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    kefuko

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    kefuko

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    一人で🐈の子を育てる🌙の話。其の4。今日も粛々と仕事をこなす🌙のもとに急な知らせが。壬猫。捏造子でますので苦手な方は回避お願いします。🌙は子供の父親は自分ではないと思っているがはたして真相は?

    4. 保護していただけますか その日もいつもと変わらぬ一日だった。
     天気がいいと素直に喜べないほど容赦無く太陽が照りつけ、昨年と同じように今が夏の盛りであることを蝉たちが声高に告げていた。
     屋外の蝉時雨をよそに瑞月は始業前から精力的に仕事をこなす。少しでも早く帰宅するために始業一時間前には出社し、前日帰宅した後に提出されてきた書類に目を通し、必要なら指示を出す。以前は深夜まで残業して全て自分でこなそうとしていたが、それでは娘とすごす時間を作ることは不可能だ。部下に仕事を割り振り、ある程度の決定権と責任を持たせて任せる。もっとも、そんなことができるようになったのはここ最近の話だが。分不相応とも思える『専務』という肩書きと有能な秘書たちによるスケジューリングの賜物だ。特に午後三時以降に会議を入れないのが功を奏したとも思う。何も決まらない会議ほど無駄なものはない。
    「おはようございます」
     少し早めに出社してきた秘書の麻美マーメイが開け放した扉から声をかける。
    「おはよう」
     麻美に挨拶を返すと瑞月は両腕を上げて伸びをする。
     しばらくすると隣の秘書室からこうばしい香りと共に麻美がコーヒーカップを運んできた。
    「どうぞ」
    「ありがとう」
     カップを受け取ると瑞月はしばし香りを楽しんだ。
    「専務、やはり私たち部下も同じ時間に出社したほうが良いのでは」
    「いや、いいんだ。一人の方が集中できる。それに始業前は電話もかかってこないし面倒な訪問者もいないからな」
     麻美たちにも家族がある。自分の都合で無理をさせるのは不本意だった。
    「そうですか、ではお言葉に甘えて」
    「うむ。今日の午後は会議も来客の予定もないはずだから目標退社時間は四時だな」
    「承知いたしました」
     順調な朝の滑り出しだった。

     午後二時、特にトラブルも無く業務は予定通り進んでいた。
    「ノー残業デイがあるならノー会議デイがあってもいい気がするな」
     窓の外を眺めながら独りごちた瑞月は廊下に響く靴音が次第に近づいてくるのに気がついた。この静かなオフィスフロアを走っているような靴音に何事かと振り向くと、けたたましいノックの音とともに麻美が部屋に飛び込んできた。
    「専務!」
    「どうしたんだ、そんなに慌てて…」
    瑞月が言い終わる前に麻美が告げた。

    彩胡あこさんと猫猫さんが交通事故に遭って、い、意識がないと…!」


     連絡してきたのは彩胡のベビシッターだった。高順の運転する車に麻美と共に乗り込み教えられた病院に急ぐ。
     気が動転して何も考えられず瑞月は額の前で祈るように両手の指と指を組むと、呪文のように口の中で繰り返した。
    「たのむ…無事でいてくれ…彩胡……、猫猫」

     救急病院の受付で尋ねると猫猫たちは現在診察中で待合室にいるという。跳ねる鼓動、一刻も早く無事を確かめたい。病院の廊下を駆け出したい気持ちをなんとか抑えて待合室へと向かう。

     午後の診察がまだ始まっていないのか待合室は人もまばらだ。
     落ち着けと自分に言い聞かせながら、背もたれ付きのソファーが並ぶ室内を見回すと見慣れた頭と肩を見つけた。
     息を呑み込み近づいて確かめる。
    「…猫猫」
     名を呼ばれて振り向いた顔は単純に驚いていた。
    「瑞月さん、なんでここに」
     考えるより先に床にひざまづき猫猫を抱きしめていた。そして傍には猫猫にもたれかかり眠り込む娘の姿もあった。

    「心臓、止まるかと、思った」

     瑞月は両手を広げ二人まとめて包むように抱き寄せる。
    「ちょ、っと、瑞月さん、やめてください。他の人が…いるので」
    「いやだ」
    「あの、専務、お気持ちはわかりますが、ここは病院ですので。それにお怪我なさってるのでは?」
     麻美にもたしなめられ、さすがに瑞月は猫猫を包んでいた腕の力を緩めた。
    「彩胡ちゃんに怪我はありません」
    「猫猫は?」
    「私は、その、転んで足の指を骨折したようです。それと頭を打って軽い脳震盪を…」
    「頭を打ったって!!」
     猫猫の両肩を掴んで凄む瑞月の胸を両手で押し戻す。
    「いや、だから落ち着いてください」
    「落ち着けるか!相手は!運転手はどこだ!」
    「相手は、自転車にのった中学生です」
    「は?」
    どいうことなのか理解ができず、瑞月は目を瞬かせた。

