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    まさん

    とても人見知り
    トンデモ設定のオンパレード
    アイコンは白イルカのはずだった

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    まさん

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    付き合って二週間の🦈🦐
    お誘いを断ったら嫌われちゃうんじゃないかって不安になる🦐と
    🦐のすることで嫌いになることはほぼ有り得ない安定の🦈の話

    「はぁあ、」

    今夜もまたひとつ、溜め息が生まれてしまった。
    日頃からこまめな掃除をしているおかげで古いながらも埃臭さは抜けたオンボロ寮の中にある一室、わたしの一人部屋は他より多めに二酸化炭素が生まれていく。

    ……わたしの目下の悩み、それは二週間前に先輩後輩以上の仲になったフロイド先輩との関わり方だった。
    おっきくて神出鬼没。穏やかで移り気。鋭い観察眼は恐ろしいことにわたしの月のものの周期まで見抜いているらしい。人魚って誰でもそうなんだろうか。
    それはそれとしてフロイド先輩はわたしを連れて校内のどこへでも向かう。どこへでも。例えそこが校内でいちばん高い塔のてっぺんだったとしても。上空の気流が不安定な時でも、強風で彼の笑い声が掻き消されて、くっついたお腹が震えることで辛うじてわかることだってある。

    監督生は怖いもの知らず、みたいに言われているけどわたしだって一応オンナノコで、怖いと思ったりするんです。
    ただ、それをフロイド先輩に伝えた時に「つまんねー」って言われたらどうしようって、不安になるんです。

    三週間目に突入したある日、わたしはとうとうフロイド先輩の誘いをひとつ、断ってしまった。

    「夜、寮を抜け出して海に行こーよ」

    いつもみたいにイエスという返答が来ると信じているフロイド先輩がそう言って笑んできたから、暗くて冷たいものに近付くのは怖いわたしはどきどきする左胸をそっと庇ってノーと応えた。彼の笑んだ口角がすうっと降りて、への字にまで落ち込んだ。
    ああ、ああ。どうしよう。つまんねー奴って、嫌われちゃったかもしれない。脳内にどんどん生まれてくるマイナスの言葉。

    「ん、わかったあ」

    あっさりと離れていくフロイド先輩の言葉も現実なのか想像なのか一瞬判断できなくて、それでもわたしはマイナスの意味に捉えた。もうこれでおしまいなんだ。これで、明日からまたわたしに声を掛けてくれなくなるんだ。
    奇しくもタイミング良く鳴る鐘の音。飛び散るマイナス思考に、俯きがちな頭が上向いた。
    フロイド先輩は、いつもと同じ表情でわたしを見ていた。

    「これからモストロラウンジ行くからここでバイバーイ」

    おっきな手がひらひらと揺れて、わたしもとりあえず動作を真似る。強張った頬に、どうか気付きませんように。

    満月が浮かぶ夜、ベッドに潜り込んだわたしは月明かりに照らされる白い砂浜と、そこに繰り返し繰り返し寄せる真っ黒い波の不規則な動きをまぶたの裏で想像した。そこにぽつんとひとり立つフロイド先輩の後ろ姿。あの人は海がホームだけど、わたしにとってはアウェイなのだ。
    彼は穏やかな時もあれば荒れる時もある。逃げんじゃねーよ、と言いながら震える生徒を引きずって行くところを見たこともある。小エビちゃんのほっぺってあったかいねえ、って笑いながらぬるい指先で撫でてきた時もある。
    海って、なんだか、フロイド先輩みたいだ。それならわたしは、なるほど確かに小エビかもしれない。

    一夜明けて、毎朝の日課のような溜め息をひとつ。昨日のちょっとした出来事をすっきりさせないまま寝てしまった。グリムがふなふな歌う隣を歩いて校舎に進む。異世界から飛び込み入学した当初はちんぷんかんぷんだったトレイン先生の授業も、今ではだいぶわかるようになってきた。手だって挙げられる。正答率は、八割だけど。
    時計の針がくるりくるりと回るたびにそわそわしていたグリムが駆け出す。食堂の中でもいちばんあったかい日差しが当たる、とっておきの席を確保するために。わたしも彼を追って教室から廊下に出た、一歩を踏み出して、浮遊感。二歩目は宙を掻いた。あれ。腹部に絡みつく腕。

