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    みとせ

    @mitomitonomi14

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    みとせ

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    福乱が付き合うまでのお話

    恋だ愛だと呼ばないで「愛してるよ」

    いきなり目を見て何を言うかと思えば、ふとした拍子に乱歩がそんなことを言った。

    「それはどういう意味だ」
    「そのまんまの意味」

    乱歩は食い下がる様子で、私は思わず乱歩のおでこを軽くトン、とたたいた。冗談だと自分に思い込ませたかった。
    乱歩は、ふっと苦笑いをして目を閉じた。意識したことのない彼の長いまつ毛が、妙に息を詰まらせた。感じたことのない感覚で彼を見ている自分に気がつき、動揺する。

    「ねぇ福沢さん、僕は逃げないよ、だからここで振るなら振ってしまって。」

    戸惑い。ただそれだけの感情に、こんなに振り回されたのはいつぶりか。
    俺はそこに、愛しているか?という問いに、嫌悪を感じなかった自分に、とてつもない嫌悪を感じ、そして咄嗟に乱歩を跳ね除けてしまったのだ。

    「俺は、すまない、お前に恋などの、感情は、感じたことはない」

    途切れ途切れに返した言葉に、乱歩はふっと力が抜けたように微笑んだ。
    そうだよね。と一言だけ残した。
    それから其の話は、もう彼の方からしなくなった。



    ーーー



    困ったことに、其の晩の乱歩の声が、目線が、ああ、その他様々な空気感や温度までもが、忘れられなくなっていた。
    変な話、振ったことをきっかけに、自分の中の乱歩へのある感情に気づいてしまったのだ。
    私が、恋だ愛だと、考えることになるとは。
    笑ってくれていい、いっそ、変なの!と腹を抱えて笑ってくれたらいいものを。

    乱歩の年齢はちょうどあの晩二十を超えた。二十歳という年齢は、あの子にとっての一線を超える瞬間だったのだろうか。ゆえに、ああして私に想いを告げたのだろうか。
    顔には出さないようにしているが、あの乱歩のことだ、あの夜以降私の様子がやや挙動不審なことは判っている筈だ、だからこそ話す際に目を逸らすまいと真っ直ぐ目を見て話す私のことも、何もかも見透かしているに違いない。
    目の前にある、進まない作業をしめす山積みの書類が私に、いや、俺に語りかけた。
    お前はどうしたいのだ、と。
    俺はどうしたいのだろうか。
    答えなど、この場で出せるはずもなく。


    ーーーーー


    福沢さんは、まあ少なくとも僕に恋心なんて抱いてないだろうなとは思っていた。
    向けるとすれば、それは保護という名がふさわしい。親から子供へ向けるまなざしのようなものが近いと。そこまでちゃあんと知っていた。

    (振られちゃった)

    数日前から玉砕覚悟を決めていた。そして二十歳になったあの晩、言ってみたはいいもののああまでスッパリ振られると、いっそ清々しいものだ、いやうそ、すごく悲しいし、なんだこれって思うぐらいめそめそしたい気分だ。女々しい男だな僕も。
    だって仕方ないじゃないか。
    僕の世界を変えてくれた、其の上で僕の居場所を作ってくれた、名前に意味をつけてくれた。
    ここまでの僕の命は、福沢さんのためのものだ、貴方の隣以外考えられないよ。そんな大袈裟な話だって過言にはならないんだ。そのぐらい、愛して....
    また、ため息がひとつ漏れた。
    壊れてしまうなら、言わなければよかった。


    「今夜、家に来るか」
    仕事が終わった後、疑問系で誘ってきた福沢さんの顔は、つまらないほどにいつも通りで、でも声色に確かな張り詰めた糸を感じた。
    断る理由もないけれど、気まずいのはごめんだった。
    いいや今日はと断る前に、僕の右手を社長がつかんだ。とても、いつもよりも強い力で。
    瞳をわずかに狭めて、一瞬その力を嫌がった僕に、社長はすぐに気がついて「悪い、少し力んだ」と、手を離した。
    僕は、まどろっこしいのは嫌いだ。
    進むのなら、それが苦しい未来であれ楽しい未来であれ、早い方がいいと思う。だから、こう言った。
    「かわいそうな僕をただ慰めるつもりなら、今日は行かない」
    少しつっけんどんにそう言ってしまったかな、後悔より前に、あからさまに社長の顔がしょんぼりした。
    (あ、言い方を間違えた、うーん、でも今更気を使うのもめんどくさいや)
    行き場もなく宙に浮いた社長の手をパシっと取り、ぐんと距離を詰めて小さな声で言った。
    あぁ、これから言うことは、ただの建前なんだ。気づいてよ。
    「今更、恋だ愛だに興味がわいてきた?だとしたら遅いよ、ぼくはもう振られたんだから」
    西日のささない暗い廊下で、銀色の前髪の分け目から、何かに怯えるようなくすんだ藍色の瞳が揺れて見えた。
    綺麗だ。
    僕はあなたの、そんなまっすぐで嘘をつけないところも好きでーー...
    思いかけて、やっぱり消した。黒板消しで、すーっと消すように。そこにまだ、チョークの白い書き跡が残っているように。
    今更何を思ったところで意味はない。
    意味はないのに、何を僕は縋りついているんだろう。
    この人がもしかしたら、やっぱり好きだなんて言ってくれることを、何故期待しているのだろう。
    目頭が熱くなった、喉が震えて声が掠れた。
    「期待、するじゃないか。」
    視界がにじんで熱い涙がわっと溢れた。
    「中途半端に優しくしないでよ、余計みじめだ、なよなよしてないで早く決めて!」
    あの夜、決まった決断を、愚かなぼくはもう一度聞き返してしまった。
    莫迦だ。もう一度傷つきにいくのか僕は。
    そう思った途端、やさしい声が頭上から落ちてきた。
    「そうではない、そうではないのだ、乱歩」
    ぐしゃぐしゃの顔を乱暴に拭って、顔をあげた。
    困り顔の福沢さんの顔がそこにぽつんとあった。
    僕の中に、期待と恐怖が入り混じる。
    もう一度振られるのか?それとも受け入れられるのか?
    そんな僕の涙を、福沢さんは無骨な人差し指で下手くそにぬぐった。
    「きちんと話がしたい、招かれてくれるか」