     事の顛末はこうだ。
     彩胡が幼稚園から帰宅する際、反対側の歩道を歩く猫猫を偶然見かけて道路に飛び出してしまった。幸い車通りの少ない路地だったが通りがかった自転車にぶつかりそうになり、猫猫が彩胡を庇った。その際に転んでしまい、頭を打ち脳震盪を起こした上に足の指を骨折した。自転車と衝突したわけではないのだが。

    「…」
    「恥ずかしながら車でいうなら自損事故、といったところでしょうか。意識がなかったのは脳震盪を起こしたからで、それもほんの数十秒です」
    「なぜ骨折を」
    「…多分、歩道の縁石につまづいたんだと思います」
     診察を終えて帰宅するタクシーの中、猫猫の話を聞いて瑞月はやっと状況を理解した。
     あの後、猫猫は念の為とった頭部のMRIの診断を医師から受けたが特に異常は無く、ようやく帰宅することができた。彩胡と麻美、ベビーシッターには高順の車で先に帰宅してもらった。
     はぁ、と大きなため息をつきながら瑞月は額に手を遣る。
    「すいません、お騒がせしてしまって」
    「いや、元々は彩胡が飛び出したのが原因だ。こちらこそ怪我をさせてしまって申し訳ない。羅門さんにも一言謝罪したい」
    「いや、大丈夫ですから」

     固辞する猫猫を押し切って瑞月は羅門に深々と頭を下げた。
    「申し訳ありません」
    「顔を上げてください。華さん」
    「しかし、こちらには娘がお世話になりっぱなしでそのうえ怪我まで…」
    「猫猫が自分の判断でしたことです。怪我は、まあ、」
    「日頃の運動不足のせいです」
     羅門の言葉を猫猫が継いだ。瑞月は思わず顔を上げる。
    「咄嗟のことだったので考える時間がなかったんです。怪我は想定外ですが仕方ありません」
     淡々と言う猫猫に瑞月はなんといったら良いのかわからず黙り込んだ。
    「瑞月さん」
    「え?」
    「ちょっと、お話が…あります。二階の部屋に来てもらえませんか」
     猫猫は真っ直ぐに視線を瑞月に向けていた。


     瑞月は大丈夫だからおろせと言う猫猫を横抱きにしたまま階段を上がり、部屋に入ると猫猫をベッドに座らせ、自分は床に座り込んだ。

    「…足、痛むか?」
    「多少は。でも大丈夫です」
    「…話って?」
    「…えっと、…」
     話しにくいことなのか、なかなか話を切り出せない猫猫に、瑞月は悪い事しか考えられなかった。もしかしたら、もう…。

    「なあ、猫猫、俺はこのまま彩胡を娘として育てていいのだろうか」
     瑞月は今まで確かめたくなかったことを確かめようとしていた。
    「え?それは父親なんですから、いいもなにも…」
     緊張でヒリヒリする喉から声を絞り出す。
    「以前、彩胡の血液型を調べたことがあるんだ。そしたら…」
    「何型だったんですか?」
    「O型」
    「へぇ」
    「いや、猫猫はB型だろう?俺はA型だ。それって、やっぱり、彩胡は俺の子じゃ…」
     もしかして、それが理由で疑っていたのだろうか、と猫猫の頭によぎった。盛大にため息をつきたいところだがぐっと堪える。さて、どう説明すれば良いのか。
    「…瑞月さん、A型とB型の両親の子供がO型になる可能性はありますよ」
    「え?」
    「ABO式血液型の場合、A、B、AB、Oという四つの型に分けられます。本来のO型はAもBも持っていない、という意味なんですが…、簡易的に説明するとですね、子供は親から一つずつ血液型を決める要素を受け継ぎますが、AとOになる要素を持っている人とBとOになる要素を持っている人を親に持つ場合、両方からO型になる要素を受け継いだらO型になります」
    「え????」
    「要するに、血液型だけで親子の判定はできませんよ。まあ、昨今は血液型ですらハラスメントになるらしいですし、子供が生まれても必要がない限り調べないみたいですけどね」
    「ど、どういうことだ?」

     拗ねたように猫猫はそっぽを向いた。

    「だから、彩胡は、あなたの子ですよ。なんで疑ってるんですか」
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