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    # リプもらった番号のワードを使って文を書く
    鋭百 ワードは「鏡」「灰色」「無音」

    ##鋭百

    誰が為のラトレイア「…………ふ、……」

     笑い声とため息の中間のような軽い音は、どちらの唇から零れたものだろうか。この部屋に置いてあるのはデジタル時計で、実家にあった微かに秒針の音を響かせる年代物の時計とも、祖父母の家にあった古時計とも違ってアラーム以外の音を立てることはない。幼い頃は、ぼぉん、と低い音を一時間毎に仏間で鳴らす大きな時計が少し怖かった。そんなことを思い出しながら、動く度に微かに聞こえる衣擦れの音と、百々人から漏れる小さな声に耳を澄ませる。

     俺の背中に腕を回し、肩甲骨をなぞるようにゆっくりと指を動かす百々人の真似をして、うなじから肩にかけてと腰骨のあたりを人差し指でぞろりと撫でる。んぅ、と鼻にかかった小さな声。甘やかで、だけど甘過ぎず。くすぐったさを逃がすような軽さ。お互いの輪郭すらまともに把握できない。ざらついた灰色の世界。ぼんやりと光る時刻は午前2時。緑色の蛍光色は、今は百々人の耳から離れてサイドテーブルに置かれているピアスに似ている。

    「……マユミくん、ねむい?」
    「…………いや、……まだ」
    「うそだぁ。まぶた、とろんってしてるよ」

     少しだけ体を離した百々人が、俺の顔を覗き込んでいる気配がする。その瞳に映る自分はおろか、百々人がどんな顔をしているのかも不明瞭だ。昼間、太陽の下でなら、鏡のようによく映るのに。灯りがついていないからかと思ったが、指摘された通り眠気のせいもあるんだろう。それなら俺の表情を把握できている百々人は眠くないのだろうか。いつもより舌足らずな呂律と詰められる距離の遠慮なさは、ほんの少し眠気を滲ませているような気がしないでもない。

    「寝ていいよ」
    「…………おまえを」
    「ん?」
    「……おいていきたく、ない」
    「……そんなこと、おもわないのに」

     俺の肩に額を押し付けて、まゆみくん、と呟く声はまるく穏やかだ。多分この声に触れたら、今俺が撫でている後ろ髪のように柔らかくて、指の間を擽っていくような感触がするんだろう。

    (……ももひと。に、は。もらってばかりに、なってしまう)

     冷えた耳たぶに軽く噛みついて、腕の中で小さく跳ねる体の振動を感じる時。音のない部屋に落ちる俺の名前を耳にした時。百々人を置いていかないように、こうしてなんとか眠気に抗って、それでも背中をゆるく撫でる手のひらの温度に連れてこられた眠りとの勝率が五分五分であること。勝った時、くてりと力の抜けた指先を攫うと、意識のないまま赤ん坊のように握り返してくること。
     ……たまに眠りながら泣いている時、涙を袖で緩慢に拭いて抱きしめて名前を呼ぶと、だんだん呼吸が落ち着いていくこと。

     俺が先に起きていれば、朝のやわらかな光の中に眠っているお前がいて。逆の場合、起こす前に額に唇の感触がして。目を開ければ、何もしてないですよ、という顔をしながらほんの少し耳が赤いお前がいて。

     そういう細やかな二人きりの秘密を重ねていった結果、今、俺にとってのしあわせは花園百々人という男の形をしている。口にしたところで「なぁに、それ」と笑ってかわされて終わるだろうが。

    「ふぁ……ぁ、耳のした、……くしくしするの、だめ、まゆみくん……」
    「うん……」
    「きいてないな……もー、眠いんなら、いたずらしてないではやく、ぅ、……んぁ……っ」
    「ああ、……その声、が。すきだ……ももひとが、…………おれの……」
    「ぁ、ぞわぞわ、する、ッ……は、ァっ、もう、もうねるから、ね、ちゃんと寝る、から。マユミくん、おしまい」
    「ん……ももひと……」
    「もう……ねる、ってば……うぅ、みみ、あっつい……」

     どうしてか腕の中の百々人はさっきよりほかほかしていて、背中に回った腕の力は強くて。「ほんと、なんで僕が眠れないとすぐ気づいちゃうかな」とぼやく声を遠くに感じながら、緩慢なリズムで百々人の背中を撫で続ける。ふわふわの靴下が俺の足の甲を撫でる。鏡写しの真似事にしてはちぐはぐでアンバランスな戯れに、少しずつ、百々人の穏やかな寝息が混じっていく。眠気に侵された思考の底、じりり、と焦げるような余計な気持ちが百々人を力任せに抱きしめないように、深く息を吸う。

    (きっと百々人のしあわせは、まだ、俺の形をしていないんだろう)

     それでも、少しだけでもいいから、そこに俺が関わっていてほしいと。そんな祈りに似た欲がじわりと浮かんで。
     それを押し込めて代わりになんとか押し出した「おやすみ」は、夜のとばりに溶けていった。 

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