ハデ始/ちっぱい始様♀「………はぁ」
むにっ
「………………」
もにっむにゅっ
「……………………嬴政」
「…なんだ?ハデス」
目の前で行われている視界の暴力ともいえる光景についに根をあげてその光景を生み出している張本人の名を呼んだ。
「………なにかあったか?」
「いや…………なにも」
むにっもに…
_その手はなんだ?誘っているのか?
目の前でソファに座り、溜息を吐きながら無言でひたすら自身の慎ましやかな胸を揉んでいる始皇帝。彼女と恋仲であり、何度も夜を共にした間柄であるハデスからしたらたまったもんじゃない。目の前で行われている行動はハデスからしたら生殺しもいいところだ。
_そんなに触って欲しいのなら余が触りたいし埋まりたい。
始皇帝の手の中で微かに形を変えているマシュマロのように柔らかな塊を凝視する。
「…………ハデス」
「なんだ」
「見すぎだ。仕事の手が止まっているぞ」
「止まるに決まっているだろう。愚か者が」
今すぐ寝室に連れて行かれたいのかッ!という言葉は飲み込み、代わりに溜息を吐く。
普段は明朗快活、闊達自在が服を着て歩いているような彼女にしては珍しい静かな姿が心配になるがそれよりもまずその手の動きをやめて欲しい。本気で寝室に連れ込みそうになる。
本日、何本目になるか分からない万年筆を握り潰した音が静寂な室内に飲み込まれていく。
「……嬴政、悩みがあるならこの冥王が聞いてやろう」
「不好。何も無いと言っているだろう」
「それとも無理やり吐かせてやろうか?」
「……? ………ッ」
言葉の意味を理解したのか俯きながら耳まで真っ赤にしている始皇帝を尻目に新しい万年筆を取り出すハデス。
始皇帝がどちらを選んでも最後にすることは変わらないので今はとにかく手を動かし、一刻も早く目の前に積み上げられた書類を片付けることにする。
「それで?どっちがいいんだ?」
「………ぅう"っ…」
「そうか…では」
「ッ先日、人類闘士だけで茶会があったのだが……」
曰く、そこで他のエインヘリャルの乳がデカかったらしい。
顔を真っ赤にして叫ぶように声をあげた始皇帝の"悩み"はハデスからすると『だからどうした?』と思わず言ってしまいそうになるものだった。他の人類の乳など欠片の興味もない。
「それで……その…お、男は、みな大きい方が良いと…」
「くだらん」
「っ……!」
「乳房の大きさだけで女の価値を決めるのは愚か者のすることだ」
「ハデス…」
手元の書類から目を離すことなく落ち着いた声で語るハデス。
面布をしているから分かりにくいがどこか落ち着かない様子で語られた悩みはハデスからすると理解に苦しむものだった。恐らく他の者と比べて些か慎ましいのを気にしてのことだろうが始皇帝以外のモノに欠片の興味もない。見たいとも触りたいとも思わない。この世で唯一触れたい、愛しいと思う乳房は始皇帝のものだけなのだから。
「それに余はどちらかというと小さい方が好みだな」
「そなたの手には足りなく無いか?」
もう一度、己の微かな膨らみのある胸に手を当てながらハデスに尋ねる始皇帝。こういうことに関しては無知なのかまたしても誘うような仕草をする始皇帝を欲を孕んだ紫水晶の瞳で見つめるハデス。
_宝の持ち腐れとはこういう事だな。育てる楽しみを知らぬとは……
「そなた意外と頭が悪いな?
小さい方が育て甲斐があるというものだ」
「〜〜ッ!!!馬鹿者ッ!!!!」
小馬鹿にしたように恥ずかしげもなく告げられた言葉に首まで真っ赤に染め上げてハデスに吠える始皇帝。そんな事も気にせず最後の書類にサインを施すと立ち上がり、ソファーにしがみつきながら威嚇する始皇帝の目の前まで移動するハデス。
「ッ、なっ、なんだ!?」
毛を逆立てる子猫のように目の前の男に威嚇する始皇帝。その姿を見て優しい笑顔を心がけながら背もたれに手を付き、面布をしている顔に鼻先がくっつくほど顔を近づける。ここで悟られて逃げられることは避けたい。
「さて、そろそろ移動するか」
「何処に……?」
訝しげに尋ねる始皇帝の耳に唇を近づけて囁くように告げる。
「話の続きは寝台の上で聞いてやる」