スターの電池が切れる日「お兄ちゃーん、入るよー?」
兄の部屋を訪れた咲希がまず目にしたのは、床に散らばる大量のスケッチだった。そのどれもに人物が描かれており、着ている服は1枚1枚違っている。余白に書きなぐられた文字が何を意味するのかは分からないが、書いた本人が読めるのなら問題はないだろう。
そしてそのデザイン画の中心にいるのは自分の兄だ。普段の騒がしさは鳴りを潜め、脇目も振らずにまっさらなページに鉛筆を滑らせている。声を掛けたが生返事で反応は鈍く、視線は手元に向けられたままだ。
らしくもない兄の様子を見た咲希は大して驚きもせず、あ、電池切れの日だ、と独りごちた。
──司には、時折こうやって黙々と趣味に勤しむ日が訪れる。今日はデザイン画だが、編み物の日もあればミシンを使って衣装を作る日もある。その日によって様々なのだ。
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