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    livilox

    @livilox

    もとなお(槍盾)
    ですぞ×マイルドさんがすき
    ワイルドさんは永遠に性に対しJC(潔癖)でいてほしい一方
    マイルドさんには昼は貞淑・夜は娼婦の概念を押し付けがち

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    livilox

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    無印槍直し狩人×真シル盾♀捏造なぐりがき
    後半消えちゃったので供養
    シル盾♀に剣と弓がうっかり性癖狂わされかけてます
    シル盾さんに姉DVDしてほし~

    お義父さんがバグりましたぞ!!!!!!!!「俺はやってない!」

     盾の勇者冤罪イベントなうですぞ。

     フィーロたんと出会わなければ俺のループは終わらないと言われ、俺はお姉さんの言いつけに従って断腸の思いでお義父さんの断罪シーンに手が出そうになるのを我慢しております。
     前回は失敗してお姉さんに殴り殺されてしまったので、今回は最初の世界に極力近づけるべく赤豚を庇う道化を演じるのは俺ですな。

     相変わらず赤豚の言葉は豚語にしか聞こえません。おぼろげな記憶でお義父さんを断罪中なのですが、はて?
     城に連れてこられたお義父さんは、召喚当時の緑色のパーカー姿ですぞ。
     冤罪イベント発生中はいかにも服を着る間もなく連れてこられましたというような、インナー姿だった覚えがあります。
     昨晩は日本から着てきた服のまま就寝されたということでしょうか。
     俺が余計な行動をしなければ冤罪イベントの内容が変わることはないはずなのですが、どういうことですかな?

    「……元康くん」

     お義父さんの服装が気になって口を閉ざしていると、お義父さんは目を見開いて、それから傷付いたような表情で俯かれてしまいました。
     これは……豚語が聞き取れずに召喚から今までのどこかのタイミングで本筋と違う会話をしてしまったのかもしれませんな。
     お姉さんがいつ殺気立って襲来するかも知れないことを考えると、慎重にならざるを得ません。俺としても何度も失敗してそのたびお義父さんを見捨て続けることになるのは心が痛みます。

     赤豚を庇う体勢のままで無言でお義父さんを観察していると、項垂れたお義父さんが諦めたような寂しげな微笑みを俺に向けてきましたな。

    「本当に……そんなこと、俺には無理なんだよ」

     そしておもむろに着ていたパーカーに手をかけました。
     パーカー、シャツ、ジーンズまで、ひとつずつ脱ぎ捨てられお義父さんの足元に落ちてゆきます。
     俺はどうにか驚愕の声を上げるのをこらえました。お義父さんが服の下に着ていたのは女性用の下着で、あらわになった体つきは完全に女性のそれだったのですぞ。

     お義父さん!?

     お義父さんはお義母さんだったのですかな!?

     下着姿にとどまらず、お義父さんは身に着けていたブラのホックを後ろ手に外しにかかりました。
     お義父さんが下着になった段階で、錬と樹はひえっと声を上げて両手で顔を覆っています。……が、どう見ても指の間から観察を続けていますな。

     そしてブラも足元に落ち、控えめな大きさの乳房が晒されました。クズも兵士たちも俺を含む三勇者も最早二の句が継げぬ状況です。赤豚が焦りを滲ませながらブーブーと派手に鳴いていますが、正直に言えば俺はちょっと続きが気になりますぞ! 黙ってろですぞ!

     お義父さんが身にまとわれていたすべての衣服が取り払われます。

     俺がお義父さんの様子にほうけていると、俺の視線でお義父さんが恥ずかしそうに腕で胸を隠しました。
     それでも下は脱ぎっぱなし。無いに等しい申し訳程度の陰毛では丸見えですぞ。

     これは冤罪どころではありませんな。
     豚を強姦するためのブツがそもそも存在しませんぞ!

    「分かってもらえた? もう服、いい……かな」

     錬と樹がお義父さんの裸を指の間からガン見していますぞ。
     これは……俺はどうすればいいのですかな?

