんないって、女に言われてそうだな、おまえ」
「ははっ、よく分かってんじゃん。実際に言われた」
「だろうな」
ダグはため息をつき、視線を逸らした。だがアクセルは追い打ちをかけるように、ほんの少し真面目な声で囁く。
「じゃあさ。オレがもっと……真面目に言えば、どう?」
その言葉に、ダグは目を細めてじっとアクセルを見据えた。
沈黙が長引いたあと、静かに返ってきた声は、少しだけ揺れていた。
「……いったい真面目に何を言う気だ?」
アクセルは笑う。いつものふざけた笑顔より、ほんの少し、穏やかだった。
「俺からの愛の告白とか?」
仮眠室の空気が一瞬止まった。
ダグは黙ったまま、手元のコーヒーに口をつける。
「なんで疑問形なんだ? はっきり言えないなら、最初から言うな」
アクセルは一瞬きょとんとしたが、すぐに口の端を吊り上げた。
「……ほんと真面目すぎるよな、おまえ」
声は軽く笑っているように聞こえたが、その奥にはわずかなかげりがあった。
ダグは視線を逸らし、窓の外をぼんやり見つめたままコーヒーをひと口。
「……聞かなかったことにする」
沈黙が落ちる。
その静けさの中で、ふたりの距離はわずかに変わり始めていた。