ホシチェン/アークナイツ「なんだこれは」
執務室の机の上、積まれた書類の山の隙間に置かれた細長い箱を見て、チェンは声を上げた。
目の前のホシグマは答えず、大きな身体で肩を竦めた見せた。広げたてのひらを差し出す。どうぞお開けください、とでも言うように。
チェンは怪訝な表情のまま箱を手にとった。パールホワイトの包み紙でラッピングされたそれは白いリボンが丁寧に巻かれている。およそこの無骨な近衛局には似つかわしくないものだ。自然と包みを剥がす手が丁寧になる。途中、ふとチェンは気付いた。シルバーでプリントされた柄、これはシュヴァルツスキーのロゴだ。
「プレゼントです」
そこで、ようやくホシグマが口を開く。
開けると、中には予想通り、ネックレスが入っていた。小ぶりのクリスタルをあしらったシンプルなデザインだが、ブランドからして安物ではない。
「どうして」
何よりもまず、チェンは困惑した。こんな高価なものをもらう理由がない。誕生日はまだ先だし、他に祝われるような心当たりがない。
「ネックレスは好みだとおっしゃってたでしょう」
「よく覚えていたな」
平然と言うホシグマに呆れた顔を見せ、チェンは椅子の背もたれに体重を預けた。
「たまたま見かけて、隊長に似合うと思いまして。本当にそれだけですよ」
「そうか、ありがとう。せっかく選んでもらったものだ、有り難く受け取っておこう」
ネックレスを丁寧に箱に戻しながら——チェンはじっとホシグマがこちらを見つめていることに気付いた。
「なんだ?」
「つけないんですか?」
「今?」
「職務中につけてもおかしくないものを選んだつもりですが」
ホシグマの言葉に、チェンは顔をしかめた。
「せっかくお前が選んでくれたものだ。仕事柄、壊したりなくしたりしそうで嫌だな」
「ですが、それだと身に付ける機会がまったくないのでは」
「ああわかった。内勤のときくらいはつけておくとしよう」
根負けしたチェンは再びネックレスを手に取り、チェーンを後ろで留めた。それを見て、ホシグマが満足そうに頷く。
「よくお似合いです」
「いいセンスだな、気に入った」
椅子をくるりと回し、チェンは壁にかかった鏡を覗き込んだ。背後に映ったホシグマの口元が動くのが見える。
「イヤリングの趣味はまだ教えてもらっていなかったので」
「なら次の休みは付き合え。一緒に選んでもらおう——これのお礼もしたいしな」
「隊長が休んでくださると言うなら、いくらでもお供しますよ」
ああ、そうだな——チェンは卓上のカレンダーを確認する。そこには予定が乱雑に書き込まれ、すっかり真っ赤になっているが、愛する友人のためならこのスケジュールも、書類の山も、一気に片付けてしまうことなど訳ないことだ。
チェンは楽しそうに笑った。昔はあまりそういう顔をしなかった。
「そうだな。おまえの愛車の後ろにも乗ってみたい」