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    もずく

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    もずく

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    ダミアニャ成長ifです。人物像、色々捏造してます。
    20代後半くらいのイメージ。間に過去挟みます。
    原作のかわいいダミアニャはいません。
    腹黒で打算的なダミアンがお好きな方以外はあんまりおすすめできません。

    at the lakesideあの頃、父親は絶対だった。

    「庶民と結婚したいと?」
    「はい、お許しいただきたく思います」
    「ならん」
    アーニャとの結婚の許可をもらうため、久しぶりに自宅に戻り父にお伺いをたてたところ、想定通り「NO」と返ってきた。


    盲目的に慕っていた。父が全てだった。認められたくて、褒められたくて、愛してほしくて、できることは全てやった。
    こうして今、向かい合っていると、あぁ、父も歳を取ったのだなと思う。一見すると、どこにでもいる中年男性だ。相変わらず眼光だけは鋭いが。

    「なぜですか?デズモンド家は、今更婚姻で血縁関係を強化する必要はないはずです」
    俺が反論するとは思わなかったのだろう。少し怯んだように見えた。
    「口答えをするな。お前の相手はもう決まっている」

    昔は、父は完璧で、いつも正しいと思っていた。こうやって冷静に話を聞いてみると、なんの理屈も理論もないことがわかる。
    人間なのだから、誰しも常に正しいわけではないし、誰しもどこか不完全だ。この人も例外ではないと、そう思えるようになったのはいつからだろう。

    −−−−−

    「じなーん、あっ、やっぱりここにいた」
    「げっ!お前なんでこんなとこまで来てんだよ」

    イーデン敷地内の奥深く、ステラレイクと呼ばれる湖‥‥までは距離があるので、校内の手近な池のほとりにいたところ、ここまでフォージャーは俺を探しに来たらしい。しかし、なんでここにいるってわかったんだろう。

    「手下たちが探してた。じなんが7個目の星取ったからお祝いしようって」
    「‥‥まだなったわけじゃねーし、いらねーよ」
    後ろ手をついて地面にぺたりと座り込んでいる俺の左隣りに、声をかけながら腰をおろした。勝手に座るんじゃねぇよ。いいって言ってないだろ。

    「星取れたのうれしくない?」
    そう問われて、瞬間ギクリとする。フォージャーは普段突拍子もないことを言うが、その実、心の機微には意外と敏感だ。誰にも知られたくない、もしかしたら俺すら知らない心の中を言い当てる。

    「‥‥まだなってないなら一緒だろ」
    「そうかなぁ。手下たち、すごくよろこんでた。じなんの目標なんだろ?」
    隣に座ったフォージャーが、相変わらず俺をまっすぐに見つめてくる。

    目標、そう、ずっとそれを目指して努力してきた。皇帝の学徒になれば父上に振り向いてもらえると思って。裏を返せば、今、関心を向けてもらえていないのは、まだそうなっていないからだって。

    でも、ふとした瞬間に疑念が首をもたげる。果たして皇帝の学徒になったら、本当に父上は俺を認めてくれるのだろうかと。もしかして、優秀だとかそうじゃないとかは関係ないんじゃないかって。
    そもそも俺には関心がない。
    ただの“兄貴のスペア”である俺には。

    その考えはどんどん俺の中で膨らんでいって、あと星ひとつとなったところで、もう無視できないくらい大きくなってしまった。

    「だいじょぶ」
    いつかそう言われたように、地面についている俺の左手に自身の手を添えながら言った。
    「な、なんだよ!触るんじゃねーよ!」
    驚いて、ばっとそこから手を離す。いつも思うけど、コイツ、他人との距離が近いよな。パーソナルスペースが人より狭いのかもしれない。勘違いしそうになるからやめろ。って、勘違いってなんだよ。何考えてんだよ、俺。

