Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    tennin5sui

    @tennin5sui

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🎂 🍣 🍋 🍊
    POIPOI 43

    tennin5sui

    ☆quiet follow

    絵描きさんのイラストから小説書かせていただいたものです。
    そがさんの( https://twitter.com/1hesoka95/status/1489887991182946304?s=20 )をお借りしました。
    ありがとうございました🙇‍♀️

    眼下に光る空を眺める 結婚式場が教会のような体裁を保っていることの意味とは一体なんなのだろう、という皮肉めいた疑問が浮かぶのも、手の中にあるボツになった演出用データのせいだ。
     打ち合わせ室を逃げるように飛び出してから、はや4時間。明日の式の準備をしてから帰ります、という私の真摯な言葉を皆信用して、徐々に会場内が暗くなっていく。
     プロジェクションマッピングを使って結婚式の演出をする、という花嫁からの注文は魅力的で、きっと素敵な思い出になりますよ、と同意する言葉は本心だった。小説のワンシーンをモチーフにしたら魅力的でいいんじゃないだろうか、と思いついて、俄然張り切った。コンセプトの企画も一から発案し、自身で少しずつクオリティを上げて、今日の打ち合わせに間に合わせたのだ。
     いや、むしろ間に合わせすぎたとも言える。当日まで十全に間があるうちにある程度の形にしてしまったのだから。結果、映像では味気がないので本物の花を使って華やかにしたい、という方向転換を受けて、手の中にあるプロモーションを再生するのを、すんでのところで堪えた。ぜひご覧になりませんか、というセリフが一蹴されるのは目に見えていた。
     主役がそう言うのだから、ボツになること自体はやむを得ないと理解できる。代替案がすぐに準備できるものであることを考えても、それほどデメリットのない結果ではある。ただ、作ってしまった映像が宙に浮いてしまうのが寂しい。完成品ではないとはいえ、一連の動画としての体裁を整えてしまったものが、一生日の目を見ないのだ、と思うと、虚しさが胸を支配する。
     だから、私がこうして人気のなくなった式場の外壁に機材を準備して映像を再生したのも、ちょっとした復讐心だ。通行人のバタバタと走る足音を背中に受けながら、スイッチを入れる。
     式場の壁の窪みから一斉に飛び立った白鳥は口々に輝く砂を咥えている。足にはリボンが結えてあり、壁がめくれるようにして巻き上がり、銀河のような色とりどりの光が漏れ出てくる。私は機材の隣に両足を投げ出し、通常であれば厳禁なのだが、タバコに火を点けた。なぜならこれは、ちょっとした復讐と供養なのだから。
     気づけば、ポカンと口を開けたスーツ姿の数人の男が呆然と壁を眺めている。夜空が、呟くわずかな観客に満足しながら、口から煙を吐き出した。


     逃走と追跡は仕事につきものだが、今日のところは逃走がメインだ。
    「俺たちって逃げてるのと追っかけてるのと、どっちが多いんだろうな」
    「走りながら無駄口叩けるくらい慣れてるんなら、逃げる方かもな」
    追手は二人ほど追跡に慣れているわけではないらしいが、一定の距離を保ちつつも諦めようとはしない。二人は当然、真っ直ぐ逃げているわけではなく、行き止まりにならない程度の路地だとかを選んで走っているのだが、相手を撒くこれといった決め手がないためにダラダラと追いかけっこが続いていた。
    「いつまで追いかけてくんだよ!」
    と檸檬が背後に向かって怒鳴る。
    「空が落ちてきても、追いかけてくるつもりかよ」
    と、投げやりなセリフを投げつけて前を向き直るので、蜜柑は、隣の男は果たして逃げ切りたいのか、居場所を知らせて不毛な逃走劇を夜明けまで続けたいのか訝しむ。
     ふと、外階段が設置されたビルが目に飛び込んできて、何かと見上げると複数の店名が記載されたフロアガイドから、雑居ビルなのだと知れた。階段の上からの襲撃、というアイデアが二人の脳裏に浮かび、迷わずに階段を駆け上がる。
     途端に背後から、大仰な音楽だかBGMだか分からない音が鳴り響いたので、先手を打たれたのかと顔を見合わせるが追手の気配も、正体不明の音楽が止まる気配もない。ちょっと屋上まで上がってみるか、と顔を見合わせる。
     どうやら今侵入してきたビルの向かいの建物の壁に、立体映像が投影されているらしい。結婚式場のようで、装飾的な白い壁が夜目にも明るい。その白い壁を一層明るく照らし出しているのは三角形や四辺形の光が青白く、あるいは黄色く、菫色の夜空にも見える背景の中に輝いている。
    「おい、追っ手が呑気に鑑賞かよ」
    檸檬の言葉に視線をずらすと、暗い中に溶けるように黒っぽい服装に身を包んだ男たちが壁面を眺めているのが見える。突如始まったパフォーマンスに見惚れる物騒な男たちというのも間抜けだな、と口角が緩む。
    「もう見失っただろ。ちょっと俺たちも見ていくか」
    と、柄にもなく呑気なことを言ってみる。すげえな、こんな風に見えるのかよ、という檸檬の感想を小馬鹿にするように、ビル風が吹き上げてくる。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💒💒💒👏👏👏☺☺☺🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works