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    kakurenboooooo

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    kakurenboooooo

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    2015に書いた、神楽麗と冬美旬に絡んでほしかった当時の欲の話(呼称も妄想だし、キャラ解釈も当時のもの)

    担当同士には絡んでほしいよね ひらひらと舞う花弁、白く曇った窓を伝う雫。
     山際に落ちていく日、水面に浮かぶ月影。
     ――柔らかく揺れる旋律は、ゆっくりと瞼に情景を生み出していく。
     母に背負われ、あやされているような心地よさに誘われて、神楽麗は事務所の扉を開いた。


     *


     315プロの事務所の奥には、レッスン室が併設されている。音の鳴る方へと歩を進めると、そこまで辿り着いた。
     ひょいと顔を覗かせると、音色の主と目が合って、演奏がピタリと止む。


    「――あ……Altessimoの……」


     High×Jokerの冬美旬。
     演奏の主が彼だということに、麗は妙に納得をした。
     耳に残った旋律は、実直でスコアに堅実な音。だのにピアノの鍵は、一つ一つの音符に灯りを点しながら小節を歩んでいくようで。
     その温かな彼の音は、思い返した電子音と頭の中で合致した。楽しげでハツラツとしたロックサウンドの中で、まるで生楽器のような温もりを帯びるキーボードの音色。
     今までHigh×Jokerとしての彼の音楽しか知らなかった麗だったが、どちらも確かに冬美旬の音なのだなと、荘厳と佇むグランドピアノを見てそう思った。


    「ど、どうして麗く……神楽さんがここに……」
    「音楽が聞こえたもので、つい……じゃ、邪魔をしてしまって、すみません」
    「え、聞こえたって……ここは防音……まさか、扉、開いてました?」


     バタンと、慌てた様子で鍵盤蓋を閉める旬に気後れして、思わず麗は頭を下げたが、返ってきた答えは想像とは程遠く。
     小さく頷くと、旬は脱力したようにピアノに俯し、四季くんの馬鹿と声音を漏らす。
     どうも仔細ありげな様子ではあるが、そのあらましについては大方の予想がついた。部屋を後にしたシキクンが扉を閉め忘れ、それに気づかぬままピアノを弾き続ける。
     そして、麗はそれに誘われた。


    「“トロイメライ”……とても素敵な演奏でした」


     心弛びもしていないのに、思わず溢れた。月並みの言葉だが、思い返した旋律は、本当に素敵だったから。
     そういえば、誰かが彼の音を、景色が見える音だと評していたような気がする。
     蕩揺しながら瞼を彩る景色達。
     いつか、どこかで見たような。
     郷愁に駆られ、あの頃の自分が蘇るような。


     ――台座の上、くるくる回る回転木馬。
     十余りの小節を奏で、溶暗していく。
     流れる子供の情景は第七曲目。
     幼い自分は、お尻の螺子を何度も回して、飽きたかと思えばヴァイオリンでそれを奏でて。
     移ろう光景、浮かぶ情景。
     さざめく風と揺れる木々、ステンドグラスを透かす光。
     チェロを弾く姉の背中、船を漕ぐ金の髪――


    「……神楽さん、どうかしましたか?」


     呼び声で現実に返った。
     何でもないと口を濁すが、音楽の世界へとトリップしてしまった自分に、内心苦笑いだ。
     まるで彼のようだと、此処にはいないパートナーの姿を思い浮かべる。
     そうしてふと、最後に映ったのは何故か彼の姿だったと、またあのメロディーを思い返しては現を抜かして。


    「神楽さん、その、……あ、ありがとうございました」
    「……?」
    「……その、素敵な、演奏、だと」


     旬が言葉を搾り出さなければ、いつまでも夢見心地に酩酊していたのだろうか。もう一度現実に返された麗は、ようやく旬の照れくさそうな表情に気がつく。
     素直に感想を述べただけなのだが、その真正直さが旬にはくすぐったかったらしく、黒目がちな瞳は泳ぎ、真白の頬は紅をさす。
     冷静沈着で、あまり感情の起伏を表に出さない印象だっただけに、その様子を見てると、何だかこちらの方がこそばゆい。


    「いえ、わたしは……でもよかったです。冬美さんが気を悪くされていないようで、安心しました。演奏に水を差したり、不躾に話しかけてしまったりしたので……」
    「と、とんでもない! むしろ身に余る思いですよ……神楽さんとは、いつか、ちゃんと話したいと思っていたので……」


     くすりと笑みを溢すと、旬が小さく安堵の溜息を吐く。お互いに、やっと人心地がついたようだった。
     糸が切れ、平静となり、麗はピアノの傍まで歩を進める。
     どうしてこんなところでシューマンをと、同世代との付き合いには気掛かりな点ばかりだが、どうにか会話を始めようと口を開こうとした時、それらは目に飛び込んできた。
     まるで手当たり次第と言ったように、時代も国も違う楽聖らの作品が、譜面台の上に無造作に並べられている。一番上には、今でも耳に残る独奏曲。その下には――
     麗の視線が彼らに向いている事に気づいた旬は、どうしてか居心地悪そうに、再び目を泳がせる。
     

