Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    livilox

    @livilox

    もとなお(槍盾)
    ですぞ×マイルドさんがすき
    ワイルドさんは永遠に性に対しJC(潔癖)でいてほしい一方
    マイルドさんには昼は貞淑・夜は娼婦の概念を押し付けがち

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 3

    livilox

    ☆quiet follow

    狩人の帰る日を待つ現地妻シルト盾さん~初期槍を添えて~

    君に続くひと匙 尚文は、同じお茶をちまちまと毎日少しずつ消費している。
     必ず一日一杯、茶葉はスプーンひとすくい。おかわりを頼む時は決まって別の茶葉を頼んでくる。同じのにしようか、と訊いても「分からなくなっちゃうから」と断られる。何が分からないんだろう。茶葉の定期購入でもしてるんだろうか。城の連中はなんとなく察してるくさいのに、どうやっても俺には教えてもらえない。
     俺も飲みたい、というと、同じものを用意してるからそっちを封開けて使って、と言われる。尚文の日課のお茶は、尚文専用だ。
    「淹れてきたぞー」
    「ありがと。あとどれくらい残ってた?」
    「一日一杯ペースなら一週間分くらいじゃね?」
    「そっか」
     仕事机に向かっていた尚文が、カップを受け取って礼を言う。前は侍女にやってもらっていたけど、日課のこれだけは最近、俺が率先して尚文に淹れてやるようにしている。このお茶を飲む時、口をつける瞬間の尚文の顔が、ぶっちゃけ好みだからだ。
     茶葉があと少しになりだすと、尚文はよく残量を気にしはじめる。終盤なんかほとんど毎日、似たようなことを訊いてくる。
     それで俺が答えてやると、嬉しそうに笑うのだ。なんというか、週末のデートの約束を待ち遠しく思ってる女の子みたいな顔で。
     俺は考えた。茶葉の定期購入をしていると仮定して、尚文はその茶葉を届けに来る行商人に恋をしているのではないか。唯一会えるそのタイミングを心待ちにしているのではないかと。
     わりと、良い線行ってると思う。もっと言えば、それはきっと道ならぬ恋の類なんだろう。伝えることすらできないような。
     尚文にはしっかり嫁さんがいる。ガエリオンちゃんというドラゴンの女の子だ。すごい美人で、めちゃくちゃ強くて、仕事のできる女というやつ。お城暮らしだから家事ができるかどうかは重要じゃないし、ほぼパーフェクト美少女だと思う。
     日本人の感覚で言えば、結婚しているなら他の誰かに恋をするのはタブーだ。でもここは異世界で、さらに尚文はこの国の権力者。ハーレムはむしろ周囲から推奨される側の人間といえる。
     ならばおそらく、道ならぬ恋っていうのは尚文側の事情じゃない。たぶんだけど、相手は同性の既婚者、仮想敵国でけっこうな肩書を持っていながら、道楽で行商をやってるようなやつ。そして相手は普通に異性愛者で、尚文の片思いと見た。
     まあ全部妄想なんだけど。
    「君は再来週に何か予定を入れていたりする?」
    「再来週?」
    「たとえば、女の子とデートの約束してたり」
    「デートはないなー。あ、でも取り寄せ頼んでたものがそのくらいに来るかも」
     デートの予定は入れない。そりゃあ偶然外で会った女の子と意気投合してお茶しに行ったりはあるけど、できるだけ約束は避けるようにしている。
     だってそれを尚文に知られると、尚文はすこし寂しそうにするから。
    「覚えておくね」
    「俺が取りに行くから別に尚文は……」
    「そのタイミングで君が取りに行けるとは限らないだろ?」
    「あー、そういうことも、あるか?」
     尚文はこの国の実質トップに君臨する盾の勇者だけど、かくいう俺も槍の勇者だ。この国では扱いが雑めでも、他国ではそうじゃない。状況によってはお呼ばれすることもないでもない。
     じゃあ来週じゃなくて再来週に限った話をしてるのはなんでだ。
    「あ、でも中身はないしょだからな」
    「商品名分からないと受け取れないよ」
    「城の誰かに任せるとかでもいいからさ、尚文にはないしょ」
    「ああ……だったらラーサさんにお願いしておこうかな」
     ラーサちゃんって、パンダに変身できる美女だよな。あれで亜人姿より獣人姿で接してくれた方が楽しそうなとこ見るに、尚文ほんとパンダ好きだな。
    「今日は君の好きなもの食べようか」
    「お、やった! じゃあ俺、尚文の手料理がいい!」
    「了解。ヴァルナールさんに話してくるね。何食べたい?」
    「芋系で!」
     例のお茶をのみほした尚文が、立ち上がってついでに書類の山を抱えようとする。すかさず俺が奪い取った。尚文はまた、ありがとうと笑う。
     お城暮らしだとあんまり技能が目立たないけど、尚文の家事スペックはめちゃくちゃ高い。なぜか城中に山ほどいるフィロリアルの子供たちを世話している様子はまるで聖母だし、何より城で出される料理が霞むレベルで飯が美味い。控えめで、優しくて、よく気がきいて、出なきゃいけないところではちゃんと前に出て、大事な場面では一歩引いて男を立ててくれるタイプだ。
     先ほどガエリオンちゃんをパーフェクト美少女と表現したが、尚文はベクトルの違うハイスペだ。年収云千万キャリアウーマンと男の理想を詰め込んだ奥さんの違いというか。前者がガエリオンちゃん、後者が尚文である。正直に言えば、俺の好みでもある。ここまで好みど真ん中の貞淑な妻スペックを披露されると、夜の方はどうなのかまでちょっと気になりだすのは仕方ないといえるだろう。仕方ないよな。
     そう、俺が女の子とのデートを極力減らしているのも、尚文に内緒でプレゼントを用意したりするのも、俺が今尚文を絶賛攻略中だからだ。
