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    klnc_e112

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    klnc_e112

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    新刊の神隠しのお話は最初、同じ話の鶴丸視点と豊前江視点、そして短めの審神者視点のお話で構築予定でした。
    しかしとてもじゃ無いが無理だ!!となり、今回の形式と内容へとなりました。
    なので一部視点違いのものがそのまま残っていたので、下書き状態のままですが、削除前の供養としてぽぽいと置かせてもらいます。

    本の内容と異なる点が多々あります。

    #ぶぜつる
    wavingOnesSword

    神隠しのこぼれ話。供養。鶴丸視点

    帰れば傷は癒える。だが負った傷の感覚や痛みは記憶に残る。
    ぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる、その繰り返しだ。
     じゃり……じゃり……、ずしゃっ。
    べしゃりと前のめりに転がった俺の耳に靴音が聞こえてくる。
    「おい、大丈夫か?」
    右手だけをゆらりと持ち上げ指差す。
    「……俺は君が嫌いだ」
    口を動かせば唇に玉砂利の感触、口の中に土の香りがして、舌にまとわりつく砂利のせいで口の中は土の風味となり舌に貼りついた。
    顔や手のひらに擦りむいた感覚はあるが痛みは感じない。
    「俺は君が嫌いだ」
    右手だけを持ち上げて指を指す。嫌いだ。苛立つ。成り代わりたい。
    「俺、あんたに何かした覚え無えけど」
    「ああ、何も無いさ。何も無いから苛立つんだ」

    「そう言うところがなあ、たまらなく苛立つんだよ。だから連れてく」
    「何処にだ?」
    「俺ん中」
    「あんたの?」
    「ああ。俺の中に君を隠す」
    腕に力を込め上体を持ち上げる。手から外れた本体を再度掴み、鞘から刃を覗かせる。チャキっと、鯉口を切る音が四方から聞こえたが豊前の手がそれを制した。
    腰に巻いてある江の物揃いの上着を剥ぎ、袖口にある豊前江の紋を血で汚れた手袋で触ってやる。
    時間にしたら一瞬。いや、存外鈍かったかもしれない。
    同じ手で自分の首から猿手を外す。首に濡れた感触がしたが気になどならない。いまはこいつの気が変わる前に、連れていかなけければならない。
    豊前江が俺をきちんと認識したのはいまなんだろう。俺はずっと、顕現した時からこいつに捕らわれていたのに。
    「今だけ、君は俺のものだ」
    「なあ、やっぱ主に聞いてからじゃ駄目か?あんた疲れてんだろ?饅頭か団子でも食って」
    首振る
    「今がいい」
    「どうしてもか?」
    「今がいい」
    「ん。ならいいよ。行こうぜ」
    満たされた気持ちになった。ちゃりっと音を立て、半ば倒れ込むように豊前の首に、外した鎖を取り付けた。


    「何も無えな。ここ」

    身体の下にある温もりだけで良かった。
    離さないと、縋りついたまましばらく押さえつけていた。

    鎖の跡
    思い出す。
    「何で止めなかった!明らかに正気じゃ無かっただろうっ!?」

    胸ぐら掴んで
    「でも、本音だった」
    「主に報告にっ、」
    「もう知られてっから」
    「なら尚更俺から行かないとだろっ」
    「大丈夫だから落ち着けって」
    倒される。布団頭まで被せられる。
    「すまなかった」 
    再び硬い布団に身を任せる。
    「そこは“ありがとう”が良かったんだけどな」
    俺も嬉しかったんだぜ?
    「で、なんであんな事したんだ?場合にっよちゃああんた、あっと、鶴丸だよな、あんたの名前。そのあんたがさ、刀解になっかも」
    「羨ましかったんだ。君のことが」
    「羨ましい?」
    「君は主に請われてやってきたのだろう?」
    「あんたが思ってるほどいいもんでも無いけどな」
    転がった。
    「え、君もここで寝るのかい?」
    「おう。俺あんたのこと気に入ったけ」
    「ああ、あと一個言い忘れたんだけどな」
    「ん?」
    「実は今ここ撮られてんだよな」
    「とら……?なんだ?」
    「そこ、天袋んとこ黒いの挟んであんだろ?あれ、“かめら”ってやつ。あれでここ映して広間で見てる。声も聴こえてる」
    「は?」
    「じゃ、おやすみ」
    「待て待て待て!寝れるか!おい!」
    嘘だろ?勘弁してくれ。
    それからなぜか俺は豊前江に懐かれた。懐かれすぎて、それ以上のことにまでなっちまったけどな。
    それを語るのは逃げさせてもらうぜ



    豊前江視点


    連れてかれたのは真っ白な空間だった。何も無い、畳も布団も何も無い場所に寝転んでて、俺の上に、赤く汚れた白い太刀が被さるようにしがみついてた。
    このひとも俺のこと好きなんかな?
    しっかし、
    「何も無えな。ここ」
    次連れ込まれる時、何か持ってくっかな。
    このひとやっぱ俺名前わっかんねえな。そういうのも、苛立たせたんだろうな。外出たら一回話すかしてみっかな。でも気難しそうっつうか、思い詰めるタイプっぽいのはなあ、ん〜〜……、ま、話してみて合わなかったらそれはそん時だよな。
    「寝たか?」
    疲れてたんだなあ。心臓が動く音がする。
    「あったけえなあ」
    大の字に寝転んで何も無い空間を見上げる。
    嫌いっち言いよるがくっついて寝てくるこのひとに、不思議と嫌悪は無い。
    「主に触られるんはあんま好きじゃねえのにな」
    かと言って自分から触ろうとも思わんけ、腕は投げ出している。
    無理矢理、どうしようも無い力であの場から引き剥がされた。霊力の分厚い膜で包まれてる感じか。
    程度的に力づくで出れそうなんだが、やるとこのひとに負担かかりそうだしな。
    「卵の内側ってこんな感じか?」
    すう、すうと寝息が聞こえる。
    「名前、聞いとかんとな」
    もうちょいここでぼうっとしときてえなってなってうとうとしてたら、腹の上でこのひとは熟睡したらしく、気付いたら外に出てた。

    「なあ、俺も鶴丸のこと鶴さんって呼んでいいか?」
    膝枕を許されるぐらいにはなった。
    「……、それは」
    「やっぱダメか」
    「いや、呼び捨てとその呼び方だと上がってんのか下がってんのかどっちだ?って」
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