登 背の低い草が、風を受けて同じ方向に流れていた。陽を浴びて、太陽が反射する。緑の絨毯のようだ、とありきたりな言葉が浮かんだ。
少しだけ季節を先取りした、美しい橙色が視線を遮った。
「なぁ、来てよかっただろう」
そう言って、同じことを感じていると疑わないかのように、彼はそれはそれは幸せそうに笑ってみせた。
△登△
「穂高連峰縦走!」
「鳥海山!」
穏やかな五月の昼下がり。購入したばかりのマンションのリビングで、彼と俺は額を突き合わせるように話している。外から見れば喧嘩しているように見えるかもしれない。珍しく、子どものように頬を膨らませた煉獄さんは、夏山特集と書かれた美しい山々の写真が載った雑誌をずいと俺に押し付けた。
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