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    ZnMyzattakata

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    ペンギン・ハイウェイのパロディ……とも言えない設定を借りた何か。SF(少し不思議)です。
    (※実質ペンギン・ハイウェイのネタバレになりますので読む予定のある方は注意)

    レイン・エイムズには弟がいる。厳密に言えば、弟と思われる存在が居た。
    というのも、弟は突然顕れたのだ。それは幼少期のこと。帰宅をしたら弟と名乗る少年がリビングに居た。自分は一人っ子のはずだが……と首を傾げれば両親は普段と変わりない調子で「どうしたの?弟のフィンじゃない」「長いこと外で遊んできたから疲れているんだろう」と軽く流されてしまった。その弟も兄さまと自分を心から慕ってくれたし、とても愛らしい少年であった。なので、細かいことは全てどうでも良くなった。自分が弟だと思っていればフィンは弟なのだ。それでいい、と。フィンの笑顔が見られるだけでレインは幸せだったし、フィンのためならなんでもしたいと思える、そんな存在となっていった。

    レインが大学生となり、久々に実家に帰省した時のこと。街に異変が起きていた。大量の光る蝶々が街のあちこちに現れるという一大事件。新聞にもニュースにも取り上げられ、連日報道陣が押しかける。突然の奇妙な出来事に小さな街は騒然としていた。
    昔から綺麗な物が好きなフィンのことだから、今回の出来事には驚きや喜びを隠せないでいるのでは……そう思って帰宅したのだが、久しぶりに目にしたフィンの表情は予想に反して暗い。見たこともないフィンの姿にレインは強い不安を覚えた。
    「フィンはあの光る蝶というのを見たのか?」
    何気なくレインが尋ねると、フィンはびくっと身体を硬くする。それから泣きそうな声でレインに告げた。

    「あの蝶……僕が出してるんだ。ううん、出してるんじゃない。出てきちゃうんだ」


    (中略)

    「ごめんね兄さま、僕、人間じゃなかったみたい」
    数多の蝶がフィンの周りを優雅に舞っている。眩い光に包まれたフィンは、まるで神に使える天使のようだった。
    「ああ」
    けれど、どんな姿であれ、どんな在り方であれ、関係なかった。レインにとってたった一人の弟。唯一無二の存在。そのことに何の変わりもなかった。
    「……兄さま、僕は、」
    苦しそうな顔をするフィンに「言わなくていい」と、本当はそう伝えたかったが堪えた。フィンが覚悟を決めているのに、それを邪魔するのはフィンを愛する者として最もしてはいけないことだと分かっていたから。

    「僕、本当はこの世界に居てはいけないみたいなんだ」
    「そうなのかもしれねえな」
    「世界の歪みや綻びを直す……それが僕の役割」
    フィンが手をかざすと、周りを包んでいた膜がふるりと震えた。膜に入った亀裂や吸い込まれそうな黒い染みに蝶が触れ、瞬く間に粒子となって消えていく。傷一つなくなった膜は水に溶けるように空気の中へ透けて見えなくなっていった。
    「こうやって世界が壊れないように"外側"に居なきゃいけない。だから、もう兄さまの住むところには戻れない」
    フィンは一歩後ろに下がった。
    「兄さまを育ててくれた、兄さまが大事にしている世界を僕は守りたいんだ。だから……」

    「さよなら、だね」

    そう言い終えるかどうか、フィンの手がぐいと前に引っ張られた。突然のことに言葉も出ない。
    「なぜだ」
    「何故って…?僕がこの世界の中にいたら壊れたところを直せないでしょ?だからもう兄さまと同じ"内側"には居られないんだって」
    「オレもそっちへ行く」
    「はぁ!?」
    ありえない、フィンは目を白黒させた。
    「自分が何言ってるか分かってんのかよ!!」
    「十分理解している」
    「僕と一緒に外側に行くってことは……人じゃなくなるってことなんだよ!?」
    「そうだな」
    「家族も親友も!住んだ家も、街も!!全部全部、もう……二度と会えなくなるんだよ」
    「……そうだな」
    レインは両親を家族として愛している。親友のことだって仲間のことだって、みんなみんな大切だ。全く後ろ髪を引かれないのかと言われてしまえば、嘘になるだろう。それでもレインの決意は固かった。
    「お前が居ないなら、オレの人生は終わったも同然だ」
    「……なに、いってるの」
    「お前に出会ったあの日から、オレはお前のために生きると決めた」
    今度はレインの身体が光に包まれる。
    あまりの眩しさにフィンは目を瞑らざるを得なかった。次に目を開けた時そこにあったのは、一振りの剣だった。
    「お前の蝶が壊れた世界を治すなら……オレはお前の守る世界を壊そうとする存在全て、この剣で消し去ってやる」
    「なんだよ、それ……」
    がくんと力が抜けてしまったフィンはその場にへたり込んでしまった。その瞳からはらはらと涙がこぼれ落ちていく。"そんなのだめ"と突き返さなきゃいけないと頭では理解しているのに、どうしようもなく嬉しくて口角が上がるのを止められない。
    「オレの帰る場所は、お前だ。お前が居る世界にオレは帰る。それだけだ」
    「はは、兄さまは馬鹿だなあ。そんなに僕の好きだったんだ」
    まだ止まらない涙を擦りながら冗談めかして言うフィンに、レインは至極真剣な表情で返した。
    「……知らなかったのか?」
    「え?」
    「フィン、愛してる。この世の誰よりも」
    ポカンと開いたその顔を引き寄せ、レインは優しく口付けた。


    その街にはある噂がある。
    ––森に迷えば光る蝶が導いてくれる
    ––怪異に出会えば黄金の剣が切り裂いてくれる
    見たことがある、という人間は誰も居ない。

    けれど消えることなく伝えられている、不可思議なお話。
    きっと世界のどこかで笑って過ごしているのだろう……誰も知らない、神様のお話。


    ※フィン……ヒトではない、何か別次元の存在。世界のバグで本来入れない内側に入ってしまった。ヒトの生きる世界や時空に生まれる綻びを直す役割がある。
    ※レイン…フィンへの愛があれば人ならざる者にだってなれる。元人間。
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