ファミレスで寝てはいけない。 幻太郎は乱数と帝統に挟まれた真ん中の席に座り、両サイドから肩に頭を置かれていた。
まさに両手に花(ダチ)状態だ。
「ごめん……昨日遅くまで作業しちゃって」
「俺も朝まで麻雀してた……」
「ほほう、俗に言う「徹マー」ってやつですか。いやそうじゃなく!」
ツッコミを入れつつ、その声量が小声になってしまう幻太郎は優しい。
「飲食店で寝るのはマナー違反ですよ」
二人に聞こえるよう下向き加減で言うと、二人のつむじに向かって話しかけているようだ、と思う。
つむじに話しかけられた二人は
「むぅ。そうなの?」
「あー、わりぃ。わかっちゃいるんだが。……」
乱数はやや不満気に、帝統はダルそうに小声になる。睡魔に襲われている時の人の体温はどうにも耐え難い。
意図せず三人仲良くボソボソと、ないしょ話でもしているかのようだ。
時刻は午前10時。
3人はシブヤのファミレスに集まっていた。
珍しく午前中から待ち合わせたかと思えば。半アーチ型のソファー席は友の肩を枕に寝るのに最適な席だった。
「っし、幻太郎。こんな時こそおまえの出番だぜ!」
何が決定したのか、帝統は眠そうな声を空元気でカバーしながら幻太郎に言う。
肩から頭は外さずに。
「なになに〜?幻太郎が僕らのこと起こしてくれるの?」
楽しさより眠さがやや優った様子の乱数がノってくる。
肩から頭は外さずに。
「起こすってどうやって………」
言いかけたところで、話題が一つ頭に思い浮かぶ。
「三色団子、と言うとわかります?あの三色は四季を表していて、本来なら四色であるべきなんですよ」
帝統は内心、こいつ、うんちく王の称号が得られるのでは?と思う程、よくもこう毎回突拍子も無い話が出来るもんだと、感心した。
肩から頭は外さずに、乱数は楽しそうな声を上げる。
「そおなんだ!なんだか僕らみたいだねっ」
「と、言うと?」
「フリング・ポッセは、元は4人だった、てか?」
「怖い話はやめろ」
「お前が言ったんだろ!」
乱数の迂闊で適当な発言は自分の首を絞める結果となった。
ぶるっと身震いをした乱数の様子に、幻太郎は少し楽しくなり、少し可哀そうに思った。
「おや。もう目は覚めたのですか?」
「2人のおかげでね」
幻太郎に身を委ねていた乱数は恨めしそうな態度でそっと体を起こした。
残りはこの万年素寒貧……と呼んだら怒られるだろうが、これは心の声なのでバレない。
万年素寒貧で幻太郎は先日の帝統の姿を思い出した。
その日は風が強くて、いつものようにギャンブルに負けて来た帝統はと言うと、紺青色の髪は風に流されるまま、気の向くままといった状態で、ボサボサの前髪で明日も見えない、とでも言いたげな様相だった。
「まあまあ。そんな髪型でまで、自分の貧窮を訴えなくてもいいんですよ?」
「んなわけねーだろ!」
ったくふざけやがって……とつぶやきながらずかずか部屋に入ってくる帝統の後ろ姿がなんだかおかしかった。
そのイラつきは自分へのものにも思えたし、そうでなくも思えた。
あの時の帝統の姿、風に吹かれて形状まで変わってしまったあの姿を思い出し、ふ、と空気を震わせる。
その風が僅かに、紺青色に包まれたつむじに当たる。
「おい、今なんか良くねーこと考えてただろ?」
幻太郎へ身を委ねたまま、眠そうなままで、鋭く釘を刺す。
「何故そう思うのです?」
少し焦る気持ちを心の奥へ押し込んで、幻太郎はなんでもないように聞き返す。
「根拠はねえけど。……でもわかんだよ、人から悪く思われてんだろなって時は。」
その声音はどこか幼く、ぶっきらぼうな言い方からは、寂しさを隠しているように感じに取れた。
「おや、そんなつもりは。……」
幻太郎の様子に、今度は帝統がバツが悪そうになる。
「や、わりぃ。眠いと無意識に感覚が研ぎ澄まされるっつーか……」
「ほうほう。「野生の勘」というやつですね?」
「な・ん・だ・とー!?」
帝統はバッともたれかかった体を起こし、今にもニャー!と言いそうな勢いで両手を構える。
小さくレッサーパンダのポーズで威嚇されているのに、幻太郎はどこ吹く風。
「目が覚めて良かったではないですか〜」
一方、乱数は
「お待たせしましたニャ!」
「やったー!」
料理を運んで来るネコ型ロボから皿を取る。皿には山盛りのポテトが盛られていた。
ほい、さんきゅー!と言いながらネコ型ロボの「完了」ボタンを押す。
「二人も食べていーよん♪」
乱数のマイペースっぷりに、幻太郎と帝統は、肩から力がだるーっと抜けるように、ソファーにもたれかかった。