コーヒーと隠し味 街はチョコだなんだと浮かれていると言うのに、俺らの首都様は徹夜続きだからか疲れ切った顔をしていた。
無理もないか。首都という重圧に耐えながら、毎日仕事ばかりしていてはこうなるのも当たり前だ。
「お疲れ。少し、一休みすんべ」
チョコをひとかけらほど溶かしたコーヒーを、モニターと睨めっこをしている東京へ差し出す。
東京は俺からカップを受け取り、「ありがとうございます」と軽く頭を下げた。
「千葉さん、残っていらしたんですね」
「まーね。何か手伝?」俺は、東京の隣に腰を下ろし、デスクに頬杖をついた。
本当は東京の肩に手を回したかったが、仕事の邪魔はしたくなくて諦めた。
東京は「いえ、お構いなく」と短く言い、カップに顔を近づけると、スンスンと鼻を鳴らしては「おや……」と、言葉を溢した。
流石東京。コーヒージャンキー。飲まずとも隠し味が分かるってか。
「このコーヒー、少し甘い匂いがしますね」
「うん。何入ってっか分かる?」
「んー。そうですね……」そう言って、東京はカップに口を付ける。
俺はその横顔をただ黙って見つめ、次第に変わっていく東京の表情になぜか心が踊る。
「分かった、分かりました! チョコですね! それも甘くないやつ!」
「んー、ちょっと惜しー! 正解はー、俺の愛情! なんつって!」
自分で言っていても笑っちゃうくらいキザっぽかったかも、なんて思ったが、東京は笑ってくれた。大爆笑だ。
「っぶ、あはは! 愛情、愛情ですか! ふふ、千葉さんってば本当に面白い方」
「どーよ、少しは疲れ吹っ飛んだか?」
「ふふ。ええ、それはもう! 私好みのほろ苦い愛情に笑いが止まりませんよ!」
東京はそう言って、目尻に浮かんだ涙を指でぬぐい、くすくすと笑いながら俺の腕をペシペシと叩いた。力がそんなに入っていないのか、音が軽くなる程度で、あまり痛くない。
東京の楽しそうな顔が好きだ。疲れ切った顔より、そうやって幸せそうにずっと笑っていて欲しい。
そう思っていてもアイツは首都だから、仕事に追われるのが仕事みたいなところがあるし。だからせめて、俺といる時くらいは仕事を忘れて笑っていて欲しい。
「千葉さん」
「ん?」
「その……。また、作って下さりますか?」
カップを両手で包み、フイっと顔を背けて恥ずかしそうに東京は小さく呟く。
一瞬、何のことかと思ったが、すぐにコーヒーのことかと思い至り、頬が緩んでいく。
「おうよ! 明日も明後日も、なんだったら毎日だって作ってやんべ!」
東京は俺の声に驚いたように俺を見上げ、そして「毎日じゃ、太ってしまいますね」と、顔を赤くしては照れたように笑った。
——やっぱ、東京の笑顔が好きだ。