首元を彩るは君の色「ん」と、渡された小さな紙袋。
国民的長編アニメの少年が少女へ傘を手渡すように渡され、思わず笑い出しそうになるのを抑えつつ、ありがとうございます。と、お礼を口にした。
そういえば、今日がバレンタインだったか。
「きっとお前は気にいるよ」
えらく自信満々に言うものだ。よほど美味しいものだったのだろうか。
「開けてみても?」
私が紙袋を指すと、神奈川さんは勿論。と自信に満ちた顔で頷く。
神奈川さんのお墨付きなら、期待大。
私は紙袋の封を丁寧に開け、中身を確認する。
てっきり、チョコレートでも入っているものだと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「あの、これは……」
中に入っていたのは、ジュエリーケースのような小さな小物入れだった。
グレー色の、しっかりとした作りをしたそれ。
「開けねぇの?」
神奈川さんの促す言葉に、恐る恐るケースを取り出し、開けてみる。
中に入っていたのは、黒い石が埋め込まれたシルバーのタイバーとカフリンクスだった。
アクセサリー類に疎い私でも、一目で綺麗だと分かる。
細長いシルバー色のタイバーの先に、四角い飾りが施され、その四角い飾りの中に三角形の黒い石が埋め込まれていた。カフリンクスも、四角い飾りが同様に施された作りであった。どちらも控えめながら、品の良さが感じられた。
「気に入ったろ」
「ええ、凄く素敵なものだと思います」
お世辞抜きで、素直にそう思った。
思ったのだが、なんで、こんなものを贈られたのかが分からずに少し困惑する。
これはどう受け取れば良いのだろう。
困惑する私を他所に、神奈川さんはケースを指差し、「このオブシディアン、俺のトコで取れたヤツなんだよね」と上機嫌に言う。
オブシディアン。つまり、黒曜石か。
関東でも川原などで偶に拾えるとは聞くけれど、神奈川さん家でも取れるとは知らなかった。
「何でまた、それを私に?」
「俺のトコで取れた石だから、俺の一部みてぇなものじゃん。それを東京に持っていて欲しい。できれば普段から」
その言葉に、思わず首を傾げてしまった。それではまるで……。
「ったく、意味わかんねーって顔してんな。」そう言って、神奈川さんはからからと笑い、「つまりは、東京を支えたいってこと」と、続けた。
あまりにも、あまりにも神奈川さんが真剣に言うものだから、勘違いしそうになる。自惚れそうになる。
本当の気持ちを悟られないように押し殺し、至っていつも通りに言葉を発する。今の私にはこれしか出来ない。
「ありがとうございます。神奈川さんにそう言って頂けて嬉しいです。ですが私は、普段から神奈川さんや関東七ヵ国協議会の皆さんに支えられっぱなしですし——」
神奈川さんは、私の手元のタイバーをヒョイと摘み上げると、私のネクタイにそれを通した。
「うん、やっぱ似合うじゃん。流石俺」彼はそう言って、満足そうに笑った。
「お前を支えたいって想いは嘘じゃねーよ。会えない日でも東京を支えたいし、俺を思い出して欲しい」
「……神奈川さんは、いつも勝手ですね」
「そうか?」
「そうです。勝手すぎます」私は一呼吸置き、もう一度小さな声で続ける。
「ですが、それを嫌だとは思っていません」
そう言って、私は小さく笑った。神奈川さんはそんな私を見て「良かった」と安堵したように息を吐く。
「あの、タイバーとカフリンクスありがとうございます。大切にします」
「おう」
神奈川さんは満足そうに笑い、そして私の髪をクシャクシャと撫でた。