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    merry_popopo

    @merry_popopo

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    merry_popopo

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    捏造だらけ
    特大注意⚠️
    蜂楽の母が死んでます

    蜂凛 書きかけです。機械的なアラームの音で目を覚まし使い古した布団にぐるりと潜り「ゔーん」と唸り声をあげ昨晩寝落ちするまでやりこんだゲーム機が布団の中に紛れて自分の目の前まで滑ってきたのをお前のせいでまだ眠いんだと言わんばかりに隅に追いやる。帰ってきてからまた無い無いと探す羽目になるのだが今の自分には酷くどうでも良く思えてならない。

    雀の鳴く声が聞こえる
    2度目のアラームが鳴りいよいよ起きなくてはならないと無造作に置いてあったスマホを取ると停止ボタンを押した。
    閉めっぱなしのカーテンに昨夜食べた夕飯の残骸
    脱ぎ散らかした服と描きかけの絵
    気分が滅入るような汚い部屋だが一人暮らし・・・・・の男子高校生の部屋はこんなものではないだろうか
    冷凍庫から取り出した食パンを机の上にそのまま置いてトイレに行き手を洗ってから顔を雑に洗う。タオルで顔を覆い水気を取るとそのまま洗面台にタオルを置き去りにして制服に着替える
    しっとりとした食パンを口に咥え咀嚼し飲み込む
    それを数度繰り返して手を払いリビングの中の一角。他の場所とは違いとても綺麗に整頓された区画の中。小さなローテーブルの上に置かれたこれまた小さな仏壇の前に座り手を合わせる

    「おはようお母さん。いってきます」

    蜂楽廻はいつもの挨拶を済ませると通学用鞄を持って玄関を出た。
    いつものより少し暖かい春の日差しの中を自転車で走る
    学校は大体15分ほどとやや遠目
    とはいえ健全で健康な男子高校生の蜂楽にとってはなんの苦にもならない距離感
    風が吹いて桜の花が舞い散る道を無感情に車輪を走らせて遠くに見えていた学校へ近づいてくると口の端をあげ周りにいつものメンバーがいないかとあたりを見渡し複数人で固まって歩く男たちを見つけると思い切り後ろから声を張り上げた

    「おっはよー!」
    「お、蜂楽。おはよう」
    「お前相変わらず元気だなー」
    「へへーん!元気だけが取り柄なもんで!」

    自転車を押しながら友人達と談笑する
    昨日ゲームしながら寝落ちしちゃった。お前ずっとオンラインになってたよな、あれやっぱり寝落ちしてたんだ。つかあの動画見た?なになに見せて?
    駐輪場に自転車を停めて友達の元へと戻り流行りのアプリから流れる動画を見て笑う
    アイツがこんなことしてた。コイツがこんなこと言ってた。
    これが流行りであれはダサい。あれは見たか。これはチェックしたか。
    皆に合わせて話題を変えながら笑顔で陽気に話し中心からは遠く離れず、されど決して真ん中にはならない位置
    誰かを主軸に据えたメンバーの中で蜂楽はお調子者として今日もふざけて皆で笑いあった。


    「整列!」

    グラウンドから半ば叫ぶような大声が聞こえ一列に並んだ男達がありがとうございましたと礼をしているのが見える
    朝の部活動をしているサッカー部の面々だ
    新入部員が入ったことでより一層活気付いているように見えるのを友人は「うえ…よくやるよ。朝から部活とか絶対無理だわ」「中学までだよなーああいうのできるのって」「真面目くんって感じ」
    嘲笑と少しばかりの憧れみたいなものを孕んだ声で話す友人たちの言葉にただ肯定の笑顔を浮かべて頷きながら蜂楽は酷く憂鬱で寂しいような悲しいような複雑な感情を胸に抱きながら心の中で何度も唱え続ける。

    俺は普通に、普通になりました。
    決して変ではない。普通の人間になりました。

    普通の今時の男の子は、サッカーみたいな外でやるスポーツより家の中でやるゲームを。汗臭くなるのは嫌だから流行りのアプリで簡単なダンスを。下の名前で呼んだり、ママとは言わない。お母さんとか母親とかあの人と。そうやって言うらしいんです
    そうやって少しずつ擦り合わせていって今の自分があります。

    サッカーはもうやめて、怪物も見なくなりました。
    変でもなければ気持ち悪くもない人間になりました。

    求めているものは健全で平穏な暮らしで、今日もこうやって友達と楽しく話をして、普通に暮らしているから安心して眠っていてください。

    そうして蜂楽廻は周囲からは自由で奔放な人生を謳歌し面白おかしく生きている人間に見えるように今日もここに確かに存在する友達におどけて笑ってみせた。


    母が亡くなったのは一昨年の夏のこと。
    不運な事故だった。
    芸術家として有名だった母の死は一部で大々的に取り上げられ唯一の肉親であり理解者を亡くした蜂楽は酷く焦燥し引き取られた先の親戚とも馴染めず結局家を離れ母の残した作品をひとつだけ残しその他は全て売り払い遺産を含め残された金銭で一人暮らしをしている。
    女手一つで育ててくれた母に何も返せないどころかその手で作り上げた作品を全て手放してその金を徒労に消費している現在の生活は心を徐々に蝕むのに十分すぎるほどの傷を残しせめて自分は幸せな人間であるかのように見せる事でしか天国にいる母に恩返しできないと、
    そう考えた蜂楽はサッカーを辞め怪物を封印し周囲と馴染むことを徹底的に学んだ。

