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    slekiss

    @slekiss

    QMA・YGO(GX未履修)・悠久・格ゲー(主にSNK系、初期のBB)・刀剣等。
    今描ける環境ほぼないので基本文字書きのひと。
    過去絵(主に描きかけて飽きたやつ)や駄文をぽいぽいと。

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    slekiss

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    は?遅刻?うるせえ!俺が寝るまでは22日なんだよ!!
    という訳で、1122(いいふうふ)の日合わせで書いた2主ルー。

    ※のたり=のどかにゆったり、の意。与謝蕪村のアレと同じ。

    #悠久幻想曲
    longFantasia
    #2主ルー

    ふたり、のたり。 シオンが目を覚ましたのは、昼を回った頃だった。
     夕べは遅くまで書類と格闘をしていたため、つい起きるのが遅くなってしまったのだ。
    「腹減ったな……」
     寝ぐせのついた髪に手をやって、シオンは辺りを見回した。
     いつもは「腹減った口撃」がやかましいヘキサも、今日は珍しく大人しい。
    「……居ないのか」
     机の上に置いていた『非常用』の貯金箱が、空っぽで横倒しになっているところをみると、いつまでも起きてこないシオンに立腹して、ひとりで外食に出たのだろう。
    「あいつ……全部持って行きやがったな」
     給料前の数日を凌ぐために貯めていたのを根こそぎ持っていかれ、シオンは眉間に皺を寄せて項垂れた。
    「今日は昼抜き決定だな……」
     口に出すといささか情けないものを感じるが、本当のことだから仕方が無い。
     取り敢えず布団から這い出し、服を着替えると、本棚の一角に見慣れない本があるのに気付いた。
     緑色の装丁に、金の箔押しでタイトルが書かれている。
    「あ、思い出した」
     以前ルーの部屋で見つけ、面白そうだからと借りたものだ。
     内容は──ルーが読むだけあって──小難しい字が並んでいたが、内容は意外にわかりやすく、案外すんなり読めてしまったのだった。
    「今日は何もすることないし、返しに行くか」
     ううん、と伸びをして、シオンは本を片手に寮を出た。


    「ルー、居るかい?」
     扉の前で声をかけたが、反応がない。留守なのかとノブに手をかけると、鍵がかかっていないのに気付いた。
     変なところで大雑把なシオンと違い、ルーは外出時にはきちんと施錠をするので、おそらく在宅はしているはずだ。
    「ルー、お邪魔するよ」
     一応そう断りを入れておいてから、シオンは室内に入った。
     ルーの部屋は間取りがいいのか、窓から差し込む日差しが適度に室内を暖めてくれている。
     玄関から見えるリビング。その片隅に据えてあるソファに、ルーは居た。
     すらりとした長身を横たえ、シオンが入って来ても起き上がる気配はない。
     海色の瞳が閉じられ、胸の辺りが微かに上下しているところをみると、どうやら眠っているらしい。
     起こさないように扉を閉めてそうっと近寄ると、あでやかな金髪が、差し込む陽光に照らされてまばゆく輝いているのが見えた。
     傍まで行くと、長い睫毛が影を作っているのも判るし、規則正しい寝息も聞こえる。
     とくん、と胸が鳴った。
     いつもより少しあどけなく見える寝顔。半ば無意識に身体が動いて、薄く開いた唇に口付けた。
    「……ん……?」
     触れるだけの熱に気付いたのだろうか。とろりととろけたふたつの海色が、ふわりと弧を描く鳶色をとらえる。
    「おはよう」
    「……シオン?」
     シオンのかけた目覚めの挨拶に、ルーはたっぷり時間を置いてから反応した。
     見た目からは想像出来ないくらい、ルーの寝起きは悪い。
     シオンもそれが判っているから、それ自体に気を悪くはしない。
     むしろ面白がって「お目覚めですか、お姫様」などと言ってみたりする。
     最初は状況を飲み込めず、脳内に疑問符を浮かべるルーだったが、時間が経つにつれて明晰さを取り戻すと、漸くシオンの言葉の意味に気付いて、微かに眉根を寄せる。
    「誰がお姫様だ」
    「俺の目の前に居る人」
     そう言って、シオンがにっこりとひと好きのする笑みを浮かべると、ルーは溜息をひとつ吐いた。
    「この不法侵入者め」
    「心外だなあ。俺はちゃんと『お邪魔するよ』って言ったぞ」
    「部屋の主である俺が許可してないだろうが」
    「あれー、俺には『よく来たなシオン、さあ上がってくれ』って声が聞こえたんだけど」
    「それはお前の都合で生み出された幻聴だ」
     シオンの戯言を斬り捨て、ルーはソファから起き上がると、キッチンに向かって歩き出した。
    「……まあいい。茶ぐらいは淹れてやる。それで、何の用だ」
    「あ、忘れてた。これ。借りてた本」
     最早本末転倒な感がするシオンの台詞に呆れるが、今更突っ込む気にもなれない。
    「お前、それでよく部隊長やってられるな」
    「うん、俺もそう思う」
     あくまでも呑気なシオンの口調。ルーは再び溜息を吐くと、キッチンに消えた。
    「あ、ルー。俺も手伝うよ」
     ついでに一緒にお昼食べよう、と付け加えて、シオンはルーのあとを追った。
    「お前、また金欠なのか」
    「う……き、今日は不可抗力なんだってば」
     シオンの企みはあっさり看破されてしまっていたが、それでもルーは二人分の材料を取り出す。
     いい加減自分も甘くなったな、と心の中で呟いて、ルーは苦笑する。
    「簡単なものでいいか?」
    「異議なし。俺もう腹減って倒れそうだよ」
     キッチンから聞こえる声は、いつも通りのふたり。
     仲良く寄り添う二人の髪が、窓から差し込む陽光でひとつに溶け合ったように見えた。
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