     今すぐにでもお義父さんに駆け寄って上着をかけて差し上げたいところですが、今回ループは失敗判定なのか、それともまだギリギリ持ち直せるのか、混乱で思考が遅れてしまいました。

     お義父さんが何かを期待するように、じっと俺を見ておられます。今回は召喚初日からあからさまに愚かな俺をロールプレイしておりますからな。女の子だと分かれば話を聞いてくれるかもしれないと期待されているのかもしれません。
     違うのです。性別に関わらず、今の俺がお義父さんの話を聞かないなどありえませんぞ。フィーロたんに会うという目的のためにあえて話を聞かないそぶりを見せているのです。

    「元康くん、あの、俺のこと――」

     俺が何も言えずにいると、錬と樹が動きました。錬がお義父さんの肢体を隠すように前に立ち、樹が脱ぎ捨てられたパーカーをお義父さんの肩にかけますぞ。

    「さすがに……これはないだろ。辱めを受けたのは尚文の方じゃないか」
    「すみません、尚文さん。僕はあなたが女性だと気付かず、酷いことを言ってしまいました」
    「ああ、俺もだ。尚文、悪かった」

     続けて樹が拾い上げて手渡した服を、気落ちした様子でお義父さんがのろのろと身に着けなおします。
     錬たちが動いたことで遮られてしまったような気がしますが、お義父さんは今何かを言いかけませんでしたかな?

    「……なんでもない。誤解だと分かってもらえたなら俺、戻るね」




    --------------




     おお勇者様がた、どうかこの世界をお救いください。
     魔法陣の上に勇者が四人、そして目の前にはローブ姿の城の魔法使い。見たことのある光景に、俺は内心、最初にこの世界に呼び出された時よりもずっと歓喜していた。

     彼が言っていたとおりに、時間遡行ができたのだ。

     右側に視線を向ければ、そこにはずっと会いたかった元康くんが居る。

     ……俺の知る世界では元康くんは、俺が不義理をしてしまってから俺を避けるようになって、この距離で話すことすらなくなっていた。

     嫌われてしまったのだろうなとは、思う。

     それでも俺は元康くんの力になりたくて、ガエリオンちゃんという確実な安全策とはまた別に――できれば俺自身も、元康くんの終わりのない旅路に連れて行ってほしかった。嫌われていても、煩わしく思われても。もう俺は俺の知らないどこかの世界で、元康くんに降りかかるかもしれない危険を知らないままで眠っているなんてできなかった。
     遺跡や伝承が伝わっているものから、信憑性のない胡散臭いまじないまで。元康くんが俺を避けているあいだ、俺はいくつも、元康くんのループに随行する手段になりうるものを探し、試し続けていた。

     どれが効いたのかはもう分からない。突然、図書館からの召喚の時のように意識が遠のいて、俺はメルロマルクの召喚の魔法陣の上にいたわけだ。
     元康くんが、俺に嫌気がさして次のループに行ってしまったのかもしれないし、ループ条件が分からないって言ってたからたまたま俺の傍にいないあのタイミングで次へ行ってしまったのかもしれない。
     仲違いをしたままだったことを思うと、本当に、ついてこれてよかった。謝る機会がないままお別れになるのだけは嫌だった。

    「元康く……」

     今までの感覚で話しかけようとして、口を噤む。

     だめだ。元康くんはともかくこの場には錬も樹もいる。ここが最初の召喚の時だとすると、まだお互い名乗ってもいない段階のはずだ。
     それぞれ別々の場所から呼び出されたのに相手の名前を知っていては不審がられるかもしれない。
     ゆっくり話をするなら、自己紹介を終えて、今日――初日の夜あたりが狙い目かな。元康くんに聞いていた話では、シルトヴェルトに行く行かないの話にさえならなければ四人で話ができるタイミングがあるはずだから、その時にでも元康くん一人をこっそり捕まえて話ができれば。


     予想通りに俺たちは来客室に案内され、それぞれベッドに腰かけて皆でステータス画面の所感について話をする流れになった。
     ここまで、元康くんは一度も俺を「お義父さん」と呼んでいない。服装も日本のもので、フィロリアルのにおいもしないものだから完全にただのイケメンだ。非の打ち所がない。
     俺の知る元康くんは、言ってしまえば「残念なイケメン」枠であって、そのちょっと残念なところに困らされることも多かったけれど、そこが愛嬌でもあった。惚れた欲目というやつかもしれない。

     皆がベッドに座ってステータス画面を開き、内容をチェックしはじめる。俺も倣ってベッドに腰を下ろして……ん?