    サッカーより楽しいことなどこの世には存在しないと信じてきた蜂楽は、最愛の母とその絵。そしてサッカーを同時に全て失った代わりに流行りのインフルエンサーや歌、ゲームを覚えるようになった。
    決してシンプルではないそれらを覚えるのは授業より大変だったがどうにかまともなフリをしグループの真ん中より一歩ズレた位置に身を置いて今では昼休みの教室の一角でおしゃべりをしながらお菓子をつまむ
    ルールさえ覚えてしまえばサッカーはシンプルで楽しかった。この身とボールさえあればどこでもいつでもできる。
    それに比べてこの狭い教室の中では独自の肌で感じ取らなければならない特別なルールがあってみんなと同じになるには絶対的な見えないそれを必死に探り当てなければならない。複雑で不明瞭。
    ボールと一心同体になり自由にフィールドを駆け回っていたあの頃に比べてなんて息苦しい世界
    それでもここで生きなければ。
    サッカーをするにも金がかかる。生きていくだけで消費されていく母の残した財産をそこに費やすのは可能だったがそうやって生きていけるほど、母という理解者を亡くしてサッカーを続けられるほど蜂楽廻は強く無かった。

    放課後カラオケに誘われた蜂楽は迷わず行くと即答したものの今朝の寝不足のせいもあってか大事なスマホを教室に置き去りにしてしまい皆に断りを入れ足早に廊下を歩いていた
    ある意味、わざと忘れたのかもしれない
    スマホがないといえば明日にしろと言われることもなく戻る口実としては打って付けで、
    でもそれをわざとできるほどの賢さはなく心が勝手にそうさせたのかもしれない
    無意識的にあの空間から自然と外れるように。


    教室に入るともう流石に誰もいなくスマホを回収すると蜂楽は久しぶりにのんびりと自分の行きたい方向へ思うままに歩き始めた。
    友達に合わせて横並びにふざけながら歩くのは決して嫌いではないが自分が行きたいと思う方へ足を進める
    たったこれだけの行為が今の自分にとっては楽しくて仕方がなく珍しく校舎の中を彷徨い歩くようにして徘徊した。

    そうこうしているうちに普段は立ち寄らない校舎の隅にある美術室がなんとなく目についた
    母の描く絵を手放した日から人の絵を見るのに抵抗感がありどうにも居心地が悪いようななんともいえない気分になるからだ
    早く通り過ぎてしまおうと前も確認せずに歩み出した瞬間に強い衝撃が走り蜂楽は後ろへ転倒した

    「いったぁ〜!」
    「…ッ!」

    大きな物音を立てて何かが落ちる
    確実に破損したと思わせるような大きな音だ
    痛みも忘れて慌てて前を見ると無惨にも真っ二つに割れたキャンバスが床に落ちていた
    「物を大切にしなさい」
    母にキツく言われたことがある
    あれはまだ幼い頃 決してわざとではなかったが決められた場所以外でボールを蹴って遊んでいた時。
    母の描いた絵にあたってしまった衝撃でキャンバスが床に落ちて衝立が割れてしまった事があった
    絵も台無しにしてしまい泣きながら謝ったがお尻が赤くなるまで叩かれて、最後は抱きしめてもらえたけれど決められたルールは守らないいけない事と物を大切にしなくてはいけないこと。痛みとともに植え付けられた母の教えは今でも自分の中に残っている。
    母の絵に勝手に自分なりに色を付け足してみた時も怒らなかった優しい母からの愛の鞭
    決して忘れられない思い出が鮮明に甦りとにかく謝罪をしなくてはと身体を起こすのも忘れて半ば土下座のような体勢のまま大声でごめんなさい!!と叫んだ

    「………」
    「わざとじゃないんです!ほんと!前見てなかったっていうか、あ!それもわざとじゃなくて!えぇっと…!」
    「………」
    「とにかくごめんなさい!!」

    何も言わない目の前の人物に向かってとにかく謝罪を続けるとしばらくしてから「別に…いい。」と小さな呟きが聞こえ蜂楽はようやく顔を上げた。

    「わぁ…」

    自分よりおそらく10センチほど上 長い前髪の奥にあるターコイズブルーの瞳と目があった
    下まつげが特徴的なその男はしゃがみ込んで割れたキャンバスの片割れを拾いながら「もともと、こうだった」と一言告げて立ち去ろうとする
    慌てて引き留めてどういうことか聞こうとすると男は鬱陶しげにコチラを見ると「俺が割ったから、いい」そう告げて足を進めた

    「それ本当?どうして?」
    「あ?なんだお前」
    「お前じゃなくて蜂楽廻」
    「興味ねえ」
    「君は?名前なんて言うの?」

    男はめんどくさそうに「糸師凛。そうしたいからそうした」と吐き捨てるようにつぶやき「わかったならあっち行け」と言って手で払いのけるような仕草をした。
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