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    えむぴm_pi0527

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    えむぴm_pi0527

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    探偵バディものiskiが見たくて半年ほど温めて放置してたやつの供養です。
    トリックとか動機考えるのって大変ですね💦
    ※なんでも許せる方向け
    キャラの喫煙、サッカーしてません、モブ女と事後表現あり(恋愛感情なし)
    気が向いたり、需要あれば続き書きます

    Sink Or SwimA Study in Red

    なぁカイザー、お前がたまにものすごく悲しそうに笑うから、その度に抱きしめてやりたいって思ってたんだ。そんなこと言ったらお前は怒るんだろうけど。
    お前は俺のことをまるでティーンだっていつも揶揄うけど、俺からしたらお前の方が迷子の子供だよ。道の端で蹲って母親の迎えを待ってる、そんな子供みたいだ。


    轟音、人の声、匂い、身体の熱、全身に鳥肌がたったあと感覚がなくなる
    ここはどこか、あぁそうだ、あのお店のキルシュトルテが食べたくて、それで…
    最高の気分だった、あの瞬間までは。路地裏にある小さなカフェは俺のお気に入りだった。生クリームをたっぷりと乗せたキルシュトルテは、月一度、チートデイと設定した日にだけ食べられる特別なケーキだ。甘いものは好きだけれど激務を乗り越えるためにはカロリーや栄養バランスは考えなければならない。ドイツには大好きなきんつばが売っていないので色んなケーキを探して探して漸く一年前に見つけたのが自宅から徒歩十五分のところにあるこのカフェだった。
    ケーキを食べて少しの罪悪感とたっぷりの幸福感を抱えて路地裏から大通りに出た瞬間、視界は眩しすぎる白い光で覆われた。爆発音に驚くと同時に身体を丸めて頭を守った。爆風に押された乗用車が突っ込んできた、身体中の痛みに襲われて……

    身体が外の明るさに反応して目が覚める。人生最悪の日の夢を見ていたようだ、寝汗がすごい、とりあえずシャワーを浴びよう。起き上がると横には知らない女性が寝ている、この部屋も自宅ではない、恐らくこの女性の家だ。またやってしまった…...、酒が体質的に合わないようで酔うと度々こういうことがある。人肌が恋しくなるのか、1人寝が辛いのか。自分自身の深層心理はわからないが、バーから誰かを連れ帰ってしまうようで、今日は女性だったが男性だったこともある。


    外が明るいということは今はすでに昼前だろう。面倒になる前に帰った方がいい、シャワーは自宅に帰ってからにしよう。散らばった服を急いで身に纏って部屋を出た。街の風景的に近所ではないな、適当にタクシーを拾って自宅の住所を告げる。タクシーに三十分程揺られた。自宅周辺になったので停めて路地を歩いていれば、家の前に男が立っている。品の良いロングコートはバーバリーか、一見可愛らしい裏地のチェックも彼が着ると馴染むものだなと感心する。彼は足音で近づいてきた俺に気づいて顔を顰めた。

    「朝帰り、いや昼帰りか、良いご身分だな潔」
    「冴…...、なにか用? とりあえず上がってく? 俺シャワー浴びたいから待たせちゃうけど」
    「別にいい、コーヒーでも飲んで待ってやる」
    「そ? じゃあ、どうぞ?」

    別に今更冴に対して遠慮もないので、ゆっくりシャワーを浴びて部屋に戻ると、冴はどこから見つけ出したのか緑茶を淹れて俺のソファー(たまにベッドになる)で寛いでいた。髪を適当にガサガサ拭きながら向かいの1人掛けソファーに座る。

    「うちに緑茶なんてあったんだな、忘れてたよ」
    「今度からは梅昆布茶も置いておけ、まぁ今度と言ってもそんな機会はないかもしれないが。潔、残念ながらタイムリミットだ、お前に貸していたこの家が改装でしばらく使えなくなってしまった。次の家は用意してやったから荷物をまとめろ」
    「えー!? は? まじ? 今?」
    「今」