    「小エビちゃん、オレと一緒にごはん食べよ♡」

    廊下にある大きな窓から昼間の風のあったかい匂い。わたしを持ち上げたままのフロイド先輩、右耳にだけあるピアスが揺れて、きらりと反射する。昨日の一件以降、ぎこちないのはわたしだけだった。彼は長い足で廊下をさっさと歩いて中庭への最短距離を進む。頭上からは聞いたことのない鼻歌が聞こえてくる。低くて、ゆっくりしたメロディ。

    「今日はね、昨日仕込んでおいたビーフシチューとその他テキトーなデリの詰め合わせ~!あとオレがこねてジェイドが発酵させてアズールが口だけ出したパン」

    肩に掛けていた立方体のバッグをベンチに降ろしたフロイド先輩がその隣にわたしを着地させた。ファスナーの開く軽快な音、一人分の温かい紙製ランチボックスが、ふたつ。プラスチックの白いフォークとスプーンを握らせた彼がベンチに座らずに、わたしの目の前にすとんと腰を降ろした。

    「い、いただきます」

    「はぁい、召し上がれ♡」

    まるでビームみたいに突き刺さる色違いの視線。お行儀が気になってしまうけどわたしは日本人。フォークは食材に刺すもの。味が濃いめなデリの合間に食べるピクルスがさっぱりしておいしい。

    「おいしいです」

    「そお?よかったあ」

    大きな口ではくはくと食べていくフロイド先輩を見下ろす。青緑色の透き通った髪。つむじ。あちこち跳ねた短い毛先。

    「……小エビちゃん、ごめんね」

    「んぐ」

    「ごめんね、ソーダしかない」

    「んぐぐ」

    昨日の出来事が再び脳内を駆け巡って、柔らかな牛肉が喉に引っかかった。飲みかけのソーダを失敬してほっと一安心。ごめんねって急に言われると気が気じゃないです。

    「小エビちゃんのカオって、オレの身長だとちょっと見づらいの」

    「存じております」

    「だから、ね。えっと。やだな、こわいなってカオも、わかんないの」

    「……」

    わざわざフロイド先輩がベンチに座らずにわたしの目の前に陣取った理由って、もしかして。

    「ちゃんと言ってね。こわいとか、やだって」

    わたしの表情を見るためだったの?

    「断ったら嫌われるんじゃないかって、そっちも怖かったです」

    「そのくらいじゃ嫌いになんねーし」

    そこらへんのオスと一緒にしないでくんない?と唇を尖らせたフロイド先輩のランチボックスから、マッシュルームが続々と引っ越してきた。代わりにプチトマトをそっと移して、ちらりと顔色を窺ってみる。

    「なあに小エビちゃん、プチトマト嫌いなの?」

    からかうような声色、その後すぐにフロイド先輩が覚えとくね、と小さく呟いて、小さな赤い実を口に含んだ。

    「そんでね、小エビちゃん」

    「はい」

    「今日の夜はどお?海」

    「海…」

    「ちゃんと手繋いでてあげるから」

    フロイド先輩が二日かけて提案した夜の海。手を繋ぐということが魅力的だったから、イエスと応えた。
    その日の夜、きりりと冷えたしょっぱい風が吹く海辺。わたしのちっちゃな手をすっぽり包み込む大きな手。ふざけ半分でも離したりしないそれに安心して、砂をさくりと踏む。
    真っ黒い波の間にちらちら光る小さな生き物。発光するプランクトンがこの時季だけ波打ち際まで近付くことを初めて知ったのだった。

    「どうしても小エビちゃんに見せたかったんだぁ」
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