    フォージャーは小首を傾げて俺を見つめる。心の中を見透かすような、翡翠色の大きな瞳と見つめ合う。なんだか居た堪れなくなり、俺の方から目を逸らした。

    「じなんがんばってる。みんなそれ知ってる」
    「頑張るとか、努力だけじゃダメなんだよ。結果が大事なんだ」
    途端にフォージャーががくりと項垂れた。
    「うぅ、確かに。アーニャもがんばってるけど、まだ星たりない」
    「まぁ、星も雷も同じだけ持ってるしな。でもお前もすげーよ、お前も7個目だろ」
    「ふふん、アーニャすごい」
    さっきまで萎れてたのが嘘みたいに、一転ドヤ顔をした。このポジティブさを見習いたいかそうでないか、微妙なところだといつも思う。

    「お前はなんで皇帝の学徒になりたいんだよ?」
    イーデンに入ったからにはみんなが目指すもの、そう思っていたから、一度も、誰にも聞いたことがない。でも、なぜだか今、聞いてみたくなった。他の誰でもない、目の前のコイツに。

    「世界を平和にするため」

    思いがけない壮大な夢に、たまらず吹き出す。
    「なんだよ、それ。壮大すぎるだろ」
    いつもの突拍子もない冗談だと思い、隣に座るフォージャーを見やると、ひどく真剣な顔をしていた。
    「おかしい?アーニャが平和を目指したら」
    「あ、いや、その‥‥悪かったよ、笑って」
    「ううん、アーニャも大げさだなって思ってる。アーニャひとりの力なんて小さいし、結局なにも変わらないのかなって思うこともある。でも、あきらめたくない」
    「お前が皇帝の学徒になったら、なんで世界が平和になるんだよ」
    そういえば入学した時からずっと言ってたな。あれはただの誇大妄想ではなく、ちゃんと意味があったんだ。
    「えへへ、秘密。おしえなーい」
    「‥‥なんだよ、それ」
    「で、じなんはなんでなりたいんだ?」
    ぐっと言葉に詰まる。コイツの世界平和に対して、自分の目的があまりに矮小で、あまりに子供じみてるんじゃないかって、口にするのはひどく格好悪い気がした。
    「なんでもいいだろ。ほっとけ」
    「ずるい!アーニャ、ちゃんと言ったのに!」
    「いや、お前も肝心なことは言ってないだろ。だからいいんだよ」
    あぁ、コイツといると調子が狂う。“デズモンド”ではなく“ダミアン”が出てくる。デズモンド家に相応しい人間でありたいと思うのに、やっぱり自分は弱くて幼稚なダミアンなのだと思い知る。

    これ以上格好悪いところは見せられないと立ち上がり、歩き出す。
    「あっ、アーニャをおいてくな」
    「知るか」
    大股で歩いていると、小走りにフォージャーがついてくる。しょうがねぇなと、歩くスピードを緩めた。隣を歩くフォージャーがぽつりとこぼす。
    「じなんはきっと、色々考えすぎちゃうんだと思う。もっと単純でいいんじゃないかな」
    何を言わんとしているのかよく分からず、黙って横目でフォージャーを見る。
    「えっと、だから、じなんはじなんのためにがんばればいいんじゃないかな。おじが“知は力だ“って言ってた。きっとじなんの努力はじなんのものだよ。他の誰のものでもなくて」
    そして力いっぱい拳を握りしめた。
    「もし、じなんの努力を認めない人がいても気にするな。そいつは間違ってる。おまえがすごくがんばってるのは、アーニャがちゃんと知ってる。そいつの代わりに、絶対アーニャがほめてや‥‥いたっ!」
    「なんでそんな上から目線なんだよ!ほめてやるとか大きなお世話だ!」
    春色の頭にチョップして目を逸らす。そうでないと、顔が赤くなっていることに気づかれてしまうから。

    あぁ、くそっ、なんでお前は俺が欲しい言葉をくれるんだよ。なんでわかるんだよ、ほっといてくれよ、俺になんか構うなよ。

    そんなこと言われたら泣きそうになるじゃねーか。

    本当はわかってた。皇帝の学徒になっても何も変わらないってことくらい。でもそれを認めたくなかった。努力すれば振り向いてもらえるんだって思い込まないと、もう前に進めなくなってしまう。今まで何のためにやってきたんだろうって、もうどこにも行けなくなる気がしたんだ。