    この家は職を失ってしまった俺に冴が用意してくれた古いアパートで、古いけれどちょうど良いサイズ感で大変気に入っていたのだ、確か貸してくれるときに数年後には改装か建て直しかで使えなくなるとは言っていたがあまりにも急な話である。
    そういう大事なことは早めに言ってくれよと思うけれど、格安で借りているし、冴の忙しさを知っている手前不満は言えない。そんなに荷物は多くないのだ、服と少しの過去さえ持ち運べればそれでいい。
    二時間やるからそれまでに荷造りしておけと言い残して冴は一度仕事へ戻ったようだ。きっちり二時間後には業者が来て俺の荷物は全て運び出されてしまった。
    指定された住所はここフランクフルトから特急で三時間、南部にあるドイツ第三の都市ミュンヘン。街の中心に高層ビルが建ち並んでいるようなフランクフルトと比べると田舎に感じるが、日本の所謂住宅街出身の俺にはあの大都会は肩身が狭いこともあったので住みやすそうな街だなという印象だ。駅を出てシュッツェン通りを抜けると円形に広がった空間に大噴水が見えてきた、真夏であれば子供達が喜んで噴き出し口に向かって走り出しそうな、貯水部分がなく、地面から噴き出るタイプの変わった噴水、今は真冬なので周囲に座っている人も少ない。ノイハウザー通りのレストラン街が魅力的だが、まず家だ。ここはこれからゆっくり開拓していけば良い。ようやく渡された地図に書かれたマリエン広場が見えた、荘厳な建物は手元のマップによると旧市庁舎らしい、広場を出て左に曲がる、三本細い通りを抜けると緑の建物が見えた。四〇一号室のインターフォンを押す、オートロックが開く、古いマンションにはエレベーターがなく、広い階段を四階まで上っていく、四階には一戸しかない。インターフォンに指をかけたところで、ドアが開いた

    「え? 絵心さん?」
    「来たな潔世一、とりあえず入れ」

    玄関を抜けて左奥の部屋がリビングのようだ。
    部屋に入ってまず感じたのは白い煙、中に人がいる、一人掛けソファーに腰掛けてこちらを見ている、薄い唇が意地悪く笑みを浮かべているように感じた。

    「は? クッサ」

    モクモクと白い煙は煙草か、独特の匂いに顔を顰める、手で軽く煙を払えば、煙の中に金色が透けて見えた。絵心さんが気遣って窓を開けてくれたおかげで人物がハッキリと見えた。

    「よく来たな潔世一、世一って呼んでやる」

    美しい男だった。
    青みがかった金糸と澄んだ青色の瞳、俺はあまり絵画なんかに詳しくはないけれど、美術館に並んでいてもおかしくない美貌とモデルのような長い足を緩く組み、左手の指に挟んだ煙草でこちらを指している、そして凛とよく通る声で話しかけてきた。

    「誰ですかこの人、てかドイツのマンションってだいたい室内禁煙ですよね?」
    「こいつはミヒャエルカイザー、ミュンヘン大学で犯罪心理学を助教授をやっていたが二年前に引退、連邦情報局に勧誘されるも所属は拒否、探偵としてアドバイザー的なことをやっている。まぁ見た目はこんな感じで学者感は皆無だけどな」
    「ふん。先程の答えだがこの家は俺の親族が所有するマンションだからここのルールは俺だ、よって喫煙の可否も俺次第というわけ」

    別に聞いてないけど...…、室内の空気は入れ替えたはずなのに目の前のこいつがスパスパと煙を吐き出し続けるから部屋の匂いは一向に改善されないし。

    「それで、俺は冴に家を用意したって言われてフランクフルトからミュンヘンまでわざわざ来たわけなんですけど、まさかここに住むってことですか?」
    「そうだ、お前の最近の素行は糸師冴から聞いている。ろくに眠れないんだろう? だから酒に溺れてずいぶんと自堕落な生活を送っているとか」
    「否定は…...出来ないですけど、そんな初めましての人と共同生活なんて」
    「俺だってごめんだぞエゴ、ティーンの子守りなんて真平ごめんだな。一人で眠れない赤ちゃんボーイの世話なんてしてられるか」