     「“夢”ですか?」


     返答こそ無かったが、暫く押し黙った後、小さく頷き肯定の意が示された。
     リストとドビュッシーのピアノ曲、シューベルトの歌曲等々。ベルリオーズの作品は、見たところヴァイオリンと管弦楽器がメインの楽曲らしいが、麗でも弾いた事のない楽曲だ。
     手渡された楽曲は、単純に共通点がどれもが何らかの夢の形を描いている事。
     トロイメライも、日本語訳はまんまそうである。


    「……今度のHigh×Jokerの新曲は、夢がテーマなんです。その為のインストを何曲か作っていて……」


     印刷の薄れたシャープペンシル、欠けた消しゴム、跡の残る五線紙。
     幾つかの楽譜が捌けて、気づいたそれらは採譜の為の物だったかと、旬の話しを聞いて納得した。


    「さっきまで皆で夢について話してたんです……話せば話すほど分からなくなって、今日のところはお開きになりました」


     夢か。
     手に持つそれらに、かつての楽聖らの姿を思い浮かべる。
     将来の夢、眠る時に見る夢、目標、希望、空想、虚ろ。
     ぱっと頭に浮かんだだけでもこれだけ様々なのに、この楽曲達には、どんな想いの夢が込められているのだろう。
     計り知れない解釈に、High×Jokerのメンバーも、こうして迷宮に迷い込んだのであろうか。


    「それでも、五人集まれば五通りの夢があって、ファンの方の数だけまた夢がある。これだけの可能性に気づけた事は、大きな収穫でした」


     そう言う旬はどこか誇らしげだったのに、真っ新な五線紙を目にした途端、表情が曇り出す。
     目を伏せたまま、期待をしていたと口が紡いだ。1フレーズだけでも降りてはこないか、そうして筆を執ったはいいが、やはり何も浮かんではこなかったのだと。


    「だから、とりあえず色んな夢の曲に触れて、僕なりのイメージを膨らませようとしました」


     以前曲を作った際、一番得意だった曲からあの“カシオペア”のイメージを膨らませたらしい。その時の経験が生かせるのではないかと、家から楽譜も持ち出した。


    「結局、途中からただただ演奏が楽しくなって、神楽さんが来るまで……その……半分忘れていたんだと思います」


     すみません、長々と話してしまって。
     旬はそう詫びるが、同じ音楽に携わる者の話しは、麗にとって心地よい刺激であった。
     自分たち演奏家は、音符や曲想から作り手の気持ちを汲み取り、そこへ更に自分の心を音に乗せて聴衆へ届ける。
     それが自分で作った曲となれば、どうなのだろう。
     想いを注いだ楽譜をなぞりながら、届け伝われと祈りながら奏でるのだろうか。
     麗のパートナーも楽曲の作り手ではあるが、よく“a capriccio ア・カプリッチョ(奏者の自由に)”でもいいんじゃないかなと呟く程度には、案外適当だったりする。
     麗自身、フレーズが湧き出てくる事が無いわけでは無いが、曲を完成させた事はまだ無い。
     麗にとっての未知を、何度となくやり遂げている彼には感心するし、これからも音楽の世界に命を産み落としてほしいと切に思う。
     今、目の前では、生まれる前の音が、きっとどこかで閊えている。その栓を抜いてやろうだなんて大層な事は思わない、それをやるのは他人では無いから。
     ただ、小さな一つのきっかけにでもなってくれたら嬉しいと、可能性を収穫だと言った彼の糧の一部にでもなってほしいと。
     身勝手な思いは、詰まる所の期待から。


    「……冬美さん、一曲、わたしとセッションしませんか?」
    「……え?」
    「様々な夢への可能性に触れるならば、わたし達315プロ、四十三人分の夢を詰め込んだあの曲も、弾いておいて損は無いんじゃないかと」


     背負ったヴァイオリンも、先刻より歌いたがっている。ケースより取り出し、爪先で弦に触れると、ひしひしとそれが伝わって来るようで。
     A線から順々に弓を滑らせ、軽く調弦を始める。
     突然の申し出に瞳を揺らしていた旬だったが、調弦が始まると鍵盤蓋を開き、自然と音を重ねていた。
     ピッチを気持ち高めに、鳴り響く五度の共鳴。
     目配せ、旬のグリッサンド、そして麗がメロディーラインを大胆にかき鳴らして、そうして世界は動き出した。


