アルテとハイジョのポケモンパロ③1〜2年旅をして(アルテPだけど、1〜2年旅出来るかの算段はない)、神楽家の別荘の一宅を麗さんが所有する運びになって(資産整理)ーーその別荘が本編(本編?)の木々のさざめきが聞こえる人里離れた森深くのお屋敷である。
一度見てみようと、二人で屋敷に訪れると、そこにはグランドピアノとかも置いてあるし、敷地は広くて少し行けば湖もあって、人里離れてるとはいえ街に出られない事もなくてってなんとなく住み着いてしまいって経緯。
それでも二人の生活は楽しかった。
家事はほぼ麗さんがやるし、街への買い物とかも麗さんがやるけど、自然とポケモンたちが棲みつき、共生し、人里離れてるから好きな時に音楽が出来るしって生活は苦にならなかった。
アルテ屋敷に棲みついたうちの一匹が例のゾロアである。
前述した通り、森のいたずらっ子として野生のポケモンたちにいい顔をされなかったゾロアだったが、二人の音楽に触れ、大好きになって、優しくされることで心を開き、仲間にも溶け込めた。
二人の音楽はそこに棲みつくポケモン全てが愛していたが、ゾロアにとっては一際であった。
麗さんは近隣の街に時々お呼ばれしては演奏を披露する演奏家に、都築さんは作曲家へと幅を利かせながら過ごしている。
そうして旅に出てから5〜6年経ち、ここでの生活も二人で居ることも板についてきたある日、麗さんが仕事で2、3日家を空けるという。
この屋敷から一番近い街の教会で、一年に一度の大きなミサ(日曜礼拝などはやっているが、一年に一度おっきなやつやるよーみたいな認識)が行われるという。
そこで讃美歌の伴奏者として呼ばれることになった麗さん。
とりあえず、自分が2〜3日家を空けても大丈夫なようにするために奔走。
ポケモン達の餌の準備、都築さんが栄養を取らなかった場合どうするかの手立てをポケモン達にレクチャー、消耗品がなくなったらとかガスの元栓の締め方とか色々ポケモン達(都築さんは?)に仕込んで、大変だね麗さん。
「麗さん、暫く逢えなくなっちゃうから、最後に君のバイオリンが聴きたいな」
「暫くって言っても明後日の夜には帰るようにしますよ?」
「ふふ、夜の森は危ないから、そんな急いで帰らなくてもいいんだよ?麗さんは心配性だね」
「笑い事ではないんですよ、まったく。ーーさて、何を弾きましょうか。せっかくなので都築さんもご一緒にいかがですか?」
「ううん。今日は麗さんの音を聞いていたいんだ、いいかな?」
「はい。では練習も兼ねて讃美歌をーー」
なんて、屋敷で小さな演奏会を開いていたら、森から一匹のポケモンが。
「おや、森のニンフェ(ドイツ語:妖精)かい、久しぶりだね。君も麗さんの音色に誘われたんだね」
話は変わり、この森には森の神様が祀ってある祠が存在する。
森の神様ーーセレビィ。
清く美しい森に姿を現すポケモンで、ニンフェ(妖精)ではなく、神様である。
実はアルテも、この屋敷に住むようになってからセレビィの存在は認識しており、定期的に現れる事には気づいていたが、ここまで人の元に近づく個体には初めて出会う。
どうやら、ここに棲みついたポケモン同様、このセレビィも音楽が好きな個体であるらしい。
都築さんの横にひょこんと腰掛け、麗さんの🎻に聞きいっていた。
「では、行ってまいります」
「うん、いってらっしゃい」
「都築さんも、水分だけはしっかりと摂って、彼ら(ポケモン)の言うことをちゃんと聞いて下さいね。ソファで寝入ってしまうのは仕方ないですけど、身体を冷やさないように、あとーー」
「ほら、彼(いつも二人の足となってくれるギャロップ:麗さんのポケモン)が待ってるよ、気をつけてね」
挨拶を交わし、教会へと向かう麗さん。
これが二人の別れとなるとは思えない程、誰もがいつも通りだった。
そうして何事もなく、ミサが行われる。
その日は町民だけではなく、近隣からも人々が集まり、それほど大きくない教会は人々で賑わっていた。
まるで祭り事のように、街頭に出店まで出ていたりする。
余談だが、麗さんは週に一回程、日用品や食料の買い出しでしょっちゅう訪れるので、街の人間にも周知されており、そのご縁で今回のお仕事を引き受けていたのである。
開祭。
聖歌に合わせて司祭様が入堂し、祈りを唱えたら、麗さんの出番。
麗さんのバイオリンの他、パイプオルガンはもちろん、街の小さな楽団と一緒に演奏する予定。
各々が各々の定位置につくと、鈴を転がすような鳴き声と共に、なんとセレビィが姿を現す。
森の神様の登場に、厳かだった教会は一時ザワザワと落ち着きがなくなるが、麗さんの姿がよく見える最前席(に座っている参列者と参列者の間)にちょこんと座り、誰よりも音楽を心待ちにしているような姿にほっこりする教会。
