ジェイミーが猫になった話(仮)ジェイミーが猫になってしまった。
何を言ってるか分からねぇと思うが本当なんだ。
前の晩に一緒にベッドに入ったのは確かなのに、朝目が覚めたらジェイミーがいたはずの場所には艶やかな毛並みをした細くて小さくて綺麗な…黒猫が眠ってたんだ。
はじめはジェイミーのいたずらなのかと思った。
でもリビングのテーブルの上にはアイツの大事な薬湯入りの瓢箪が乗ってたし、ジェイミーの服もそのまま床に脱ぎ捨てられたままだったんだ。
風呂場にもトイレにもクローゼットにも、部屋の中のどこにもジェイミーはいなかった。
そんなアニメみたいな事有る訳ないとは思ったけど、混乱した俺は丸くなって眠る猫をそっと揺さぶって
「ジェイミー?」
って声をかけてみたんだ。
そしたらアイツの三つ編みに似た長いしっぽがゆらりと揺れて、パタンとシーツを叩いて返事してきた。
ジェイミーがたまに見せる、まだ寝てたいってぐずってる時みたいで。
そんな訳ないって、自分の考えを打ち消したくてもう一度
「ジェイミー」
って呼んだら、片目だけ開けてちらりと俺を見て、不機嫌そうに
「にゃー……」
って返事をした。
それはすごく…ジェイミーに似てて…、俺はそのまままた目を閉じてしまった黒猫を隠す様にブランケットをそっと掛けて、キッチンまで逃げた。
心を落ち着かせる為にお湯を沸かしてインスタントのコーヒーを入れて、ブラックのまま口をつける。
一口飲んだ後リビングに移動してソファに座って、テーブルの上の瓢箪を見つめた。
もし、あの猫とジェイミーが関係なかったとして、服も着ないでどこ行ったんだ。
百歩譲って、俺の服を着てこの部屋を出てるとしても大事な瓢箪を置いていくだろうか…。
そこまで考えて玄関を見に行ったら、そこにはお洒落なジェイミーの靴はそのままそこにあったし、勿論俺の靴も全部残ってた。
もし出掛けてるんだとしたら、ジェイミーは俺の服を着て裸足で外に居るってことになる。
「んな事しねぇよな、アイツ…」
俺のファッションセンスに難癖を付けるアイツが、自分の服が洗濯中だとかの理由もなく、部屋の中だけならいざ知らず俺の服を着て更に裸足で外に出るなんて有り得ない話だった。
「それなら『猫になっちまった』って言われた方がまだ納得出来るぜ…」
呆然とソファに戻って、ぬるくなったコーヒーを飲み干した。
今日が休みで良かった。
出勤前に猫のジェイミーを見つけたら仕事にならな過ぎる。
せっかくの休日の朝なのに驚いて目が覚めてしまった。
それに、ジェイミーかもしれない猫の隣でなんて二度寝なんて出来そうもなくて、深く息をつくと散らかってるジェイミーの服や自分の服を拾い集めて洗濯機に放り込んで、一旦考える事を放棄した。