    やれやれと言いながらまた白い煙を吐き出す、俺だってごめんだっての

    「とりあえず自己紹介、俺は潔世一、あぁ名前はもう知ってたか、「潔世一、ティーンに見えるが年はそうだな二十代後半といったところだな、日本人が若く見えるというのは本当らしい。どうしてドイツへ来た?あぁ、お前に日本は狭すぎたんだな、考え方が合わない、合理的で…...、そうお前はクソ自己中心的な性格だ、実力主義より年功序列そんな組織に嫌気でもさしたんだな。ドイツを勧めたのはお前だろエゴ?」….........なんなんすかこの人まじで、はじめて会った人に自己中なんて失礼だろ」
    「そういう奴なんだ、諦めろ」

    「邪魔する」
    硬い声が玄関先から聞こえた、
    「ノア!?」
    「潔世一、そうか着いていたのか、カイザーいい加減にタバコはやめたらどうだ?「非合理的で、健康に悪影響で、経済的じゃない」…...はぁ、わかっているならやめたらどうだ」
    「なんの用っすかクソマスター、まさかこの日本人のお出迎えってわけじゃないよな? 事件であることを願いたい」
    「半々だな、事件だカイザー、潔世一も着いてくるといい、住むんだろ」

    ノアに言われたらそうするしかない、この部屋に着いてからコートも着たままだった、肩に鼻を近づけて見ると、やっぱりタバコ臭い。ノアの車の後部座席に堂々と乗り込むカイザーにため息をついて、静かにその横に乗り込んだ。


    規制線の中に入るノアに続いて、カイザーの後ろを追いかける。
    「お疲れ様です、ノアさん。あぁカイザーさんも、どうも」
    「やぁ」

    現場は異様な光景だった。
    例えるなら真っ赤な絨毯が敷かれた小さな小部屋。
    おおよそ四畳半くらいだろうか、倉庫にしかならなさそうな大きさだ。部屋の真ん中に男性がうつ伏せに倒れ込んでいる、背中が滅多刺しになっていて夥しい量の血液が絨毯のように床に広がっていた。鉄臭い匂いに鼻が曲がりそうだ。

    「これはこれは、クソ芸術的」
    「なにが? うぇぇ......」
    「なんだ世一、ここで吐かないでくれよ」

    口をハンカチで抑えてとりあえず頷く、鉄の匂いの奥になにか違う匂いを感じた気がする。

    「ここは被害者の家か?」
    「まさか、彼は相当な資産家だ。この部屋に借主はいない、まあこの狭さだトランクルームにしか使えないだろう。この部屋に入ったところを見た目撃者はいない、死亡推定時刻は昨晩の二十時から二十三時前後、死因は見た通りだな、後ろから刺されたことによる失血性ショック死」
    「犯人はわざわざこの部屋に連れ込んで殺したわけですね?」
    「そうだな、しかし犯人を特定するような情報は何もない、人通りのない路地に建つアパルトメントの一室、彼はこんな場所に来るようない人物ではない、財布を持っていなかったことで身分のわかるものが何もなかった、しかし携帯電話にG P Sがついていたおかげで秘書がこの場所を見つけて発見に至った」
    「物取りの線が強いですね…...ところでカイザーは何してんだ?」
    「うん?」

    俺とノアが状況について部屋のり入り口で話している間、カイザーは被害者の周囲を覗き込み、壁を凝視して、歩き回っていた…...

    「確かに彼が見知らぬ誰かに着いて行く可能性は低い、そして世一、物取りだと判断すするのはバカ早計。彼の時計はハイブランドだがオーダーメイドだ、売ればすぐに足がついて犯人特定も容易だったろうに、顔見知りならどうだ? 資産家は大抵敵が多いものだ、とすれば容疑者は増える一方だな、まあクソ面倒くさいことをを警察様にさせるわけにはいかないな、絞ることにしよう、そうだな、秘書、妻、愛人、この中に犯人がいる」
    「愛人…...どういうこと?」
    「指輪を外した痕跡がある、資産家の仕事に外すような業務はないだろう、身なりからして家事なんてしない男だ。つまり不倫だな」
    「相手はどうやって探す?」
    「そうだな、行きつけのバー、あるいはそういうお店か、カードの利用明細を見るのが早いだろう警察はそういうのがお得意だろ?」

    カイザーが言った通り、愛人はすぐに見つかった。彼の行きつけの店のウェイトレス、イリスが事情聴取に呼ばれた。彼女は被害者と結婚の約束をしていたらしい、彼が指輪を外して自分に会っていたことに気づいていた。自分と会うために外すなんて可愛い人でしょ? なんて笑う彼女からは愛した男が亡くなったという悲壮感がまるでなかった。