     股間に違和感がある。あるというか、無いというか、え? 無いって何が?
     そういえば背中にも違和感がないでもない。胸元から背中にかけて、ベルトか何かを巻き付けているような。

    「ちょっとお手洗いを借りても?」

     部屋まで案内してくれた人が部屋を出て行こうとしたところを追いかけ、小さく声をかける。この場で確認してもいいのだろうけど、なんとなく嫌な予感がした。
     少々迷惑そうな顔をされたが、この場ではまだ盾の勇者をどうこうするつもりはないのだろう。教えてもらったお手洗いで扉を閉めて、服を脱ぐ。

     シャツの下に俺が着込んでいたのは、女性用の下着だった。つけかたも脱ぎ方もろくに知らないそれ――ブラジャーが見えて、ぎゃあと声を上げなかった自分を褒めたい。下もしっかり女性用のパンツ……ショーツっていうんだったか。
     おそるおそる、ショーツをずり下げてみる。二十年間お世話になり、直前まで過ごしていたシルトヴェルトでギリギリ一回だけ使う機会に恵まれたナニが忽然と姿を消していた。

     これはつまり、あれか。ループの代償に女の子になってしまったということか。

     いやいや、そんな突拍子もない代償なんかあったら何かしらそういうことを示唆する記述が残っていたっていいだろう。元康くんのループに随行する手段を探し回り、あらゆる方法を試しまくっていたことは記憶に新しい。どれが効果を発揮したのかは分からないけれど、そのどれにも「性転換する」とか「姿が変わってしまう」とか「自分を維持できなくなる」みたいな代償はなかった……はずだ。代償に関する情報の一部が失伝していたと考えるべきかもしれない。

     混乱のまま、よろよろと部屋に戻る。
     男じゃなくなってしまったということよりも、女になってしまったということの方がショックが大きい。
     女になっている――つまり、俺は元康くんに、俺だと認識してもらえていないかもしれないのだ。

     名前は男のままで名乗ったし、自分で気付かなかったのだから錬や樹も俺のことは男だと思ってくれているだろう。しかし、元康くんはだめだ。変装していても女の子は一律豚に見え、言葉もすべて豚の鳴き声に聞こえるのだから誤魔化しようがない。
     信頼できる相手とはちゃんと意思疎通ができるようだけれど、そもそも俺は自分のために彼の望まなかった相手と身体を重ね、喧嘩別れをした身である。きっとまだ、許してもらえていない。身体も女になってしまっている自分が彼にどう映っているかを思うと……ちょっと、自信がない。

     すぐにでも元康くんと話をしたい。けど、それどころではなさそうだ。
     機会をうかがっていたこともあって、彼の前で言葉を発したのは、自己紹介の時の名乗りと先ほどお手洗いを借りた際の二回。彼にはちゃんと、俺が岩谷尚文だと認識してもらえているだろうか。

     口にするすべての自分の言葉が、彼の耳に届く前に豚の声に変換されているかもしれない。そう思うと、怖くて何も話せなかった。


    「体調が優れないんですか?」

     お手洗いから戻ってきて以来ずっと俯いている俺に、樹が声をかけてくる。
     心配してくれたんだな。異世界に召喚されたばかりではまだ自分のことでいっぱいいっぱいだろうに、俺は気遣いを見せてくれた樹に、首を振って苦笑するしかなかった。



     翌日、用意された仲間のほとんどは、元康くんたちの方についてしまった。
     俺の知っている世界では、元康くんが早々に盾の勇者を罠にかける云々と騒ぎ始めたこともあって、二日目のことなんか何も分からない。ひょっとしたらこれが、元康くんの言っていた最初の世界に近い展開なのかもしれない。

     最初の世界の話を、元康くんから聞いたことがある。
     このあと俺は仲間になってくれた女の子、マインに騙され、冤罪にかけられるらしい。たしか罪状は強姦だったか。

     断罪イベントは三日目の朝。
     二日目の夜に身ぐるみはがされるそうだから、装備品なんか買うだけ無駄だ。敵対するならレベリングだって無駄になる。……そもそも、前の世界から俺もステータスを引き継いでいるようなのでこのあたりでちまちまと半日レベル上げをしたところで得られるものは少ない。

     レベル上げには行かないのか、装備は買わないのかと声をかけてくるマインをかわして、俺は日の高いうちから宿を取った。

    「勇者様? どうかなさったの?」
    「ごめんね、ちょっと体調が優れなくて。もしマインさえよければ、代わりに買い出しに行ってきてくれないかな」

     貰ったお金のうち、目分量でとりわけてマインに手渡す。銀貨600枚近くは彼女の手に渡ったはずだ。
     来客室の時も、仲間を募った時も、俺はほとんど無言で流れに身を任せているばかりだった。元康くんの反応を見るのが怖かったからだが、偶然それらが体調が悪いというでまかせの根拠になりえたようだ。マインが頷く。

