その内ムラアシュっぽくはなる筈 鼓膜の裏側から、割れるような喝采と歓声とが響いてくる。耳を塞いでも、虫のように脳髄を這い回る騒音には効果がない。うるさい。無意識にソファから溢れた指先が、床に置かれた酒瓶を求めて彷徨う。捉えそこねた冷たい感触が、ごとりと鈍い音をたてたそこで、漸くアッシュは目蓋を押し上げた。
傾いた視界にささくれ立った木の床が映る。何か夢を視ていた気がしたが、上手く思い出せない。ただ、大方の予想はつく。緩慢な所作で上体を起こすと、今度こそアッシュは床に転がる酒瓶を手に取った。消し忘れたカンテラの灯りが、緑色の硝子とその中の液体越しに揺れている。一本飲み干してしまえば、また深い眠りが訪れるだろうか。考えながら酒瓶を抱え込み、アッシュは再度ソファへと倒れ込んだ。背もたれの向こうに見留めた窓の外では、変わらず雨が降り続いている。原因はこれか。目を閉じる。絶え間なく屋根を、大地を穿つ雨音は目蓋の裏側で大衆の喝采に転じた。ひとたび意識すると、もう駄目だった。
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