    続いて秘書のマイヤーさん、中年の紳士、亡くなった被害者の周辺整理に奔走しているようで疲れた顔をして現れた。
    「その日は彼から膨大な量の事務処理を依頼されていて、とても帰れそうにありませんでした。また徹夜作業だと腹が立ってきて、それでもしもの時のために入れていたGPSを見ることにしたんです、またいつもの店で飲んでいるのか、こんなに私が忙しいのにってね、怒りは時にエレルギーになる…...、激務のあなた達はわかるでしょう? だからと言って怒りに任せて人を殺したりはしません…...」


    マイヤーさんの事情聴取を終えた後、ノアの車で家まで送られた。初日からいきなり濃い一日になってしまった。思えばミュンヘンへ向かう列車に乗る前に食べてから何も食べていない...…。初日から家にあるものを食べるわけにも行かないし散策がてら、近くのクナイペに行ってもいいかもしれない。

    「世一、言い忘れていたがお前の部屋はここだ、冷蔵庫にあるものは好きにしていい、俺の部屋のものには触るな、家賃の代わりとして家事のいくつかを頼みたい、給金はできる内容によって相談する、どうだ?」
    「お、おう…...、洗濯と掃除はできる、料理はまぁ食える程度には、俺がだけど」
    「十分だ、早速仕事だ。飯を頼む、軽くでいい」
    「わかった」

    簡単なものでいいとは言われたが仕事になる以上は適当すぎるのもと考えて冷蔵庫を開ければ、ヴルスト、バター、少しのザワークラウト、ベーコン、気持ち程度の葉物野菜…...死なない程度の食品だな。ひとり暮らしの独身男なんて大体こんなもんだ……

    「なぁー、腹減ったからパンが食べたいんだけどある?」
    「多分ない。マンションを出たら左に曲がれ、最初に目に入るベーカリーはやめておけ、悪くないが特別よくもない、甘ったるいパンのならオススメするけどな好きだろ?」
    「なんでそう思った?」
    「酒に弱い、タバコも吸わない、ここに来たときに香ったのはカフェラテ、そんな男は大体甘党だ」
    「ふふっ、お前ってほんと面白いよな」
    「面白い? 初めて言われた言葉だな」
    「へぇ、意外だな」
    「大抵の低俗な人間は、面倒くせえって顔にでる」
    「はははっ、確かに。じゃあ左に曲がって二軒先のベーカリーでミッシュブロートとプレッツェルを買ってくる、それでいいか?」
    「上出来」

    カイザーに勧められたベーカリーは確かに美味しかった。買ってきたミッシュブロートに焼いたヴルストと少しのザワークラウト、ベーカリーで売っていたピクルスは当たりだ。カイザーは一人掛けのソファーに座って何かを考えているようだ。話しかけるのもどうかと思い黙ってシャワーを浴びて充てがわれた部屋に入ればもう朝だった。よっぽど疲れていたみたいだ。

    身支度を整えてコーヒーを二人分用意していると匂いに誘われたのか随分な色男が起きてきた。綺麗な金髪は少しバラついているのにその気怠げな雰囲気がなんとも言えぬ色気があると思った、黒いバスローブなんて俺が着てもきっと似合わない。

    「シャワーを浴びてくる、あと今からクラインさんの葬儀に行く、それらしい服装をしとけ」
    「うん」

    タクシーに揺られること小一時間、丘の上の墓地には参列者達が結構な人数来ている。
    妻のリリア・クライン、葬儀に参列する彼女は美しかった、黒のパフスリーブワンピースは彼女の細い腕をより一層白く際立たせる…ドイツ人らしい明るいブラウンの長い髪が表情に陰を作り出していた、悲しげな表情で神父様の言葉を聞く姿に心が締め付けられるような気がした。
    葬儀を終えてお墓の前に膝をつく彼女に近づく、ふと顔を上げて近くで見れば本当に綺麗な人だった、愛人を作る被害者の気が知れないななんて、俺は少し失礼なことを考えた。

