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    氷華(ヒョウカ)

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    【轟爆】ド固定【tdbk】

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    氷華(ヒョウカ)

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    轟爆ワンドロのお題「触れる」でハロパロ轟爆おにしょた。

    #轟爆
    bombardment

    【熱に触れる】



    ふっ、と右腕に何かが触れた。

    途端、男の集中力が途切れる。文字を追っていた意識を膝上の紙面から引き剥がして、焦凍は軽く瞬いた。
    秀麗な面差しを彩る長い睫毛が、読書に没頭していた余韻を払拭するように、一度、二度、空気を奮わせる。次いで、読書を中断させた要因を探すべく、紅白に分かれた髪の合間から、オッドアイの視線を動かした。
    目線を流した先、ぱたん、ぱたん、と金糸雀色の尻尾を揺らしながら、画集に夢中になっている幼子の姿が目に入る。
    豪奢なソファの上。男の右側から拳ひとつ分の距離を開けた座面に深く腰かけながら、半年程前に拾い上げた人狼の子供が、一心不乱に色鮮やかな挿絵を眺めていた。
    紅玉の瞳が、画集の中で展開される見知らぬ光景を前に、キラキラと鉱石のように輝いている。滴る血潮よりも尚、吸血の渇きを誘発するその瞳に、すうっとオッドアイを眇めながら、だが焦凍は手を伸ばすことなく、静かに幼子の姿を見守るに留めた。
    ツンツンと跳ねる尾と同様の髪色の合間からは、黒褐色の獣耳が覗き、書物への好奇心を示すように、元気よくピンと前向きに立っている。尻尾は、恐らく内心の興奮が無意識に発露されているのだろう。今もまだ、ぱたん、ぱたん、と緩やかに揺れていた。
    ふさふさと流れ動く毛量たっぷりの尾が、人狼の左側へと移動する度に、毛先が焦凍の右腕に当たってくる。つまりはこれが焦凍の読書の邪魔をした要因だ。
    それでも咎める気など起きる筈も無い。
    人狼の名は勝己という。焦凍が統治する領内の森で拾った子供だ。
    何があったのかは未だ知らず、教えられてもいないが、あちこち抉れた地面の上に、拘束具と共に血まみれで横たわっていた。幾ら回復力や耐久力に優れた人狼とは言えど、この状態では、もう幾何もなく死ぬ。そう判断して、亡骸を晒すことは忍びないと、息絶える瞬間を待っていた焦凍に対して、幼子は瀕死の状態でありながらも、敵意を隠さない鋭い視線を飛ばしてきたのだ。生きようと足掻く本能よりも尚強い、負けたくないという意思が、その瞳から激しい程に伝わってきた。
    だから興が乗ったのだ。今にも途絶えそうになる喘鳴を耳元で聴きながら、幼子の白く柔らかな首筋に細く鋭い牙を食い込ませ、吸血鬼の眷属として生き永らえさせることにした。
    そして今、子供は焦凍の側にいる。

    男の視線に気付くことなく、熱心に画集を読みこんでいた子供が、最後のページをめくり終えた。
    パタン、と閉じられた本の音を合図に、焦凍は幼子の名を舌先に乗せる。

    「勝己」

    名が響くと同時に、ピンッと黒褐色の獣耳が反応し、先刻よりも尻尾が激しく左右に動き出した。だが、今度はそれに気付けたらしい子供は、慌てて両手で尻尾を動かぬように抱え混むと、焦凍の顔を見上げてきた。

    「なんだよ」

    ムスッとした表情は、照れ隠しだ。その証拠に、まろい頬がじんわりと赤く色付いている。存外、この子供は焦凍のことを好いてくれているらしい。拾い上げ、古城に連れ帰った当初の警戒具合を思えば、驚く程の軟化ぶりだ。

    「おいで」

    持て余すように組んでいた長い脚をほどき、膝上から書物を退けた焦凍は、軽く両腕を広げて己の眷属をいざなった。

    「……おれはペットじゃねぇぞ……」

    ぶつくさと文句を言いながらも、画集を横に押しのけた勝己が、座り込んでいた座面から、いつの間にか自分の主となっていた吸血鬼の膝へと移動する。
    膝上で対面する形で顔を見合わせた主従は、傍から見れば年の離れた兄と弟に見えた。
    焦凍自身、最早実年齢は覚えてなどいないが、外見は二十歳前後で止まっている。
    一方の勝己の外見は十歳程度だ。彼の場合は実年齢も同様らしい。ただ、眷属化したせいで、これ以降、成長することは無い。
    その事実を前に、当初は憤慨していた勝己も「死ぬよりはマシだろう?」と告げた台詞にはぐうの音も出ないでいたが。
    勝己の両手は未だに尻尾を抱えているので、落ちないようにと、その幼く薄い背と腰に両腕を回して支えると、小さな掌では抱えきれずにいる箇所の尻尾が、うずうずと左右に動きたがっている様がよく見えた。焦凍の膝上で抱き込まれている現状が、余程嬉しいらしい。
    口を開けば可愛くない悪態を撒き散らす子供ではあるが、あいにくと、感情が直結した獣の部位は素直であった。当人は不本意も甚だしいようだが、他人の機微に疎い焦凍にとってはありがたい。
    左右に動こうとする尻尾をぎゅうぎゅうと抱き締めて、何とか隠そうとする姿に、可愛いな、と焦凍の眼差しが緩む。途端、その面差しを直視した勝己が、うっ、と呻いた。森中の苦虫を集めて噛み潰したような複雑な顔で、ますます頬を色付けていく。
    流石に肌の色が赤くなりすぎな気がして、これは照れではなくもしや熱があるのでは? と心配になった焦凍は、勝己に回していた両腕を一度離した。白手袋を脱ぎ捨て、片方を背に、もう片方を小さな額に押し当てて、熱を測る。

    「……熱があんのか……分からねえな……?」
    「熱なんてねぇわ!」

    元より低温体質の焦凍からすると、勝己の子供体温は常日頃から高く感じるのだ。額に手を当てたところで、熱が有るか否かの判断がつかず、首を傾げていると、ぺしっと小さな掌で叩き落とされた。

    「このくそボケにぶちん吸血鬼野郎!!」

    突然の暴言と共に膝上から逃げ出そうとした幼い四肢を慌てて両腕で抱き締めて阻止すると、当初はきゃんきゃんと仔犬のように吼えていた人狼は「う~~~~っ」と長い唸り声の後、観念したように焦凍の胸元に顔をうずめてきた。
    やはりその様相が可愛く思えて、知らず知らず、焦凍の頬が緩んでいく。
    腕の中の小さな命が、何か得難いものであるかのような気持ちになることが、最近、増えた気がする。シルクのシャツ越しに伝わる子供の高い体温は、熱を好まないでいた筈の焦凍にとって、いつしか心地良いものとなっていた。

    ――それが何故なのか、どういった感情から生み出されているのか。

    他人の機微のみならず、己の心情にすら疎い吸血鬼は、未だ知る由もない。







    End.
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