火花 もう季節は夏の初めで、夕暮れが近いとはいえ、歩いていると汗が顎を伝う。
冨岡は鬼殺隊の任務で、夕暮れに他の隊士たちと落ち合う場所に向かい、徒歩で移動しているところだった。
落ち合う場所は山の中なので、少し前から、緩やかな勾配を登っている。そこら中で蝉が鳴いていてうるさいくらいだ。朱色の蜻蛉が一匹、近くを飛んでいる。いわゆる赤蜻蛉だが、暑さに弱いので、夏の間は涼しい山にいて、秋になると平地に降りていくという習性がある。
傍目には、彼の様子はいつもとまったく変わらないように見えるだろう。なにしろ、話すことも怒ることもほとんどなく、笑顔に至ってはほとんど誰も見たものがいないという男なのだ。
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