    でもいいのか、俺は俺で、友達がいて、夢だってあって、努力を認めてくれる人がいるんだって。そう胸を張って、自分の思う通りに進めばいいんだって。

    −−−−

    あぁ、思い出した。やっぱりきっかけはお前だったんだな。あの日、俺の努力は俺のものだって言ってくれて、その努力を認めない人は間違ってるって言ってくれて、お前が“ただのダミアン”を肯定してくれたことが、たまらなくうれしかったんだ。
    それから少しずつ、父親を盲目的に慕うことから離れていったんだよな。

    「どうしてもというなら、勝手にしろ。出ていけ、二度と姿を見せるな」
    そんなことを考えてると、父はそう話を切り上げた。ここまでか。ぺこりと一礼し、退出する。

    以前の俺なら絶望しただろうな。
    でも今となっては、どうということはない。
    世の中のことをわかっていないのは、あの人の方なのだから。

    自室に戻り、電話をかける。想い人はワンコールで出た。きっと電話の前で、今か今かと待っていたのだろう。そういうところが愛しいなと思う。
    「はいっ!フォージャーですっ!」
    食いつくように勢いよくそう名乗ったので、くすりと笑みをこぼす。
    「えらく元気がいいな」
    「むっ、笑うな」
    「いや、褒めてるって」
    「絶対褒めてない」
    ころころと変わる声色がアーニャらしい。

    なるべく明るく、大したことじゃないというトーンで告げる。傷つけたいわけではない。
    「やっぱりダメだった」
    「‥‥そっか」
    顔を見なくてもわかるくらい、気落ちした声が返ってきた。
    「まぁ、想定通りだよ。成人してるんだから、そもそも親の許可はいらないしな」
    「でも、やっぱり、ちゃんと認められたい」

    きれいなアーニャ。人の心を読んでなお、その心の美しさは奇跡だと思う。人間一皮剥けば誰しも欲望の塊だと、心が読めない俺でもそう思うのに、アーニャはまだ、人を信じられる心の強さを持つ。人を理解し、そして理解されたいと願う。両親の教育の賜物だろうか。

    その美しさに、強さに、俺はどうしようもなく恋焦がれている。

    「大丈夫だよ、きっと。そのうちわかってもらえるよ」
    ふと一瞬、電話口に沈黙がおりる。電話だから読めないはずなのに、アーニャは何かを感じ取ったらしい。
    「‥‥なにか企んでる?」
    「いや、何も」
    「嘘だ。絶対嘘」
    「嘘じゃないよ。今度会った時、読めばいいだろ」
    「‥‥別に心が読みたいわけじゃない」
    「そうだな。悪かった」

    これがアーニャの美徳だ。能力のある自分に引け目を感じている。黙っていることもできただろうに、告白した際、知ってから判断してほしいと打ち明けられた。はっきり言って驚いた。単にその能力だけでなく、フェアでいたいという心のありように。

    「しかも最近は、ダミアンの考えてることがよくわからない」
    「そうか?ごく単純だと思うがな。お前を愛してるってことくらいだよ」
    「ほらそうやってすぐ誤魔化す!卑怯だぞ!あんなにすぐ真っ赤になってた“じなん”はどこに行ったんだ!」
    思わず声を上げて笑う。そうか、バレてたか。

    アーニャは良くも悪くも単純だ。心を読むことはできるが、そこから推察するということができない。見たまま、聞いたまま、読んだまま、だ。まぁ、その能力を知りながらそばにいるのが俺くらいだから、その必要がなかったのだろう。
    特性さえ知ってしまえば、対処のしようはいくらでもある。そのことを、きれいなアーニャは知らないのだ。