麗さんもセレビィの突然の登場に一時面食らったが、あぁ、昨日のセレビィかってすぐ気づいて、もしかして着いてきちゃったのかな?なんて思いつつも、背筋を伸ばして演奏者の顔になる。
何曲か讃美歌・賛歌の演奏を披露する。
セレビィの出現はあったものの、概ね滞りなくミサは進行した。
しかしここで、例の傷ましい事件が起こってしまう。
生まれながらにして罪人である人間が、神を信仰し、感謝し、祈りを捧げ、罪を悔い改め救いの道を求める、そんな場であるはずなのに、教会を突然業火が襲ったのだ。
出火原因は、20年経った今でも不明である。
出入り口の少ない教会では、パニックを起こした民衆がドミノ倒しになり、ステンドグラスを割り脱出を図る者も現れるが、それが逆に炎の勢いをあおるなんてまさに地獄絵図である。
煙を吸い込み動けない者、怪我人、小さな子ども、年寄り、逃げ遅れそうな者も多数いるなかで、機転を利かせて水ポケモンや地面タイプのポケモンなどと救助を行う者もいる。
消防隊も駆けつけ、一時のパニックはあったが何とか事態は収束しそうであった。
燃え盛る教会の中、未だ麗さんはその中にいた。
火の手がまだ回っていない奥の方で、逃げ遅れた子ども達などと救助の手を待つ。
姿勢を低くして、ハンカチやタオルを持っていたら口を押さえて、そう、大丈夫、助けは絶対に来るからと、扇動していた。
実際、消防隊の救助もあった。
一人ずつその背を見送る、一人、また一人と救助隊の誘導に従っていく。
残るは麗さんただ一人かと思われたが、麗さんを呼び止めるようなポケモンの鳴き声が。
セレビィだ。
麗さんの手を引き、指差すそこには、足を怪我した老父が一人。
消防隊に任せておけばいいのに、その姿を見た麗さんは反射的に老父の元へと行ってしまった。
ここで妄想のご都合主義なのだが、後を追おうとした消防隊と麗さんとの間に教会の柱が倒れてくる。
すなわち、救助の道が絶たれてしまう。
消防隊は別の動線を確保しようと動く。
退路が絶たれた絶望感に、麗さんも一度は怯んでしまうが、ここに逃げ遅れた人がいるよ、と教えてくれているかのようなセレビィと、蹲る老父を見捨てることが出来なかった。
老父に声をかけるも、すっかり憔悴し、そのまま炎に焼かれてしまおうかという感じである。
こうして神に祈りを捧げる場で、感謝しながら死んでいけば、この魂も救済されるだろうと、アーメンと十字を切る老父。
「あなたたち信仰者には戒めがあった筈でしょう。自分の命を諦めることは、その戒めに反することなのではないですか?」
自分は信仰についての造詣は深くないが、これだけは分かる、命を諦めることは神への冒涜だと。
老父は言う、この状況下ではこの命も助からない、助からないと悟り受け入れる事は、自然死と変わらないと。
崩れゆく教会、急げ急げと救助隊の声が遠くから聞こえる。
「助からないなんて、そんな事はありません。わたしが貴殿を助けます」
だから諦めるなと、麗さんはモンスターボールからギャロップを呼び出す。
この子の背に乗って脱出しろと、ステンドグラスを割ってでも外に出なさいと。
この子は炎タイプだから大丈夫、貴殿自身は少し熱い思いをするかもしれないが、命あっての物種だと、老父をギャロップに託す。
正直、救助隊の助けが間に合わなそうなら、ギャロップに乗って脱出を図る算段があった。だから逃げ遅れた人たちに寄り添う事が出来た、しかしその都合がなくなった今どうするかーー
途方に暮れそうになったその時、セレビィが🎻を持って麗さんの前に現れる。
出火によるパニックで、どこかにいってしまったと思われた🎻。確かに大切なものだが、そんなもののためにこの子は(すぐにでも脱出出来ただろうに)この場に留まっていたのか。
ありがとう、そう受け取ろうとした瞬間。
麗さんの頭上へと、燃え落ちた教会の屋根がーー
都築さんが教会での火災を耳にしたのはその日の夜だった。
何を言われているのか理解が出来ず、どうやってその街にたどり着いたかもよく覚えていないが(麗さんのポニータが屋敷に残っていたので、おそらくその子の力を借りてきたんだと思う)
目に飛び込んできた光景は、20年経った今でも夢にしばしば現れる。
燃え落ちた教会、消防・救急車とパトカーのサイレンの赤、知らない老父とその家族に連れられた麗さんのギャロップ、警察に手渡された黒焦げの🎻。
現状、行方不明者は神楽麗ただ一人。
遺体はまだ見つかっていないが、この状況だと発見されても難しいだろうなんて人は言うし、この手で今すぐにでも麗さんを探したいのに、大人たちに体を張って止められる。
咽び泣くしなやかな音色は喧騒に掻き消されていたが、崩れ落ちる細長い肢体と丸まった後ろ姿は、その場にいた誰もの目に焼き付いていたという。