迷子「うーん?ここ⋯どこだろう⋯?」
見渡す限り同じような扉が並び、奥に長く伸びているそこは軍事施設の廊下だった。
「困ったなぁ⋯これから会議だって、シンが言ってたのに⋯」
少し前も同じく迷子になったなぁとのんびり考える。
確かその時もここだった。
あの時は確か⋯
そう考えていると後から声が聞こえる。
「おい!キラ・ヤマト!貴様こんなところで何をやっている!?」
大きな声で廊下に響き渡るその声の持ち主は、怒り心頭といった様子でこちらへと足早で近付いてくる。
パツンと真っ直ぐ切られた銀髪の持ち主。
「あ、イザーク・ジュール少佐?」
「⋯なんでフルネームなんだ⋯しかもどことなく疑問系だと?」
ピクピクと口元を引き攣らせた彼に怒りマークが見えた。
あ、やばいかも。そう思った瞬間。
「貴様はまたこんなところで迷子になってるのか!?一体いつになったら場所を覚える!」
「ええーと⋯」
怒鳴られて少し萎縮してしまう。
目線をうえの方へ泳がせる、ここは笑って誤魔化そうと考える。
ここに来て1週間。
何度もこの施設には来てはいるが、いつも人に案内して貰い自分は着いて行くだけなので初めから覚える気がない。
その為一度部屋を出てしまうと分からなくなるのだ。
そもそも同じような扉で、特に表示も無いこの施設も悪くないかな?
なんでみんな分かるんだろう。
うーんと考え込んでいると、イザークに手を取られる。
「埒があかん!ほら!行くぞ!」
「え?」
「またこの間のように逃げられると困るからな!俺も同じ会議に参加だ!ついでに連れて行ってやる!」
「えーと、はい。お願いします⋯」
手を繋いだままイザークは歩き出す。
白服2人が手を繋いで歩いてる姿は他の人間から見たらおかしな光景だろう。
だが生憎とこのフロアには今キラとイザークしかいない。
ぼんやりと連れられるままイザークを見ていると急にイザークの足が止まる。
なんだろうと考えていると、チラッとイザークがこちらを見る。
「⋯そんなに見られると穴が開くだろうが⋯」
「え?」
ボソッと呟いたイザークの声は聞こえなかった。
「⋯なんでもない!それよりも、俺の事はイザークで構わん!」
「んん?」
なんかいきなり名前で呼べといわれた。
確かこの間はイザーク・ジュール少佐だと強調して言われたからそのように呼んだのだが、お気に召さなかったのかな?
「えーと、イザークさ⋯じゃなくてイザーク」
「ふん!」
そっぽを向いたイザークの耳元が薄ら赤くなっているような気がする。
「⋯僕の事もフルネームじゃなくて、キラって呼んでください」
何となく名前で呼んで欲しくてお願いしてみた。
「ぐっ⋯わ、分かった!ほら、行くぞ!キラ!」
イザークの意外な一面が見れて口元がゆるくなる。
やはりこの人は優しい人だ。
言葉は厳しいけれど、色々気に掛けてくれる。
准将なんて大それた肩書きを持った自分を、遠巻きに見るでもなくちゃんと1人の人間として見てくれる。
アスランは僕がザフトに入ることを心配していたけど、上手くやれそうだ。
ちゃんとアスランにイザークは優しい人だよって教えてあげないとね。
目的地に到着前に繋いでいた手を離し先にイザークが入る。
キラも続けて入ると、キラの姿を見つけたシンが慌てたように向かってきた。
「もう!キラさんどこいってたんっすか!?あれだけここに居てくださいって言ったのに!」
「えーと、ごめんね、シン」
「全く!危ないって何度言ったら!」
「五月蝿いぞ!貴様ら!会議もそろそろ始まるんだ、早く席につけ!」
キャンキャン騒ぐシンにイザークが怒る。
流石のシンも他の隊長であるイザークに言い返すことは無かった。
渋々黙って、シンはキラの手を引いた。
キラが座れるように椅子をひいてくれ、素直にそこに座る。
「⋯これ、会議の資料です」
「ありがとう」
キラの後ろに立ち、キラの副官としてシンは仕事モードに切り替えたようだ。
年下のシンの様子を見て、キラも軽く笑うと軽く息を吐く。
顔あげるとこちらを見ていたイザークとイザークの後ろに控えていたディアッカと視線が合う。
ディアッカは片手をあげて笑っていた。
イザークはなんだか難しそうな表情で不機嫌そうだった。
また飽きられちゃったかなぁー。なんて考えながら始まる会議に集中する事にした。