可愛い人 深津一成が祖父母以外の人に「可愛い」と言われたのは、沢北が初めてだった。
ある昼休み、深津がミルク系の飲み物を飲んでいるところを沢北に見られた。
「深っさん、いちご味を飲まれてるんですね。可愛いです」
深津は気にも留めなかった。沢北栄治の褒め言葉なんて、女子が何を見ても「可愛い」と言うのと同じようなもの。だって、クラスの女子が、顔が変で口が大きくて肌が緑のキャラクターを「可愛い」って言ってたのを、深津はこの目で見たことがある。
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ある日、深津は寮で、祖母がくれたふわふわで暖かいパジャマを着ていた。沢北はそれを見て、こう言った。
「深っさん、小動物みたいで可愛いですね」
深津は少し考えてから、「ふん、ちょっと頑張れば、自分も可愛くなれるんじゃないか」って思った。
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