    「こんにちは、警察の方からお話は伺ってます」
    「クライン夫人、こんな日にすみません。この度はお悔やみ申しあげます」
    「ありがとうございます」

    「ミヒャエル・カイザー、こちらは潔世一。さて、あなたがご主人を殺したんっすね」
    「えっ、」「はぁ?」
    俺と奥さんの声がハモった。

    「ちょっと待てよカイザー、奥さんは今傷心なんだぞ、なんてことを…...すいません、こいつ失礼なんです。」
    「私じゃありません、主人を愛していたのに...…」

     クライン夫人の大きな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

    「愛していた、ね...…、ではご主人の方はあなたを愛していたと思いますか?」
    「もちろんです。来年は結婚して十年の記念日だったんです、だから旅行にでも行こうって話していたくらいですし」
    「そっすか。じゃあ世一、あとは任せた。俺は寄るところがある」
    少し考えるような顔をした後、カイザーは一瞬で興味を失ったような表情で俺の方を振り返ると、こちらの声なんて耳も聞こえないかのようにそのまま立ち去ってしまった。
    「えっ、そんな、うわまじで帰ったよあいつ...…」
    「大変そうですね、お友達ですか?
    「友達? まさか、ただの雇い主ですよ、昨日からですけどね」

    そう言って笑って見せれば夫人も少し柔らかく微笑んでくれた。そしてポツリポツリと溢し始めた。

    「彼にね、不倫相手がいることなんて知っていたんです…...。でも先程もお伝えしたように彼が私を一番に愛してくれているのはわかっていたから、別にいいわって…...だからね私は彼を殺す理由なんてないんです潔さん」
    「そうなんですね」
    「結婚生活なんて我慢の連続ですよ、あとは許せるか許せないかそれだけ。私は彼を許していたから続けられた」
    「そういうものなんですね」
    「そう、そういうものなの。なんだか潔さんって不思議な方ですね、初めてお会いしたのにペラペラと話してしまったわ」

    初めて見せた奥さんの笑顔になんだか嬉しくなった俺は、突然最愛の人を亡くした彼女の少しでも気持ちを軽くする手伝いが出来ないかと連絡先を手渡した。
    「何か思い当たることや、警察には話したくないようなご相談でもあれば連絡してください」
    「えぇ......、ありがとう」

    夫人と別れてタクシーで帰路についたが、まだカイザーは帰ってきていなかった。

    ◆◇◆◇
    夫人に呼び出されたのは高級ホテルのバーだった。持ち合わせている服の中でも比較的マシなジャケットを羽織って潔世一はホテルのドアを通った。

    どう見たって潔は不釣り合いだった。バーの場所を尋ねたホテルマンに「親御さんは?」なんて聞かれた時には二十代後半ですとため息をついたほど。

    どうにかこうにかバーに辿り着く。客達は静かに素敵な時間を楽しんでいるようだ。目当ての人物はすぐに見つかった。カウンターに姿勢正しく腰掛けた姿はどこのモデルかと思うほど美しく、近くに座った男性陣が声を掛けるか思案し、しなやかな手元で輝く指輪を見て落胆していた。
    今ここで声をかけるのを躊躇ってしまうが、時間に遅れることの方が、生粋の日本人らしい潔にとって出来ない話だった。隣のスツールに腰掛け、ビールを頼んだ。彼女の手元には酒に明るくない潔にはわからないお洒落な色のカクテルが置かれている。

    「素敵なワンピースですね」
    「ありがとう、十年前のものだけれど普遍的なデザインを選んで良かったわ。これね、初任給で買った初めてのブランドものなの......わたし昔はちゃんと会社員だったんです」

    話によると彼女は銀行員だったらしい。
    窓口で働く新人の彼女、その銀行の大口顧客の彼、彼からのアプローチを受けて交際を開始した二人。
    彼がプロポーズをしてくれたのがこのホテルだったそうだ。ミュンヘンの中でも高級なホテル、初任給で背伸びをして購入した真っ赤なワンピースを着て、さぞ幸せな時間だったのだろう。

    「突然お呼び立てしたのに快く来てくださって、本当にありがとうございます」
    「そんな。誰かと話すと気分が落ち着くってこともあるでしょうしお役に立てたなら光栄です」