     ぜんぜん先が見えないし、いいとこまで行くと視界に現れるいつもの選択肢もなかなか出てくれない。たぶんそれはいま例の茶葉の男に尚文が恋をしているからで、難易度はかなり高そうだ。
     俺にしときなよ、って台詞は、使いどころを誤るとそれまで頑張って立ててきたフラグを軒並みへし折りかねない。まずは相手の男のことを知って、尚文の置かれた状況を理解して、口説き落とすならそれからだ。長期戦を覚悟している。
     いいんだよ、長期戦でも望むところだ。他にやらなきゃいけないこともないしな。
     元の世界で死んで、気付いたらシルトヴェルトのこの城にいて。異世界に召喚された喜びもつかの間、勇者としてのだいたいのイベントは既に踏破済み、ボスも一通り倒したあとで、レベリングや強化も世界トップレベルのところまでできていると言われてしまうともうやることがない。尚文の言うとおり、ステータス画面はゲームでおなじみのスキルからゲームになかった要素までこれでもかとずらっと並んでいた。ゲームにない要素までを前にして例えるにはちょっと語弊があるかもしれないけど、最早やり込み勢の様相だった。
     だいたい全部終わってるはずだけどこれとこれには気をつけてね、みたいな尚文の説明を受けて、初日は美女揃いの城の女の子たちや異世界召喚の興奮にワクワクしていたと思う。明日から何しよう、女の子を誘って冒険に行くもよし、何故か終盤ステータスなレベルで無双ごっこしてもよし……と、勇者としての役目が終わっていてもまだ楽しめる要素を考えながら浮かれていた。――その日の夜、テラスでひとり泣いていた尚文を見るまでは。
     なんでも、それまで尚文にずっと付き従っていた男がある日突然何も言わずにいなくなってしまったそうで、後日その事情を城で訊いて回ろうとするとガエリオンちゃん含め、周囲も皆同情的な感じだった。
     ただ、その夜は事情を知らないままどうしても放っておけなくて、泣いていた尚文の背中をつい抱きしめてしまった。それからなし崩し的にベッドに入ったんだけど、安心した様子で俺の胸に頬を寄せて寝るもんだからもちろん手は出せず、ただの添い寝だ。
     異世界召喚で最初からチートレベルのステータスなのはまあありがちな話なので、説明されたからにはそこは疑わない。ただ、勇者として必要に迫られて召喚されたはずなのにやるべきボス戦やイベントがひととおり終わったあとというのが引っ掛かった。俺もそこまで鈍感じゃない。
     初日に与えられた情報と、泣いていた尚文のことを考えて……俺は尚文と一緒にこの世界に召喚されて、二人で冒険してボスを倒し、ゲーム的な表現でいえばあらかたのシナリオをクリアしたけど、ボスを倒した時の怪我か何かで記憶を失い今に至るのではないか、という仮説を立てた。
     そして尚文は、記憶を失う前の俺に好意を寄せてくれていたんじゃないか、とも。
     尚文を俺のヒロインとして意識しだしたのはその仮説を立ててからだ。周囲の俺への反応や対応からしても、これでほぼ確定だろうと見ていた。
     元の世界での話だけどこういうシチュエーションになったこともなくはないし、あの時はたしか全部思い出したうえで記憶喪失中の感情も同居してたから、思い出した途端その女の子を前にすごいドキドキした覚えがある。
     こういう展開の時は、記憶をなくしていても根っこは変わらないっていうアピールが重要なのだ。おそらく絶対に変わらないであろう要素、まず女の子に優しくした。ちょっと他の女の子に目移りしちゃうけどちゃんとヒロインのもとに帰ってくるというやつだ。それから自分で立てた仮説に基づいて、尚文を――ほんとは俺のヒロインになるなら危ないことから遠ざけて大事に隠しておきたい気がしたけど――戦友や相棒みたいなポジションに仮置きして接するようにした。
     反応に困るといった感じで、苦笑いされてしまった。違うのかよ。これじゃないのかよ!
     そうこうしているあいだに時間が経って、いつのまにか尚文は一袋の茶葉を消費するようになった。
     最初の茶葉。開封の時の泣き笑いのような可愛い顔は今も覚えている。遠く離れていた恋人が会いにきてくれた、みたいな。
     俺はそこでやっと、自分の仮説がそもそも間違っていたことに気付いたわけだ。尚文を置いていって泣かせた男と俺は別人で、どっちかというと茶葉の男とそいつが同一人物。俺は確かに記憶喪失なのかもしれないけど、尚文の意中の相手ではない。
     これはちょっと、経験したことのない展開だ。誤った仮説に基づいてしばらく行動してしまっていたので、今から巻き返しがどこまで可能なのかも不明。ハードモード確定ってわけ。
     諦めないけどな。俺の勘違いから始まったとしても、俺はもう、尚文をヒロインだと――ヒロインにしたいと、思っている。
     妻帯者だけど。
     そういや俺、尚文にまともに名前呼ばれたことあったかな。
    「あのさ、尚文」
    「なに? ■■くん」
     あれ普通に呼ばれてる。苗字とかニックネームとかじゃなく、ちゃんと名前で。
     ……おかしいな、名前で呼ばれてるはずなのに、そんな感じがしない。気のせいか。
    「いや……あー、えっと、これ誰に渡せばいいんだ?」
    「ヴァルナールさんに渡せば振り分けてもらえるよ。だから運ぶだけで大丈夫。持ってくれてありがとう」
     隣を手ぶらで歩くだけの尚文は、やっぱり俺も持つよ、と言いたそうにしている。渡さないぞ。
     失敗に気付いてから尚文の様子を観察してきた感じ、なんとなく尚文は、俺からお姫様みたいに扱われると反応が良い。戦友扱いよりがっつりヒロイン扱いの方が正解に近い気がしてきているのだ。たぶん、茶葉の男からそういうふうに扱われているんだろう。キザというかなんというか……まあ、俺の方が一緒にいる時間は長いんだから、こっちにアドバンテージがあるはずだ。
     なあ、名前も知らない恋敵さんよ。長いあいだ留守にして尚文に寂しい思いをさせながら、ほんのちょっとしか会いにこないおまえが悪いんだ。指をくわえて見てればいい。おまえがいない間に、俺が尚文を攻略するのを。


