いずれ土井利になる話1 その夢の中で、土井はいつも暗闇の中を走っていた。
闇はいくつもその手を伸ばし、土井が必死で抱えているものを容易く奪い去っていく。見る間に家が、土地が、人が奪われ、そうして母が奪われ、父が奪われていった。手の内がものすごい早さで軽くなっていく。闇はそれだけで飽き足らず、土井の心の中へまで手を伸ばした。優しい日々の思い出を、誰かにすがりたがる甘さを、正しさを信じる心を丁寧にこそげ取っては、代わりに鉛玉を詰め込んでいく。とうとう土井の胸は墨にでも落としたように黒々と重く染まりきってしまった。
そうしてふと気づく。
向かっているのは破滅だ。
このまま走り続けて行けば、辿り着くのは不毛の世界だ。自分も人も闇雲に傷つけてはぐちゃぐちゃになって堕ちていく。そんな未来しかない。
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