    俺の言葉に奥さんは柔らかく笑った。しかしその微笑みは次には硬い表情に変わった。

    「たぶんここに来るのは最後ですから」
     美しい彼女の瞳に影が落ちた。その声はハッキリと諦めと覚悟が滲んでいることに俺はどうしてか納得がいかなかった。
    「どうしてですか?」
    「あら案外意地悪ね?貴方ももうわかっていらっしゃるんでしょう」
    「......、でも証拠がないじゃないですか」
    「そうですね、証拠があってもなくてもこれが最後...、最後に素敵な男性と来れて良かったわ。貴方の瞳ってすごく綺麗な青ね、全てを包み込む海みたいな色」
    「リリスさん...」
    「またね、潔さん、飲み終わるまでゆっくりしてらして」

    そう言って俺の頬に挨拶のキスを落として彼女は出口へと去っていった。バニラのような香りを残して......。

    「おかえり色男。未亡人とのセックスはどうだった?」
    「は? ヤってねぇよ失礼だな」
    自宅......というにはまだ馴染まない家のドアを開けると、その扉の前に美しい男が立っていた。ミステリアスで美しい女性と先ほどまで共にいたがその美しさとは全く異なる、ドイツ国内はおろか世界でも類を見ない整った顔立ちの男はその顔から到底信じられないくらいに口が悪い。開口一番に発する言葉がそれかよと当然呆れた。

    「ふむ、ホテルに呼び出されたようだからてっきりソウイウ関係になったのかと推測していたが。まさか、世一......童貞か?」
    「色々ちげーよ、もう寝る」
    「まぁそう怒るな。それより収穫はあったのか?」

    両手を広げてヤレヤレといった顔をするカイザー、したいのはこっちだというのに。

    「奥さん、ハッキリとは言わなかったけど認めてたよ。ここに来るのも最後だって、覚悟を決めた顔してた」
    「どうにも解せんな。殺してスッキリしたのなら、どうして犯人がわからないようにして殺害現場から逃走する必要がある?」
    「確かになぁ......」

    ......続く?

    以下、クソ雑な設定(名称とかも適当だよ)
    ミヒャエルカイザー
    犯罪心理学者准教授
    ある女生徒からストーカー被害にあっていたところ「ストーカーをする人間の心理とは?」って気になって問い詰めまくったら逆に訴えられて学校を追い出された
    実家が太いのでそこまで困っていないしで働く気はない
    潔曰く「情熱が偏りすぎていっそ馬鹿」
    繊細な性格をプライドで隠すタイプの人間なので、凄惨な事件現場を見たり、どうしようもない犯人の心理に引っ張られちゃうときもある

    潔世一
    元警視庁公安警察官
    日本特有の縦社会にうんざり、エゴイストすぎて先輩と衝突し、ドイツ公安に左遷留学(その実期待はされていたので左遷とは言われてるけど栄転)
    休暇で訪れたカフェから帰宅中爆破テロに巻き込まれ離職
    同じくスペインで勤務してる冴の助けと、退職金でなんとか生きてる
    男性も女性もいけるけど大体酔ってて覚えてないので、酔うと相当人たらし(攻め)
    テロに遭ったときの夢はたまに見る
    五感が非常に優れているので、基本的な推理はザルなのにふとした瞬間にヒントをカイザーに与えたりする
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    なぁカイザー、お前がたまにものすごく悲しそうに笑うから、その度に抱きしめてやりたいって思ってたんだ。そんなこと言ったらお前は怒るんだろうけど。
    お前は俺のことをまるでティーンだっていつも揶揄うけど、俺からしたらお前の方が迷子の子供だよ。道の端で蹲って母親の迎えを待ってる、そんな子供みたいだ。


    轟音、人の声、匂い、身体の熱、全身に鳥肌がたったあと感覚がなくなる
    ここはどこか、あぁそうだ、あのお店のキルシュトルテが食べたくて、それで…
    最高の気分だった、あの瞬間までは。路地裏にある小さなカフェは俺のお気に入りだった。生クリームをたっぷりと乗せたキルシュトルテは、月一度、チートデイと設定した日にだけ食べられる特別なケーキだ。甘いものは好きだけれど激務を乗り越えるためにはカロリーや栄養バランスは考えなければならない。ドイツには大好きなきんつばが売っていないので色んなケーキを探して探して漸く一年前に見つけたのが自宅から徒歩十五分のところにあるこのカフェだった。
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