    「いいですよ、このお金で私と勇者様の装備を整えるんですよね。でも勇者様の防具は、さすがに一緒にきてくださらないとサイズの調整ができないんじゃ?」
    「防具は……俺は今日はいいよ。マインの装備だけ見繕っておいで。いま渡したぶんは全部使っていいから」
    「もう勇者様、そんなこと言っていいんですか? ほんとにぜんぶ私の装備に使っちゃいますよ?」
    「俺は守るしかできないから、マインの攻撃力が上がってくれた方がいいと思うし。一人で行かせちゃうお詫びもかねて」

     そもそも元康くんの話では、今夜にはほとんど全て持っていかれる予定なのだ。どうなろうが構わない。

    「じゃあ行ってきますね。夜はご一緒したいので、それまでちゃんと休んで元気になっててくださいね」

     いかにも心配していますという表情で、マインがそんなことを言ってから俺の部屋を出ていった。一緒に食事をとらないと冤罪イベントが成立しないんだろうか。

     改めて、手元に残ったお金を確認する。銀貨193枚だ。少し考えて、外に出ることにする。盾を小さくして胸元に隠し、魔法屋で性転換ができる魔法がないか訊ねてみたけれど収穫は無し。話を聞くだけでは悪いので、ついでにてきとうな本を売ってもらった。どのみち冤罪イベントで回収されるだろうこれは、今夜の暇つぶし用だ。

     残ったうち銀貨60枚ほどを、通常サイズに戻した盾に隠して再び宿のベッドに入る。マインが戻ってくるまでの仮眠は、結局あまり寝付けなかった。



     戻ってきたマインは宣言通り全額しっかり使い果たし、俺の手持ちの資金で夕食をとった。お酒をやたら勧めてきたのは、冤罪の流れに持っていきやすくするためなのだろう。勧めは固辞しつつ、マインの新しい装備を褒めたりして食事を終える。部屋は当然別々だ。

     女になっている現状、「身ぐるみはがされる」で服もまるごと持っていかれると少々困る。
     一応パーカーもそのまま着込んだ状態で、ベッドの中に入るのではなくベッドに座るだけにする。窓際に置いたランプのあかりで夜更けまで本を読み、部屋の外に第三者の気配を察知してから横になった。

     残った資金は分かりやすくサイドテーブルに置いたので、枕荒らし実行犯さんも迷うことなく資金を回収できたようだ。ついでに服まで剥ぎ取ろうとしてきたが、押さえつけるのは数少ない盾の得意分野である。本当に眠っているならともかく、目を瞑っているだけの俺が身体を丸めてしまえばそれ以上枕荒らし実行犯さんも手は出せない。

     でも、警戒して損したな。枕荒らしに入るのはてっきり彼女ではなく、彼女の配下かなにか――男性だとばかり思っていたが、香水のにおいからしてマイン自身だったようだ。
     今の俺は、貧相ではあれど女の身体だ。服を取り上げたついでとばかりに無茶をされる可能性を考慮してのこの対策だったが、マイン自身がやってくるなら無駄なことだったかもしれない。

     服を剥ぎ取るのに苦戦していたマインも、俺がわざとらしく身じろぎをしてみせるとすぐさまベッドから飛びのいた。この場で俺に起きられたら困るんだろうなあ。
     ぱたぱたとドアの方へ退散し、扉が閉められた音がする。あとは、朝になったら城に呼び出されるかなにかで断罪が始まる感じかな。




     三日目の朝。城に呼び出されるというか、起き抜けすぐに思いっきり犯罪者の扱いで兵士に連行された。
     マインの主張としては、昨晩一緒に食事をしてお酒を飲んだ俺が酔ってマインに無理強いをしたという内容になっている。なるほど、それで一緒に食事をとりたがったわけだ。

     彼女が泣きながら縋っている相手は、元康くんだ。会話がマインさんと若干噛み合ってない気もするけど、やっぱり豚語に聞こえているのだろうか。
     だとしたら、あれだけ嫌っていた「豚に見える女性」を庇うような言動をしているのは何か目的がある?
     いくら俺が嫌われていたとしたって、あの元康くんが話の通じない相手を本当に信用するということはないだろう。元康くん側に記憶がないならその限りでもないかもしれないけれど、あれは間違いなく、記憶を持っている元康くんだ。装備されている槍が、レベル1のそれではなく見慣れた龍刻の長針になっている。