    ----------


     元康くんは、タクトの起こした悲劇を変えるため――そして俺とガエリオンちゃんが一緒になるのを阻止するため、この世界の分岐先まで足を運んできたらしい。
     分岐先を限りなく元康くんの理想に近い状態にして、それからいくつもの世界を巡って、今度はここ。タクトの起こした悲劇を止められなかった、俺がガエリオンちゃんと一緒になった世界に再び戻ってきた。
     なんか「俺のために犠牲になってしまったお義父さんをせめてお慰めする、それもまた俺の忠義ですぞ」とかなんとか言ってて、ガエリオンちゃんが完全に悪役前提になっている相変わらずの言動につい笑ってしまったのだけど。
     願いは、と言われても、俺の願うことなんてたったひとつだ。
    「お義父さん? それでは今までと違いがありませんぞ! 俺が俺であるかぎり当然のことなのですぞ」
     そばにいたい、そばにいてほしい、っていう願いは、大切な人に向ける気持ちとしてはありふれたもので。元康くんの行動理念からして俺から離れるという選択肢はないのだろうから、願いになってないってことなんだろう。
     そこは疑わないよ。俺は元康くんを信じてる。
     きっと俺が望んでいる限り、そばにいてくれるんだと思う。
     俺が歳を重ねて、幸せな最後を迎えるそのときまで、元康くんは俺に尽くしてくれる。
     でも、俺を看取った元康くんはきっと、それから別の世界に旅立ってしまうんだと思う。
    「お義父さん……それは」
     俺が希望を言い直すと、元康くんの表情が曇った。
     生まれ変わってもそばにいてほしい、っていうのは、たぶん、元康くんにとって叶えられないわがままだったんだよね。
     すごく、困った顔をしているから。
     元康くんの力によって生み出されたこの世界に生きる俺がまともに転生するのかどうか、転生する場合はどの世界に生まれ落ちるのか、よくわからない。そのまま消えてしまうのかもしれないし、最初の世界の俺に統合される形で、最初の世界の俺が転生する時に一緒くたになるのかもしれない。けれど、俺が望んだのはそういうことじゃなくて。