    ーーーー


    福沢さんの家についてから、僕は一言も話さなかった。側から見れば不機嫌なように見えるかもしれないが、それどころじゃなかったんだ。
    いつ何を言われるのか、ひやひやだった。冷や汗だってかいた。もう背中がびっしょりな気がする。
    食事を終えたあと、福沢さんは縁側に座った。僕も、すこし迷ったあと隣に座り込んだ。
    「お前は、恋愛というのをしたことがあるのか」
    唐突な質問に、僕は少し考える。
    したことはない。福沢さん以外に。
    だから、これが恋だという確証はない、でもそれ以外にうまく当てはまる言葉がなかった。
    それをそのまま伝えると、福沢さんは複雑そうな顔になった。
    「私も無い。」
    きっぱり言いながら、彼はなにかに迷っていたように見えた。
    「じゃあ僕のことは、やっぱり、そういう目では見れない。だよね?」
    我ながら、ひどい言葉選びだ。そんなに玉砕したいのか、そんなことを聞けば、分かりきった言葉が返ってくるに違いないーー

    「そこだ、乱歩」
    「.....?」
    「そこの認識が、違うのだ」

    頭の中に疑問符がいくつも浮かぶ。恋や愛に認識もくそもあるものか、この燃えるような好きという気持ちがひとつあれば、それは恋だ愛だという話じゃあないのか?
    「その燃えるような心が、僕にはあって、福沢さんには無いって話でしょう?」
    「誰がいつそんなことを言った」
    え?と、まぬけな声が出た。
    「俺がお前のことを愛していないと、いつ言った。」
    福沢さんは、耳を赤くしながらその後こう続けた。
    正直に言うならば、青年の恋心のようなキュンキュンするような気持ちはよく、わからない。そういった気持ちを幼いお前に向けるのは不純だと、見て見ぬふりをしてきたし、もしかすれば世界一の名探偵に対する畏怖からくる、憧れや尊敬に似た感情だったのかもしれない。
    兎にも角にも、恋かと言われると、そうではない気がするのだ。
    代わりに、世界をひっくり返してでも守りたい、導きたい、そんな大きな愛があるのだと。ただお前を抱きしめている時間が、どれほど満たされた時間であるか、どれほど愛おしいことか。
    「それは、お前の言う恋に、当てはまりはしないかもしれんが、俺はお前を...」

    其のあとは上手く聞き取れなかった。
    気持ちがふわふわ宙に浮いて、
    ただ、目の前の形の良い唇から、この言葉が漏れた。

    愛している

    気づけば、僕は呆然と口を開けて瞬きを繰り返していた。
    福沢さんは、なんとか上手い言葉を探そうと、柄にもなくお喋りになっていて。
    「誰がお前を嫌うものか、受け入れられないと突っぱねたのは、お前にすぐさま飛びつきそうな節操のない己を恥じたからだ、乱歩の言葉に上手いことを言えぬのは、私が口下手だからだ、そんなこと、お前は知っていると思っていたが、どうにも様子が違う、ゆえにこうして、話す機会を」
    そこまで言ったところで、僕は福沢さんに抱きついた。
    福沢さんはびっくりした様子で、両の手の行き場を無くしていた。
    だから、抱きしめて、と一言いった。
    それで、彼の大きな手は僕の背中におさまった。
    「....僕に、何もかも見透かせるわけなんてない....余裕なんてないんだ、貴方と、いる時は。」
    福沢さんの手が、背中に回って、ぎゅっと強く僕を抱いた。
    「すまない、お前に甘えていた。」
    「ふふ、いいよ、甘えてくれるなんて、僕の専売特許じゃあないか。」
    目の端からころんと零れた涙は、もう悲しい味はしなかった。
    恋だ愛だと、決められるようなもんじゃない。
    好き、は、ただお互い、双方向に一直線で、僕らはそれを愛と呼ぶことにした。
    恋の段階なんてないほど、それは膨らみ続ける大きな感情で、こうして日々僕たちを狂わせるのだ。





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