    「俺はやってない!」

     本来の自分が冤罪をかけられたら話すであろう弁明をしながら、元康くんの発言を待つ。さすがにこの状況で無言を貫くわけにはいかない。
     俺の言葉は、彼にどう聞こえているだろう。

     元康くんは俺を見て――あからさまに戸惑うような表情を見せた。

    「……元康くん」

     そっか、やっぱり駄目か。
     冤罪を信じる演技をしているにしたって、この反応は場違いだ。演技をするなら戸惑いではなく怒りの表情を見せるべきだし、演技をし続ける気がないなら喧嘩別れをした俺に多少なり気まずそうな顔のひとつもするはずだ。

     俺も豚に見えてるのかな。
     元康くんの「お義父さん」が来るべき場所に、受けるべき断罪の場に、俺の服を着た豚が来てるんじゃ戸惑うのも当然だ。

    「本当に……そんなこと、俺には無理なんだよ」

     きっと今の俺は、何を言っても彼に話を聞いてもらえることはないのだろう。
     疑いを晴らすためであるかのような口ぶりで、少しずつ服を脱いでいく。

     これで元康くんが、理解してくれるといいけど。
     男まで豚に見えるようになったとか、俺を偽って別の女性が盾の勇者の立場についているとかじゃなくて――俺自身がこの周回で、女の子になってしまったのだということに。

     元康くんが俺の身体を凝視している。言葉を理解してもらえない以上、彼と二人きりになれる機会はもうずっとないのだろうと察したからこそ、この場で服を脱いだのだけれど。
     やだな、自分の本来の身体じゃなくても少し、恥ずかしい。元康くんにはいま、俺はどういうふうに見えてるんだろう。
     顔だけ豚人間? それとも二足歩行の豚? 後者だと、事情の理解すらしてもらえないかもしれない。

    「分かってもらえた? もう服、いい……かな」




    --------------




     服を着てすぐ、お義父さんは広間から駆け出していかれました。

     ようやく考えがまとまりましたぞ。失敗なのか挽回可能なのかはわかりませんが、もしこの周回が失敗でお姉さんが殺しに来るのだとしても、お義父さんにあんな顔をさせておいてフォローなしはありえませんぞ!

     追いかけようとした俺は、しかし錬と樹に待ったをかけられました。

    「元康、おまえしばらく尚文に近寄らないほうがいいぞ。おまえがあの女と一緒になって騒いだせいで尚文は脱ぐはめになったんだ」
    「そうですよ。あれは尚文さん、どう見てもトラウマになってます」

     尚文さん、泣いてましたよ。樹がそう言って俺を睨みましたな。この時点の低レベルな樹など全く怖くはありませんが、赤豚の涙を信じる道化を演じたばかりでその事実は俺も心が痛みますぞ。
     お義父さんを庇いに出たことで俺よりもお義父さんの近くに立っていた樹には、お義父さんの涙が見えたということでしょう。

    「あんな状態のおと……尚文を放っておけっていうのか!?」

    「尚文さんは僕が追いかけてフォローしますので、元康さんは来なくて結構ですよ」
    「俺も行くぞ」

     おや。そういうことですかな。ピンときましたぞ。
     錬に樹、おまえらどっちも裸のお義父さんの恥じらう姿に魅了されてますな!

    「僕たち全員、尚文さんの髪型と名前でてっきり男性だと思ってしまいましたから。初日の夜だって本当は男三人に囲まれて同じ部屋で夜を過ごすのが怖かったのかもしれません。不安そうな顔をされていましたし」
    「ああ。話に一切加わらなかったことを思えば、ゲーム自体に疎いのかもしれない。俺たちでフォローできるところがないか訊くつもりだ」
    「皆それぞれ別の日本から来たわけですし、名前の付け方の女性的・男性的という感覚も逆転しているのかもしれませんよ」

     と、錬と樹が俺を置いてお義父さんを追いかけて行きましたな。
     赤豚がまだブーブーと喚いておりますが、いい加減にしろですぞ。お義父さんが自力で冤罪回避されてしまった以上、最初の世界をなぞってフィーロたんに出会うという正規の手段は潰えております。つまり赤豚、おまえはこのループではもう用済みですな!

