乱数に黙ってホラゲー実況「当たりました?」
「おう」
「当たったそうですよ〜」
何故か幻太郎が喜び、当てた帝統は少々ぶっきらぼうに、何でもない様子でいる。大した当たりじゃねーけどよ、とつぶやく姿が映る。
自分達の動画チャンネルを持つFling Posseが上げた最新動画の冒頭のワンシーン。たわいも無いやり取りを見られる事が、ファンには嬉しいものだ。
――――
「今日なにすんの?」
「え。帝統には言いましたよ?ホラーゲームです」
「俺にはって。あぁ、なるほどな?」
怒られても俺しーらね、と、帝統は半笑いする。
今回もゲーム実況動画にしようとミーティングで決めていた。
迂闊な乱数は、いいねいいね〜とどのゲームかまでは確認しておらず、幻太郎はそれを逆手に取って再生数が上がりやすいホラーゲームを選んでいた。
「やほやほやほ〜……じゃあそういう事でまた明日!」
上機嫌で登場するも、その場の雰囲気で瞬時にはめられた事に気づいた乱数が早口で去ろうとするので、幻太郎がサッと部屋の入り口で通せんぼした。
「明日の約束なんてしていませんよ?」
「よぉ!またやられたな乱数〜?」
「ほんっっっと最悪!!」
今日こそやんないかんね!?僕もう帰るんだから〜!!と乱数はその場で地団駄を踏む。
場面が変わり、まあまあ、まあまあ、と2人から両肩を押される形でモニターとカメラの前に座らせられる。
そこに至るまで数分間の小競り合いがあったが、編集でカットした。結果的に観念するしか選択肢は無かった。
「ザガバン゙バズピズがい゙い゙〜!!!!」
幻太郎と帝統に挟まれて座る乱数が全文字濁音でごねる。
「なんてェ?」
「ザガバン゙バスピズに゙な゙っ゙で海の゙中を゙冒険ずる゙の゙がい゙い゙〜!!!!」
「鯖??」
はぁ?という顔の帝統の頭上にポコポコと?マークが浮かぶ。
乱数の言わんとしていることを理解した幻太郎が、そういうゲームがあるんですよ、と帝統に耳打ちする。
「ほら乱数。こんな顔ですよね?」
「え?……うわ゙あ゙!な゙ん゙でできる゙の゙〜????」
何をどうやったのかサカバンバスピスにそっくりな顔をした幻太郎がそこに居た。普通にこわい。
「小生の正体は、何にでもなれる超万能AIだったのです。何か質問はありますか?」
「んーとね。好きな押し花は?」
「好きな押し花とは?パンジーしか思いつきませんが?」
「じゃあ好きな動物は?」
「チンパンジー」
「なあ今日どのゲームすんの?」
二人のやりとりをいつものようにスルーした帝統がマウスをぐるぐるする。
「はい。絶叫を感知するとゲームオーバーになるホラーゲームも良いかと思ったのですが」
「一生終わらないと思うぞ、それ」
「それの何が"良い"なの?締め上げられたいの?」
「はい。小生もそう思ったのでやめました」
何?そう思ったの?締め上げてもいいってこと?と迫る乱数を全力で片手で静止しつつ、幻太郎はマウスを操作する。
「今日はこれ。隠し部屋にある、不思議の扉を開けましょう。」
そう言いながら幻太郎はゲームを起動させた。
――――
「テキストゲームなので、前回に比べると、言う程こわくはないと思いますが」
この企画は2回目だった。3回目があるかどうかは、この撮影後に幻太郎が存命しているか、締め上げられてダイイングメッセージ「RMD」を残しこの世を去るかで決まる。
「この前はあれか。プールでおっかねー顔した奴に追っかけられるやつ」
「正確には、とある学校で行方不明になった生徒を探すという内容ですが、まあそうですね」
あれはなかなかスリルがありましたね……と幻太郎は思い出す。
プール室の奥から、近づくと追いかけてくる恐ろしい顔をした化け物が現れる。
その時の乱数は、恐怖で後ろから幻太郎の首に抱きついてなんとか画面を見ていた。化け物が画面に映った瞬間、ぎゃー!!!!と叫び幻太郎の首を力の限り絞めた。
ゲームでなく、現実で葬られるんじゃないかと思いました、と後に幻太郎は語る。
一方帝統は基本的にプレイする幻太郎をとなりで見守り、たまに交代してプレイする。今回も引き続き同じスタイルだ。
最初こそ「おいおい、こんな序盤からビビってちゃあ仕方ねえなー?」とくすくす笑っていたが、終盤は「うお!?」「おわ今幻太郎にビビった……」とビビっていた。
――――
「ちっ仕方ない……今日は帝統にしよーっと」
これも愛するポッセのため、自分抜きで帝統と幻太郎が遊ぶというのも癪だし、と腹を括った乱数は、帝統の首に後ろからぎゅっと抱きついた。
帝統は前を向いたまま、乱数の頭にぽん、と手を置いた。
ゲームはドット絵だったが、黒と赤で表現されたおどろおどろしい風景や、道中で出会うキャラクターが選択肢によって襲い掛かってくる時の言動や、苦悶の表情が見事に不気味に描かれていた。
乱数は物語りが進む度、キャラクター達が会話する度「なに!?」「ひい!?」「ぴゃっ!?」とリアクションした。
幻太郎と帝統もふざけて「ぴゃっ!?」と乱数を真似した。2人の頭にドスッドスッとチョップが降ってくる。子どものように華奢な手から繰り出されたとは思い難い威力だった。
――――
「ねむい」
帝統の体温が移ったのか、2人の後ろから乱数の眠そうな声がした。
「どれどれ。本当だ、手が温かくなってる」
「ん?」
幻太郎は乱数の手をきゅっと優しく握り体温を確かめた。
「はは、カイロみてえ」
幻太郎の持つ方と反対の手を帝統が握る。
「どゆこと?」
乱数は2人の意図がわからない。
「人が眠いかどうか、手でわかるの?」
「眠くなると手足が温かくなるんですよ」
現に乱数の体は今ぽかぽかしてるでしょう?と。言われて意識してみると、確かにぽかぽかしているような。
「ごめん、寝ていい?」
「もちろん良いですよ」
「お前の分まで進めとくぜー?」
うん、2人ともありがとーと言いながら、帝統の首から離れた乱数が画面からフェードアウトした。
画面には映らないが2人の後ろに下がって乱数は横になった。幻太郎がさっとい草の枕をカーリングのようにスライドして渡した。
「ここはどう進めるんでしょう?」
「●●ってことは……もっと下スクロールして……」
「本当だ。貴方すごいですね。初見ですぐにわかるって」
「もっと褒めていいぜ」
「あぁー死んだ!」「だから言ったでしょう……」と言い合いながら幻太郎と帝統は協力してゲームを進める。
2人の声を聴きながら、乱数は浅い眠りに着いた。