”俺はおかしいのかもしれない”
そう思い始めたのはつい最近。
前まではあいつにくっついていようが肩に乗られようがなんともなかった
それなのに、それなのに最近、あいつに、シンに触れられた所だけが徐々に熱くなって、次第に胸が高鳴る。
名前を呼ばれればきゅんとするし、そばにいるだけで正直気が狂ってしまいそうで。
きっかけなんて分からない、けど確かに、前とは違う感情が俺の中に芽生えてしまっている。
もしかしたら、なんて思いを馳せるも、相手は人間とは程遠い生き物である。
「ははは…ありえないよな。そんな事」
声に出してみても収まらない。ふわふわしてくらくらして、少し酔ったみたいな気持ち悪さ、どこか痛いわけでも、悲しくもないのに涙が出そうになる感覚。
それなのに、それなのに今晩に限ってみんなは出払ってるし二人っきりだしどうすれば…
丁度近くに川が流れているので、気を落ち着ける為に水浴びする事にした。
「頭…冷やしてこよ」
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「つめってぇ…」
今は日も落ちているし、季節的に気温も下がりつつある。
寒い、冷たいなんてことは分かりきっていたのに、やっぱり入ってみると冷たいもんは冷たい。
大きく深呼吸をしたら、寒さで身体が震えた。
肩まで浸かって一息つく。
俺はシンの事なんて好きじゃない。そう。好きなわけない。
でも…
考えても考えてもきりがない。
考えれば考えるだけ顔は熱くなるし胸は痛い。こんなの否定するだけ無駄なんじゃないかと。こんなことありえないと、そう思いたい。
だって、どうしたって叶うはずがない。苦しい思いをするくらいなら諦めてしまいたい。嫌われたくない。けれど諦めきれない。
叶わないのに諦めきれないなんて、まるでどっかの誰かさんと同じだな。
今までバカにしてきたけれど、今の自分にとっては他人事で済まされない。
「俺はどうすりゃいいんだ…」
冷たかった水の温度も、今は感じない。頭の中はあいつだけ。
「シン…」
「なんだよ」
「うわっ!」
心臓が飛び出るかと思った。体中ヒリヒリする、冷や汗が凄い。
「なんだってこんな寒い中そんな事してんだバカ野郎」
「おっ…脅かすなよ!!」
「脅かしてなんかねぇよ。一人でブツブツ言ってんなと思って様子見に来たら…おまえ何してたんだ」
「べつに…べつになんも怪しい事なんかしてねぇよ…」
お前の事を考えてたなんて、口が裂けたって言えない。
言ったらどんな顔されるか、怖くて考えたくもない
「まぁなんだっていいけどよ、風邪ひくだろ。早く支度済ませてこいよな。」
「わぁってるよ…」
あいつの背中が徐々に遠のいていく。
やっぱり俺、あいつが好きなんだ。
離れていく背中を見ながら、胸がきつく締め付けられるような感覚に襲われる。
行かないで、一緒にいて、そんな事は言えない。
このまま一生、この気持ちを隠していくしかないのだろうか。そのうち諦めもつくのだろうか。もしつかなかったら?ずっと苦しいままなんじゃないか。
恋なんて生まれてこのかたまともにした事はなかった。
こんなに苦しくてしんどくて、辛くて、幸せなものだなんて知らなかった。