     豚語で何を言っているかさっぱりですが、俺はちゃんと赤ぶ……マインの言い分の方を信じていますぞ~、つらい思いをしたマインは今日はもう休んだ方がよいですぞ~、などと言いながら俺自ら赤豚を部屋まで送り届けました。最早こうなっては頑張って維持していた口調も演技も投げやりですな。
     そしてそのままソウルイータースピアで赤豚の魂を直接爆散してやりましたぞ。

     廃人になった赤豚を部屋のベッドに速やかにシュートして、俺はお義父さんを探しに城を出ました。
     思えば召喚時、お義父さんが俺を見て顔を綻ばせて、小さく何かを言いかけていたような気がしますな。
     隣に立つお義父さんは、確かに記憶よりちょっと小さかったような気がします。そしてこちらをずっとちらちら見ていらっしゃったような。
     気のせいだとばかり思っておりましたが、あの時に俺がもっと注意深くお義父さんを見ていれば、お義父さんが女性だと気付けたかもしれません。

     お義父さんのにおいを追って城下を駆け回りますぞ。わりとあっさり見つかりましたが、人気の少ない路地裏でお義父さんは錬と樹に挟まれる形で何か話をされているようですな。

    「元康くんは、俺のこと、何か言ってた……? その、たとえば俺の話が理解できなかったとか……俺の声が届いてないみたいな……」
    「元康さんが聞く耳を持たなかったのは確かですが……」
    「俺の、見た目のこととかは? 汚らわしい豚とか言ってなかった?」
    「さすがに豚呼ばわりはしてなかったぞ。俺もその……尚文は、きれいだと、思う」

     あはは、ありがとう。お義父さんがすっかり元気をなくした様子で苦笑しました。

    「……元康くんと、話がしたかったなあ」

     座り込んだお義父さんが、ぎゅっと膝を抱えています。
     ……そういえば、愚かな俺を演じて冤罪イベントを発生させたというのに、何故お義父さんは俺を「元康くん」と呼び続けてくださっているのですかな? そもそも召喚時の好感度が低い段階では毎回「北村くん」とか「元康」と呼び捨てだったような気もしますぞ。

    「おと……尚文!」

     居ても立っても居られず、俺は三人の話の中に飛び込みましたぞ。

    「元康……」
    「いま尚文さんと接触するのは避けた方が良いとあれだけ言ったのに、僕たちの話まで聞く気が無いとは」

     錬と樹が俺を睨みつけ、お義父さんをかばうように立ち上がりかけますな。
     お義父さんのナイト気取りですかな? お義父さんに忠義を捧げる騎士は俺ですぞ! そのポジションはおまえたちには譲りませんぞ!

    「元康くん……」
    「はいですぞ!」

    「俺のこと、わかるの?」
    「わかる……とは? 俺はお義父さんに忠誠を誓う、愛の狩人ですぞ!」

     俺の言葉に、お義父さんが呆然として――それから、泣き笑いのような顔をされました。
     うっかり愚かな俺ムーヴのためのメッキがボロボロにはがれてしまいましたな。錬や樹が何言ってんだこいつ、といった目を俺に向けてきますが、お義父さんが安心した様子で笑ってくださっているのでよしとしましょう。
     俺が実は味方だったと知って安堵なさったのかもしれません。錬と樹はお義父さんのラッキースケベで陥落しただけですが、冤罪云々の話でいえば一応は味方と言えます。つまりこの場にはお義父さんを傷つける者はいないわけですな!

    「お義父さんって、元康くん」
    「ハッ! お義父さんではなくお義母さんですかな!? お義父さんがお義母さんとは……俺はどうすればいいのですかな!?」
    「いいよ、元康くんの好きなように呼んで。俺は、元康くんが俺の話を聞いてくれるだけで……嬉しいから」

     この反応は、シルトヴェルトに一緒に行ったお義父さんを思い出しますな。
     ふーむ、女性だからでしょうか?

    「よかった、俺はちゃんと元康くんに、見てもらえてたんだ……」
    「お義父さん……?」
    「その、ね、俺やっぱり諦められなくて、元康くんのそばにいたくて」

     錬と樹は蚊帳の外で放置ですぞ。
     というかいつまで居るつもりですかな?

