【荒船哲次の場合】
『残念すけど、あたし、この度当真先輩の"唯一の愛弟子"になるのでその誘いには乗れませんね!ッ隊長!』
「は?!」
ニッと笑った猫目の頭上から降ってくる追尾弾を見開いた目で捉えた俺は驚きのまま強制帰還を余儀なくされた。
ボスッと緊急脱出先のベッドに落ちるとオペレーターデスクの方から半崎がひょこりと顔を出した。
「はー、ダルいっすわ……」
普段なら開口一番ダルそうな顔を隠しもしない半崎に、もうちょっと隊長を労うとかあるだろ、などと言うものだが今の荒船にはそんな余裕はなかった。
「半崎、お前知ってたか?」
「夏目のスコーピオンっすか?玉狛でレイジさんに教わってるってのは聞いてましたけど。」
「レイジさんに?!うらやま……ってそうじゃねぇよ!当真だよ!あの野郎、いつから夏目に手出しやがった?!」
「大体夏目も夏目だ!なんで当真なんだ。師匠にするなら日浦の師匠だった奈良坂でも、なんなら俺らでも良かったはずだ。なんで当真なんだよ。」
一度飲み込んで容量を得てからは非常に優秀で、覚えたことは滅多に忘れない。経験がそのまま糧になる大器晩成型だと荒船は踏んでいた。
何より問題なのは
「4歳も年下の女子高生を中学生の頃から女として見てたロリコンに夏目は渡せん!」
「荒船くん、頑固なお父さんみたいね」
「頑固オヤジか、荒船」
「ダルいっすわ……」
「ウグッ」
隊員たちの容赦のない言葉の槍に刺されても、可愛い妹分をロリコン野郎の毒牙にかける訳にはいかないのだ。
「確認した方がいいんじゃないか?経緯を」
「夏目から頼んだんじゃないっすか?当真さん、自分から弟子取ろうとしたことないっすもん。」
「そろそろ講評流れるよ〜」
穂刈と半崎に頷いた荒船は、本日の解説に座る敗北の一因であるリーゼントの言葉を待った。
「あいつやっぱ確信犯だ!!!!」
「よっ荒船!ランク戦じゃ俺の愛弟子が世話んなったな〜!」
出会い頭に見るからにご機嫌な顔で話しかけられ、思わず言おうと思っていた言葉が全て引っ込んでしまった。
「荒船先輩?ちょっと!リーゼント先輩反対向いて!!」
しかし、当真の肩から聞こえた声の方へ顔を向けた荒船は再び般若顔にならざるを得なかった。
「荒船先輩!ランク戦お疲れ様でした!」
くるりと反対を向いた当真に担ぎあげられたまま、ニコリと笑ったのは件の夏目出穂である。
彼女は今米俵のように当真の肩に担ぎあげられており、当真が後ろを向かないと顔を見て会話が出来ない状態であった。
引きつった笑みで出穂にあぁとかうんとか適当な返事を返した荒船は、後ろを向いている当真の尻を蹴った。
「ってぇ!なにすんだ荒船!」
当真がぐるりと振り返り、再び出穂の腰が現れる。
換装体を解いた彼女はもちろん高校の制服を身にまとっており、そのスカートがかなり際どい位置にあることに本人達は気づいていないのだろうか。
「何してんだはお前だ!年頃の女子高生を米俵みてぇに担ぎやがって!」
じゃあな〜、とご機嫌に歩き出した当真が荒船の横をすり抜ける。
再び荒船の方へ顔が向いた出穂がニコニコと手を振っているのを見て、荒船は何も分かっていない2人に盛大なため息をついた。
追いついた穂刈が荒船の肩をポンと叩く。
「俺は…諦めねぇぞ……」
弱々しく呟いた荒船の悲しきかな、無謀とも言える粛清という名の挑戦はまだまだ続く。