奇にあらず「古賀、奇術部ってマジ?」
トランプを浮かせていた古賀時雨は
絶え間なく動かしていた手を静止した。
ここ、毒竜中学校では、
必ずしも皆がコマンドを持つ訳でなく、
幼少期の教育から始まり全く異なる進路
に置かれることも少なくない。
古賀時雨のコマンドは魔力であった。
その能力の期待値から
ジョブマッチングインターンに参加することが
許されていた。
古賀時雨は奇術部で、コマンド:魔術
を使うことは一見繋がるように見えた。
しかし、全てにおいて
このコマンドを適用するのは
都合が悪く、このトランプも
テンセグリティを応用し浮いていた。
「まあ、まあ」
過去───例の北野正念龍(キタノジェネラル)
の暴走により、コマンド:魔力を
使用する他なかった。
激しい攻撃を受け、朦朧とした意識の中、
むやみに使うものでは無いと古賀は悟った。
噂に聞いた部活で、奇術を得ることによる
効果を期待したのだった。
活動から一週間以上経過するも、
確かに奇術部だと知らされたその部屋のドアを
叩くものは、古賀以外存在していなかった。
曇った窓を開けると、挟まっていた
薄汚れたA4が音を立て床に移動した。
『部員募集中!奇術ヲ探究』と書いてあった。
「ク、ソ、」
ガタガタの赤文字に見えたそれを、
古賀は破り捨て、紙吹雪にした。
トランプを無くした手は、
あの日A4を紙吹雪にした手と
大差ないものだった。
ジョブマッチングインターンは目前に
迫っていた。