ショッピングデートをする塚跡『すまない今日の集合場所は俺の家でもいいだろうか』
「集合場所って…練習試合でもあるめーし」
待ち合わせ場所とか言えないのかよ。
以外にも連絡好きな恋人から送られてきたメールはムードもへったくれもなくアイツらしいといえばアイツらしい。しかしこれでは用件もなにもわからないだろう。
どうにも口下手な恋人に軽くため息が出る。こいつは普段、部活内連絡などどうしてるのだろうか。
『かまわねぇよ。なんか用でもあるのか』
『母が跡部に会いたいと言っていてな』
たらり、ひとつぶ汗が出る。
なぜ、いきなり、彩菜さんが俺に会いたいなどというのだろう。
実は手塚のご両親とは何回か顔を合わせている。手塚を迎えに行くときや送るとき、初めて会ったのは関東大会で青学とぶつかってすぐのこと。
大切な息子の一生を奪うような怪我をさせたのだ。どんな言葉も受けるつもりだった。
だが実際会ったふたりは俺を糾弾する言葉などひとつもかけず、あろうことか国光はいいライバルを見つけたわねと俺の存在を肯定するような言葉さえくれた御人である。
この親あってこの子あり、手塚家はそれを体現する一家であった。
国光と分かれてくれないかしら
男同士でしょう?
嫌な考えが浮かんでは消える。そんなはずはない。なぜならふたりの関係は両家公認なのだから。
でも、考えが変わったら?
ありえない話ではない。差別意識が薄れてきたとはいえまだ男同士のパートナーには風当たりが強い。
大切に育てたひとり息子が男と恋愛。それはどんな気持ちを生むのだろう。
跡部に親心なぞわかるはずもないが常識的に考えて自分の子には普通の幸せを手にしてもらいたいものだろう。男で、それも一度は息子の未来を奪いかけた者。付き合うなというための理由ならいくらでもある。
気がつけば手塚の家の前だった。
後は呼び鈴を押すだけ。大丈夫、なんでもない。
そう思えば思うほどにどうしょうもない不安におそわれる。
もちろん手塚のことも手塚のご両親のことも信じている。だが、それで拭いきれない不安があるのも事実で。
呼び鈴に人差し指を添える。じんわり手汗が滲んで心拍数があがる。
だいじょうぶ、だいじょうぶ。
意を決して押そうとしたときガチャリとドアが開く音がした。
「来ていたのか」
「…あぁ」
出てきたのは制服姿の手塚で、あまりにもいつもどおりの格好に肩の力が抜ける。
コイツ部屋の中でも制服なのかよ。まさか普段着持ってないわけじゃないよな。
先程までの緊張がほぐれかわりにどうでもいいことが脳内に浮かぶ。
「急に来てもらってすまないな」
「いや、それよりお前家でも制服なのか?」
「そう。そのことで跡部くんを呼んだのよ」
手塚の後ろからひょっこり顔を出してきたのは母親の彩菜さん。
俺の母さんと同い年ぐらいのはずなのに母さんよりずっとお茶目で可愛らしい印象の女性だ。
「ささ、入って入って。とりあえず国光は制服から着替えてらっしゃい」
彩菜さんからこちらに対するマイナスな雰囲気はひとつも感じられず緊張しまくってたこともあり少し拍子抜けする。
「でも、跡部は母さんとふたりきりは初めてですし」
「いいの。跡部くんに用があるのは私なんだから」
ね?跡部くん
玄関にあがった俺の方を抱き悪戯っ子のようにそう言う彩菜さんは年頃の乙女のようだった。
たとえ手塚国光といえどもやはり母は強し。
渋々ながらも着替えるため部屋に行く手塚の背を見送る。
「あの子、ふだん渋ることなんてほとんど無いのに。よほど跡部くんと私をふたりきりにしたくないのね」
ヤキモチかしら、国光もお年頃ね。
ダイニングだろうか、部屋に案内されながらそうこちらに微笑まれて反応に困る。
「あまりそう緊張しないで、なにも悪い話をするために跡部くんを呼んだんじゃないんだから」
彩菜さんは少し身を乗り出すようにこちらに顔を近づけ、内緒話をするがごとく声を落として言う。
「むしろ、跡部くんにちょっとお願いごとがしたくて呼んだのよ」