曇り硝子越しに春の光が淡く揺らめき、キッチンに静かな温もりを運んでいた。
三井は土埃にまみれた学ランを着たまま、長方形のフライパンに向かって立っている。額から流れる血が鼻筋をつたい、熱せられた鉄板に赤い雫が滴り落ちた。鋭い音を立てて、油の波紋の中で黒く焦げつく。
三井は何事もなかったかのように卵液を一気に流し込んだ。黄金色の液体が熱に反応し、じゅうっと弾けながらすぐに固まりはじめた。甘く懐かしい香りが漂う。
菜箸を握る手がわずかに震えている。拳の裂傷が引き起こす痛みのせいだ。それでも三井は眉ひとつ動かさず、フライパンを傾けて焼けた卵を一巻きごとに重ねていく。かすかな焦げ目をつけながら箸先で形を整えた。
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