    『DRIVE A LIVE』


     動機も目標も、想いも熱も、てんでバラバラな四十余りの個性が、ぶつかり、混じり合い、不思議なハーモニーを奏でる。
     315プロダクションの始まりの曲。
     その中の二つが奏でる旋律は、アレンジも即興、指揮者も無しに楽しげなリズムを刻んで、どうしてか息の合ったサウンドを織り成していた。
     面識がある程度でほとんど会話もした事もない二人だったが、音楽の相性は悪くはないらしい。一小節一小節奏でる度に、音楽は様々に色を変える。
     時にanimato アニマート(生き生きと)、時にgrandioso グランディオーソ(堂々と)、scherzando スケルツァンド(軽快に)、reveur ルヴゥール(夢見るように)何よりもcon passione コン・パッシオーネ(情熱的に)。
     麗のヴァイオリンはまるで歌うように高らかと。
     旬のピアノは始めこそ探り探りだったが、角の取れた温かみのある旋律で曲を彩る。
     そうして夢中になって、気づいたら最後の和音。
     ダンパーペダルから足を下ろす機械のような音だけが現実的で、そこでようやく残響に巻かれた意識が戻ってきた。
     余程熱を込めていたのか、二人して上気したような顔をしていて、見合わせたら吹き出してしまった。


    「ふふっ、何だか、すごく楽しかった」
    「……はい! わたしも楽しかったです!」


     余韻が手に残り震える。いい演奏をすると、どうしてこうも心臓が脈打つのだろうか。それだけでもにやけるのが止まらない。
     旬も揚々としており、少しでも刺激になれたならよかったと、いずれ耳にするであろう音楽に淡い期待を寄せる。


    「神楽さん」


     麗の勝手な自己満足を、旬の凛とした声音が呼び戻した。
     自分を見据える丸い瞳に、思わず息を呑む。しかし表情はとても優しく、輪郭を伝う汗が動きを止めたのを合図のように、旬は再び口を開いた。


    「僕の夢は、High×Jokerの音楽をたくさんの人に聞いてもらうこと、そして、High×Jokerでトップになること、です」


     静寂を裂く強い意志。


    「まだアイドルについては模索中です。けど、このバンドはずっと続く、ずっと続ける……だから、一歩ずつ着実に、確実に、僕は夢に向かって進んでいきたい」


     切実な意思は、確固たる決意。
     なんて情熱的なのだろうと、真摯な眼差しに胸を打たれる。


    「……実は、メンバーで話し合いをしている時、僕は自分の夢を語らなかったんです。照れくさくて誤魔化してしまった……でもやはり語るべきでした。曲を作る上で大切にすべきなのは、まず始めに作り手の思いですから」


     自分の気持ちを見つめ返せた事への感謝だと、旬は頭を下げる。
     ありがとう、そう言われたら、弓を握る手に自然と力が入った。
     胸が詰まるとは、きっとこういう事を言うのだろう。少しでも、人の役に立てたなら嬉しい。自分の音楽がどこかで影響を与えていると言うならば、こんなに嬉しい事は無い。
     あの日、315プロへスカウトされ、暫くして履歴書なる物を書いた。書き方もよく分からぬまま、手探りで空白を埋める。プロフィール、特技・趣味、志望動機、座右の銘、そして、未来に向けた決意の言葉。


    「冬美さん、わたしの夢も聞いて下さい」


     神楽麗が、心の底から願っていた事は。


    「わたしの夢は、人の心に寄り添うような、人の心を動かすような曲を、奏でられるようになる事です」


     それが出来なかったあの時の自分じゃない。一つ一つの演奏が小さな自信となった今でこそ、胸を張って夢を語れる。
     夢はまだ夢のままだし、自信と言う程大それたものでもないが、芽吹いた花に水をやるように、この気持ちを大切に育てていきたい。
     枯れた大地に、ようやく根ざした花だから。


    「また一つ、素敵な夢を知りました、ありがとうございます神楽さん。どんな曲に仕上がるのかまだ何も見えないけど、きっとHigh×Jokerらしい楽曲になるよう、尽力させて頂きます」


     こんなに強い思いが胸にあるのだ、きっといい曲が出来上がる、そう漠然と思う。
     きっと旬自身もそう感じているに違いない。
     雲がかかった表情も、白紙の五線紙を映していた瞳も、心做しか明るくなった。


    「あ、神楽さん」


     そろそろお暇したが方いいかと、ヴァイオリンを片付けるため身を屈めた所へ、頭上より麗を引き止めるような声が降ってきた。
     見ると、まるで口に出してはいけなかったという風に、口元に手を当てまごまごとする旬の姿。
     何だろうと首を傾げたまま、麗は黙して旬を待った。


    「……もし時間があれば、なんですけど……もう一曲、僕とセッションしてくれませんか」


     何だか弾き足りなくて、そう照れくさそうに笑う。
     麗も釣られるようにして笑った。
     演奏家の性分か、調子のいい時や満足のいく演奏が出来た時には、いつまででも音を奏でていたいと思うし、出来るような錯覚にも陥る。
     弾き足りないのは、勿論麗も同じであった。
     足を開く、骨格通りに背筋を伸ばして、少しばかりの脱力、左肩へヴァイオリンを乗せ、胸を張ったら準備は完了だ。
     さて、次はどんな曲を奏でよう。
     小さなレッスン室は、宛らシンフォニーホール。
     その音を聞きつけた他のアイドル達が、挙って歌を響かすまで、アンサンブルは止まなかったという。
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