     ……俺はただ、恋人と交わす睦言のように、その場かぎりの限りある永遠を約束してほしかっただけで――なんて、言い訳だ。偽りの誓いなんか無理やり頼んだって、彼を苦しめるだけだろう。困らせたいわけじゃない。

    「――わかりました。お義父さんが、それをお望みなら」

     そう言って、元康くんは笑っていなくなってしまった。せっかく戻ってきてくれたのに、滞在期間は一日にも満たなかった。俺がわがままを言ったせいだろう。
     いつもならここで時間が止まって、次にまた元康くんが会いに来てくれる瞬間まで眠り続けることになるのだけど、今回はそうではなかった。
     元康くんの人格が、おそらくは最初の世界の召喚時に近い状態でリセットされていたのだ。
     レベルやステータスなどは愛の狩人を名乗っていた元康くんそのまま。言動だけがまるで違う彼に状況を教えて、あわただしい一日を終えたその夜につい、泣きたくなった。この状況はおそらくは、俺が望んだ永遠を彼が叶えようとしている結果なのだろう。その代償に何を失うのか、彼が何を負うことになるのかも俺には見当もつかないし、元康くんも今となっては教えてはくれない。
     昔の元康くんは女の子が好きだったと言っていたし、これからは女の子を城に連れ込んできたりするのかなあとか思っていたけど、以前元康くんが苦々しく語っていたほどの爛れっぷりはなかった。せいぜい街で気になった子をちょっとお茶に誘うくらいだ。そのためだけにポータルを使うのはある意味すごいけど、元康くんのまわりにハーレムが出来上がってるなんてこともなく、どこかに出かけていても必ず夜には俺の隣に帰ってきてくれる。
     俺があの夜、泣いてしまったからかもしれない。気を遣わせてるのかな。だとしたら少し申し訳ない気持ちになってくる。
     愛の狩人を名乗らない方の元康くんは、俺の最初の説明の仕方が良くなかったのかちょっとゲームの延長っぽい考え方をしているところがあったけど、出会い頭に敵を爆殺とかしないだけ周囲からは扱いやすく思われているようだ。
     何かを頼まれたら必ず俺かガエリオンちゃんにダブルチェックさせてね、この国のツートップどっちにも秘密で槍の勇者に頼みごとをするなんて明らかに黒だからね、と言い聞かせているから今のところ問題は起きていないけれど、危なっかしいのでもう少し安全策を用意しておきたい気もする。
     そうして、ですぞって言わない元康くんに少しずつ慣れはじめたころ……ある日ひょっこり、いつもの元康くんが帰ってきた。

     ――ただいま戻りましたお義父さん、あなたの愛の狩人ですぞ!

     攻撃力ゼロの拳を振り上げるところだった。
     言いたいことをどうにか飲み込んで、何があったのか、今度こそ説明してもらった。他の世界の俺をひとり救ってきたらしい。ついでに何十年とかけてその世界も平和にして。
     こっちでは一カ月くらいしか時間が経過していないけど、きっと戻る時間軸のタイムラグ的なものだろう。
     俺の願いを叶えるためなのかと聞いても、それには笑顔を返されるだけで、なにも答えてもらえなかった。
     かわりに一抱えの茶葉を渡されて、一週間ほどお義父さんをチャージしたらまた行ってきますぞ、とその笑顔のまま言われる。

     この茶葉がなくなるころには、またあなたのお傍に戻ります。

     ガエリオンちゃんと出会う前、まだ俺が、元康くんに守られるだけの立場だったころ。眠れずにいた俺に元康くんが淹れてくれたお茶と、同じ香りがした。


    ----------



    シルト盾さんと(一方的に)喧嘩してギクシャクしてた時期をやりなおすべく、なのちゃんとの関係成立直後(933周辺)のセーブポイントに戻ってきて一生をかけて尽くしなおすつもりだったけどシルト盾さんが希望したのはその世界での残りの余生を一緒に過ごしたい的な話ではなかった(と狩人は勝手に受け取った)ので
    「生まれ変わっても」を約束するために定期的にシルト世界に戻りながら精力的に回し車をまわしに出かける狩人の話。槍のセーブポイントの調整の関係上若干の誤差が出るためBufferを取っており、Buffer±誤差期間だけ狩人人格を失って初期槍が顔を出す。狩人人格で過ごしているあいだの初期槍人格は認知を歪める形でちゃんと自分のまま数日過ごした記憶が補完されている。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏😭👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works