    「他のひとを選んだ俺を、君は恨んでいるだろうけど俺は」

    「お義父さん? なんの話ですかな……?」

     シルトヴェルトのお義父さんと再会できたかのような感覚になりますが、あの世界は俺の力不足で樹を死なせてしまい、なかったことになってしまった世界ですぞ。

     お義父さんが目を瞬かせ、しばし考えこむようなしぐさを見せます。

    「元康くん、あの、このあと少し話、できる?」
    「もちろんですぞ!」
    「よかった……錬、樹、そばについていてくれてありがとう。あんなことになっちゃったから、俺を心配して追いかけてきてくれたんだよね」

     お義父さんから声をかけられて、こちらの様子を伺っていた錬と樹が居住まいを正しましたぞ。

    「今は手持ちもあんまりないし、お礼もろくにできないけど……俺にできることがあったら、なんでも言ってね」

    「……尚文は、これからどうするんだ?」

     お義父さんが錬と樹に褒美を考えていらっしゃるようですが、錬は礼より今後の話がしたさそうですな。

    「あんな冤罪で女性を辱めるような国ですよ。僕としては、尚文さんの活動拠点は別の国がいいと思います。現代日本の女性がこの中世~近代ヨーロッパのような文明レベルで生きていくとなると、苦労するんじゃないですか? ゲームの話ですけど、一か所だけ文明レベルが高い国がありましたよね。この世界にもあるはずでは?」
    「フォーブレイですな。お義父さんがお望みなら連れていくのもやぶさかではないのですが……」

     フォーブレイのポータルはもちろんこの元康、既に持っておりますぞ。
     しかし……フォーブレイ方面に行って近隣に滞在中の女王を確保し冤罪回避がループの必勝パターンではありますが、もう必勝ルートに乗れるタイミングを逸してしまっているでしょうな。今フォーブレイに行ったところでタクトが煩いだけですぞ。

    「国外に行くつもりなら、俺も尚文に同行しよう」
    「僕も行きますよ。この状況で尚文さんを放ってはおけません」
    「え? でも二人とも、仲間は……」
    「……尚文の肌を舐めるように見て血走った眼をしていた連中だぞ」
    「正直、このまま仲間でいたらそのうち強姦の罪がこっちに飛んできそうです。マインさんをではなく、僕たちの仲間の誰かが尚文さんを実際に襲うという方向で」

     お義父さんの裸をワックワクで見ていた件については錬も樹も同罪ですぞ。
     かくいう俺もありがたく拝ませていただきましたがな! 豚のストリップは元の世界でもたまに目にするシチュエーションではありましたが、それが豚ではなくお義父さんになるというだけでここまで目が離せない雰囲気になるとは思いませんでしたな。

     二人の話を聞いて、お義父さんが俺の方を見上げてきます。何かコメントを求められているようですな。

    「フォーブレイには豚……女を貪るのが好きな王と、女を掃いて捨てられるほど囲い込んでハーレムにしている男が幅をきかせていますな」
    「すみません尚文さん、フォーブレイは避けたほうがよさそうですね」

     樹が秒で意見を翻しましたな。手のひらドリルクルンクルンですぞ。
     お義父さんが座り込んだ自分の靴先を見つめながら、ぼそぼそと話されます。

    「俺は……元康くんの邪魔にならなければ、元康くんと一緒にいたい、かな」

    「ふーむ……ではお義父さん、いったん落ち着ける場所で今後について相談しましょう。パーティー申請をしますので、許可していただけますかな?」
    「あ、ポータル? わかった」
    「おい元康。尚文をどこに連れて行く気だ」
    「今回の騒ぎは誰のせいだと思ってるんですか。尚文さんをあなたと二人にはさせられません。僕たちも行きますからね」

     誰のせいかといえば、もちろん赤豚のせいですな。愚問ですぞ。

     お義父さんの素肌を見てしまった罪悪感か、それともああいうイベントが起きたからお義父さんを自分のヒロインだと思い込んでいるのかわかりませんが、錬も樹も面倒ですな。どこかに捨ててきますかな?

     お義父さんの発言に少々引っ掛かるところがあったような気がしますが、錬と樹が茶々を入れたせいで霧散してしまいましたぞ。
     お義父さんが俺の服の裾を掴んでいらっしゃいます。錬と樹を無視してポータルで飛ぶのはやめろということでしょうか。
     仕方なく、俺は錬と樹にも申請を出して四人全員でメルロマルクを一時脱出しました。
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