可愛いあの子の恋よ倅が、人間の娘に懸想した——。
父はふと予感した。それはまだ恋心にも満たないような、淡い淡いものであったが、確かに情の類だった。
窓辺に背中を預け、うすらと差込んだ月明かりが、まろい輪郭をクッキリ浮かび上がらせる。どこか大人びた表情で瞼を伏せて、ボンヤリとしている。
その瞳をよく知っていた。
恋を知ろうとする瞳である。
物思いに耽る横顔に、母の生き写しの髪がさらりとかかった。
それで、父は。
「気になる子をデイトに誘うくらい、できるようにならんといかんぞ?」
「へっ」
「わしと母さんなんかしょっちゅうじゃった。浅草の屋上遊園地では——」
「ちょッ、待ってください父さん。急に何の話ですか」
鬼太郎は突拍子もない話題に困惑した。
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