Happiness is here 子どもたちのはしゃぐ声、賑やかな音楽、キャラメルポップコーンの甘い匂いがパステルカラーの青空に溶けていく。久しぶりに足を踏み入れた夢と魔法の王国は、正しく日常を忘れさせてくれる空間だった。
「まず来たらすることは〜?」
「は?いきなり何だし」
「やっぱ耳やろ☆ほい、これ竜次の分」
「マジかよ……」
ネズミのキャラクターの耳を模したファンシーなカチューシャを手渡され辟易するが、あまりに楽しそうな横顔に文句の言葉も引っ込んでしまう。
「わ、かわいい」
「修二、お前それ本気で言ってんのか」
「勿論」
褒め言葉なのかもわからない感想を述べるお前のほうが、よほど似合っていると思うが。そんな想いも、当然口には出さずコーラと共に飲み込んだ。
それなりに体格の良い男二人が揃いのカチューシャまでつけて、これを非日常と言わずに何と言う。だが、そんな浮かれた様すら受け入れてくれるのがテーマパークという場所なのだ。
「あ!あれも欲しい」
修二が指を差した先には、色とりどりの風船の束がふわふわと浮いている。
「今買うのかよ。荷物になるぞ」
「これ持って歩くのがテンション上がるんやって」
そう言って風船を持つキャストの元へ駆けていく姿にため息をつき、後を追う。
「……どれがいいんだ」
「えっとな、青と、水色のやつ」
「二つもか?」
「俺と、竜次の分に決まっとるやないか」
「……」
ここで要らないと言うほど野暮ではない。二つの風船を購入し、水色のほうを手渡す。
「ははっ、おーきに」
「ったく」
空いた片手を差し出すと、修二は一瞬目を丸くして、それからくしゃりと笑って握り返してきた。こんな甘ったるい仕草も、きっと此処なら景色の一つとして紛れ込める。
「……ここに竜次と来るの、夢やったから嬉しいなあ」
「そうか」
「ん」
二人が好きな色の風船が、空高く寄り添う。幸せな一日は、始まったばかりだ。
End.