    「とりあえず、また話してみるよ。次は機嫌が良さそうなタイミングを見計らうさ」
    「うん、お願い。じゃあまたね」
    「おやすみ」

    かちゃりと受話器を下ろし、イスに沈み込む。タイミングよくドアがノックされた。
    「ダミアン様、ジーブスです」
    「入れ」
    さすがにこの歳になってもダミー呼びはキツいので、数年前にようやく変えてもらった。
    「××家との婚約の件、いかがいたしましょうか」
    「そうだな‥‥父は進めたいらしいが、俺はする気はない。ジーブス、お前が名代として行ってくれ。あくまでも、俺はまだ婚約を知らないテイで。いつでも白紙に戻せるように」
    「かしこまりました」
    そしていつもの通り、きれいに一礼する。姿勢を戻すと、ふいに柔らかい口調になった。
    「やはりお許しになりませんでしたね」
    「あぁ、俺が自分の思う通りに動かないのが気にいらないんだろうな」
    「しかし、『出て行け』だなんて無茶を言いますね。今、デズモンド家からダミアン様がいなくなったらどうなるのか、何もお分かりになっていない」
    「まったくだ」

    アーニャに昔そう呼ばれていたように、俺は次男で、つまり兄に何かあった時の保険でありスペアだ。兄の出来が悪ければ俺にも存在価値はあったのだろうが、残念なことに、彼は俺以上に優秀だった。以前はそれがひどく苦痛だった。俺を見てほしかった。俺に価値があると思いたかった。

    でも、誰しも、絶対にこの人でなければならないことなんて、そうそうない。代えがきくのは俺だけじゃない。
    自分の価値は、自分で作るしかない。

    さてどうするか。端的に言えば、新しい商品を作る時と同じだ。徹底的にリサーチする。市場は、攻めるべきターゲットは、俺のポジショニングは、思わず惹かれるキャッチコピーは。こういう時、経済学を学んでいて良かったと思う。政治にはない発想だから、きっと父も兄も知らない。

    そうして俺を作り上げた。
    “ダミアン・デズモンド”というブランドを。

    比較的整った外見に産んでもらえて、親には感謝している。こればかりは、母に似てよかったと心の底から思う。

    まず、マスコミに積極的に顔を売った。新聞や経済誌ばかりではなく一般誌にも。特に女性が読むようなファッション誌に。
    それはなぜか、世間を味方につけるためだ。普段、政治にも経済にも興味のない大勢の人に、デズモンド家=ダミアン・デズモンドと、印象づける必要があった。

    そのためなら、どんな企画でもOKした。やれ「ダミアン・デズモンドの1週間コーディネート」だの、「御曹司への100の質問」だの、「密着!セレブの休日」だの。おかげで知名度はかなり上がったし、なにより親近感を醸成することができた。

    もちろん本業も疎かにしない。立ち上げた新規事業もいくつか軌道に乗ってきたし、顔が知られることで会社の人気も上がり、入社希望者も増えた。そうして入社した優秀な若手を積極的に登用し、ゆくゆくはグループの中枢を担わせる。そうやって全てを俺の思う通りに変えていく。頭の固いお偉方はいつかはいなくなる。その時を虎視眈々と狙えばいい。

    世間ほど無責任で恐ろしいものはない。それと同時に、味方にすれば心強いことこの上ない。大事なのはうまく利用することだ。

    そう、すべてはこの時のために。

    あとは懇意にしている記者に、うまく情報を与えてやればいい。そうだ、それは、モジャモジャ頭のあの人にお願いしよう。きっとうまくやってくれる。

    そのうち記事が出るだろう。「デズモンドグループ御曹司、十年愛を実らせてゴールイン」とか「現代のシンデレラ誕生」とか。世間なんて勝手なものだ。きっと無責任にわっと盛り上がって、そしてまたすぐ次に群がる。

    しかし大切なのは最初のその盛り上がりだ。父が、家が、かき消せなくなるくらい盛り上がってくれ。

    欲しいものは必ず手に入れる。
    どんなことをしても。
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